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非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~  作者: じょー
第二章 まだまだ共通ルート
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よろしくお願いします!


 


 スズのお手並みを拝見させていただいた。


(うん……ま、俺になすり付けただけじゃんね?)


 スズが千夏から問い詰められてちょっとの沈黙。およそ〇,五秒くらい。

 短時間ではあったが、おそらくスズの体感ではもっと長い時間が流れてたに違いない。

 何を考えてたかまでは察しようも無いが、最終的には『ギャルゲーなんて知らないです』と言わんばかりのすまし顔をして、俺が原因とする方法を選んだ。


 しかし、たしかに最適解でもあった。こと千夏においては……それで納得してしまうのだから。

 だとしてもその賭けに踏み切るのには、俺がギャルゲーについてよく話す、ということを千夏が知っているのが前提条件となる。

 でないと「北上が熱く語ってて……」と言ったところで、目の前の千夏はポカンとして時は止まるだろう。

 賭けには勝ったスズ。勝ったから良かったものの、俺にはデメリットしかない台詞でもあった。

 仮に負けていたとしたら――目の前の相手が北上椋一がギャルゲー好きと知らない場合――俺がただ『ギャルゲーについて熱く語る奴』として広がっていく……という、俺にだけ厄介極まりない台詞。

 つまりこの賭け、スズには最初から失う物(リスク)が無かった。


(勘と運のいい奴だこと……)


 今回はたまたま千夏だったから、成功した賭けだ。

 毎回こんな賭けでよくバレずにやってこれたと思う。

 裏事情を知っているとハラハラしてしまうが、同時に、こうして回避してきたのならその強運は凄いと素直に称賛ものだ。

 ……しかし忘れてはいけない。俺がなすり付けられている事を。


『いや、ギャルゲーについて熱く語ったっけ?』

『なっ――――』


 などと言って、スズを絶句させる事が出来たらどれだけ気持ちが良いだろうか。

 だが、ゲームに関してはスズの言われたくない範囲の事だろうから……言えない。言いたいけど。

 それをしてしまうと、関係が(こじ)れる。

 まだ知り合ったばかりの、仲が良いという関係性ではないのに一線を守らなかったばかりに嫌われるのは勿体無い。

『からかう時』と『褒める時』は、見極めないといけない。


「新名さん?」

「……な、なんでしょう?」

「日曜日から、よろしくお願いしますね。千夏も、学校では新名さんのバイト先がバレない様にフォロー頼むぞ」

「はいはい。任されました」


 だから俺は、グッと意地悪を飲み込んで関係の維持を優先させた。

 拍子抜けしたのか、スズが何とも言えない顔を向けてくる。言い争いがご希望なら、また今度二人っきりの時じゃないと。

 今は千夏が居るし、お互いにデメリットしかないからな。


「北上……あんた……」

「はい?」

「……何でもない。今日はごちそうさま。それだけ!」

「お粗末様で。じゃあ、またな」


 スズと友里乃さん、ついでに帰るという千夏を店の入口まで見送る。ようやく一段落、という感じだ。驚きの連続で最初は疲れたが、受け入れてしまえば楽なもんだ。

 ただまぁ、美少女クラスメイトが再従兄妹なのが……今もまだなんとも言えない感じだ。

 会ったのは小さい頃らしいし、まったく記憶には無いけから親族という感覚が薄い。あれだけの素材なら昔から可愛かっただろうに、覚えてないとは一生の不覚かもしれない。


「そうだ。母さん、小さい頃の写真とか無いの? 俺、まったく覚えていないんだけど」


 昔の姿を見れば思い出すかもしれない。そう思って聞いてみたが、母さんの反応はイマイチだった。


「お母さんの手元には無いわねぇ。友里乃に頼んだら持ってるでしょうけど」

「まぁ、そこまでしなくても良いけどさ」

「そうだっ! 椋一、アレならあるわよ?」

「アレ、とは?」

「覚えていない? たしか四歳か五歳の頃だったかしらね……スズちゃんとぬいぐるみ交換してたじゃない?」


 …………そんなことしたっけ?

 お気に入りのぬいぐるみを交換とは、子供にしては乙で微笑ましい事をやっているけど覚えてない。

 自分が何を贈ったのか、貰ったのか。


「それってどこに?」

「物置の、あんたが小さい頃に使ってたおもちゃ箱の中ね」

「手掛かりがそれだけだもんなぁ……ちょっと探して来ていい?」

「アンタ、本当に覚えてないの? 会った次の日とかスズちゃん! スズちゃん! ……って言ってたのに?」

「子供の記憶力はそんなもんだから! あと、捏造(ねつぞう)じゃなかったら恥ずかしい歴史だから変な事は言わないで……」


 無邪気な頃は誰にでもある。そう、きっと子供の頃の俺も無邪気だった。

 だから、出逢った女の子と子供らしく楽しく遊んでいたのだろう。次の日にまで引きずるくらいに。

 それが……大人に近付くにつれ、時が経つにつれ、今を大事にする気持ちが強くなり、昔の事がどんどん薄れていった。

 それはある意味、新しい事をどんどん覚えていく成長の証だと思う。

 小さい頃の記憶を覚えている人は、単に記憶力が良いだけか、そこが何かの分岐点になった人か、嫌な思い出のある人くらいだろう。

 不思議と人は、楽しい思い出よりも辛かったり苦しい記憶の方が鮮明に残ってしまう気がする。怒られた事を忘れないのもその一環だろう。

 つまり、俺にとっては楽しかった時間だったかもしれない。けど、スズにとっては忘れたくても忘れられない時間だった可能性もある……。


(それを忘れてるとしてら……めちゃくちゃ失礼だよな……)


