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非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~  作者: じょー
第一章 いわゆる共通ルート
3/71


ヤバい……風邪を引いたかもしれません

( ゜д゜)、;'.


と言うことで、特別に3話を……先行配信です(明日は明日で4話を投稿する)


よろしくお願いします!



 


 途中、何度も首を回して軽く後ろを確認してみたが、怪しい人は居なかった。普通に歩いている人は居るが、それだけだ。

 尾行されている気はするのだが……怪しい影はどこにも無い。


(気のせい……か。うん。気のせいだな。気のせいと思おう……怖いから)


 尾行される理由は無いはずだ。悪い事も良い事も何もしていないと思うし……。だからこそ、不気味さを感じてしまう。

 途中からやや早歩きに変え、無事に喫茶店の前まで着いた瞬間に急いで扉を開けて中に入った。


「あらっ? おかえり椋一。どうしたの? そんな急いで入ってきて」

「あ、いや……」


 どうやら朝の気怠い感じはすっかり抜け、接客モードになっている母さんに理由を説明しようと思った――その時だった。


 ――カランコロン。


 喫茶店の入り口に付いてある鐘が鳴った。それは、誰かが出入りしたという合図。

 だが、あり得ないタイミングだ。

 外に、俺が入ってからすぐに鳴る程の距離に人は居なかったはずで、もちろん出て行く人が居たわけでもな――――。


(いや、違うのか? ……俺が、ただ視認出来てなかったのかもしれない?)


 一人だけ、そんな人物に心当たりがあると思い出して、思いきって振り返った。そして、視線を下げる(・・・・・・)


「ほっ。やっぱり……(かえで)ちゃんだったんですね」

「りょーいち君! 楓ちゃんって言わないでって言ってるでしょ! 私の方がお姉さんなんだよっ!?」


 我が校で、ある意味有名人な三年生の先輩。たしかに法的には歳上になっているかもしれないが、俺は認めていない。

 人の背中に張り付けば振り返っても確認出来ない程の体躯(たいく)。その上、小学生並みのイタズラ心を持ち、声すら幼いとくれば……それはもう俺の理想とする『先輩』というカテゴリーからは外れてしまう。髪型もゆるフワッとした二つ結びで、可愛い寄りだしな。


 綾織(あやおり)(かえで)十七歳――ギャップ『保護対象な見た目』


 たしかに、(おさな)い先輩というジャンルは逆に王道なのかもしれないが、逆な時点で俺の王道とは違う道である。

 理想とする先輩像とは――後輩を導き、頼りになるがたまに可愛い姿を見せてくる。そんな姿であり、それがベストだ。


 それなのに楓ちゃんときたら、最初から『可愛い』の一点張りである。犬、猫、楓ちゃん。この先輩は、もはやそういうジャンルなのだ。


「はいはい、分かりましたよ楓ちゃん」

「分かってない!? 私の方がお姉さんなのに……」

「椋一! 楓ちゃんを泣かせちゃ駄目でしょ!! 謝んなさい」

「ご、ごめんね楓ちゃん。楓ちゃんって言わない様に気を付けるから」


 楓ちゃんに謝りつつも、内心ではやはり先輩では無いと思っていた。楓ちゃんは気付いていないのかもしれないが……母さんの対応も、完全に高校生相手ではなく幼い子に対するソレだ。


「そ、それで楓ちゃんはどうして喫茶店(ここ)に?」

「ふんっ!」

「……楓お姉さんはどうして喫茶店に来たのですか?」

「ふふんっ、後輩君には教えてあげましょう! それはね、私がここの常連客だからだよっ!」


 それは知っている。この喫茶店における数少ない常連客の一人。

 たいして珍しいメニューが無い代わりに、少しだけ財布には優しいだけのこの喫茶店。

 一見(いちげん)さんがほとんどであり、常連となる人が現れる確率は相当低い。そもそもの来客数は多くないし、積極的に宣伝はしていない……という理由も確率を低くしている要因になるだろう。

 分かってても改善しない辺り、母さんの趣味でやってる感がより強まる事だろう。実際にそうなのだから、何とも言えないが。


 そんな中で楓ちゃんは、たまたま現れた店に通ってくれる大事なお客様だ。例え、先輩とは微塵も思えなくとも立派なお客様ではある。


「楓ちゃん……それだとまったく理由になってないんですが」

「そ、そんな事ないよ! 常連さんなんだから来るのに不思議な事は無いんだよ。あと、楓ちゃんじゃないでしょっ」


 たしかに、常連客が店に居る事に不思議さは無い。

 ただ、聞きたいのはそういう事ではなく『何で始業式終わったその日から?』という事だ。

 普通こんな日はさっさと家に帰って、千夏みたいに遊びに行くのがセオリーだろう。


「ほら二人共、入口で止まってないの。椋一、席に案内しなさい」

「あ、うん。楓ちゃんとりあえずこちらの席に」


 いつもの窓際の席へと案内する。

 何はともあれ、お客様が来るというのはお店にとって良い事だ。

 理由が気になりはするけど、詮索する必要性はまったく無い。

 楓ちゃんみたいに、マッタリをご所望な方も居るのだから、理髪店みたいにアレコレ話し掛けて、プライベートに踏み込む様なマネは基本的にしない方が良いだろう。


「楓ちゃん、いつもので?」