 子供の頃の自分がスズに対して意地悪を働いていた、なんて可能性も十分に考えられる。

 それを今でも根に持っているとしたら、復讐として俺の嫌がる事を仕掛けてくるという事も当然考えられる。

 美少女がそんな事をするか? ――美少女ならしないだろう。

 しかし、相手はもうただの美少女じゃない、スズだ。スズならやりかねない。


(これはもう……戦いは避けられないな。こちらも手札を増やさなければ)


 今は圧倒的に俺が不利な立場にある。手数の少なさがその原因だ。

 家の裏口から出て、ちょっとした庭の端に置いてある物置。そのぬいぐるみを探しに来たのも、スズに対する仕返しへの策にするためだ。

 二人に共通する思い出なら、俺にとっての恥ずかしさダメージはスズにとっての恥ずかしさダメージになり得る。

 それは千夏でも確認済み。昔の事を言うと、言われ、二人して傷を抉られるウィンウィンならぬルーズルーズになるだけだと。


「ぐっ、立て付けが悪いな……よし、開いた」


 ギィィ……と音を立てて開いた物置。

 (ほこり)っぽさが、この空間だけは過去から時が止まっていると錯覚させる。

 見覚えのある物、ない物。最後に開けたのがいつだったか……とにもかくにも懐かしい感覚になる。

 目当てのおもちゃ箱はすぐに見付かった。ガムテープで密閉された段ボールに『おもちゃ』と子供の字で書かれてあった。


「懐かしいな」


 子供っぽいおもちゃから離れたのは割りと早かった気がする。それ以降はずっとゲームにハマっている。

 それも子供っぽいと言われればそうなのかもしれないけど、今は高尚(こうしょう)な趣味『ギャルゲー』をやっているから子供っぽくは無いな。


 早速、ガムテープを剥がして中身を確認していく。

 車のおもちゃ、ボール、謎のロボット……どれも昔に遊んでいた記憶がある。だんだんと(よみがえ)ってくる。

 その中にひとつだけ、他とは違うものがあった。傷まない様に段ボールの中で更に白い箱に入った物。

 だか、何となく分かった。これが目当てのぬいぐるみだと。


「よし。中は……」


 箱を取り出して、その中身を確認する。


「――――――(絶句)」


『ハーフウサギさんイメージ図』

挿絵(By みてみん)



 子供が貰ったら泣き出しそうなくらい感情が無いぬいぐるみが出てきた。

 だが同時に、あの頃の記憶がフラッシュバックしてくる。

 たしか……ぬいぐるみを交換……いや、奪われたのだ。俺の持っていたペンギンのぬいぐるみと、この独特なセンスをしたウサギとを。

 泣きながら持ち帰って、すぐに箱に入れて封をした。あの頃はまだこれが怖すぎて、飾るのも躊躇われたのだ。

 そして封をしたのはこのぬいぐるみだけじゃない、自分の記憶もだ。

 子供の頃の俺は忘れたかったのだ、その日を。女の子にぬいぐるみを強制的に交換されたあの日を。


「今見ると可愛くも思えるが……最悪な思い出じゃねーか」


 ぬいぐるみと一緒に、嬉し恥ずかし婚姻届みたいな思い出の品が出てくるとちょっと期待していた自分が居た。

 だが、そんな紙どころかぬいぐるみ以外には何も見当たらない。これでは切り札には程遠い。

 王道を行かないスズと、忘れていたかった記憶にガッカリした。


「状態は綺麗だし、部屋に飾っといてやるか。ゴメンな、お前を怖くてすぐ段ボールに片付けて」

『…………(キラン)』

「今、目が光った様な……いや、気のせいか」


 何故かこのぬいぐるみを見ているとどんどん可愛く思えてきた。

 早く部屋に飾って名前を付けてあげないといけない……そんな気がする。


「あ、でもちょっと埃臭いし洗ってからでいいか」

『…………』


 洗濯したら、不思議と先程まで感じていた可愛いらしさを感じる事は無かった。

 むしろ、何故これを可愛いと思ったのか疑問が浮かぶ。やはり目が光ったのも、おそらくは気のせいだったのだろう。

 ともあれ、ひとまず部屋には飾っておく事にした。インテリアとして少しは俺の部屋を明るくしてくれるだろう。


「椋一、そろそろ店に戻りなさーい」


 母さんからの呼び出しに、ウサギを置いて俺は部屋を出た。

 夜の時間帯に来るお客様への料理を作ったり、お酒を提供したり。今日もそれなりに暇だった喫茶店の営業時間が終わっていった――。




可愛いウサギさんだなぁ(  ̄- ̄)


誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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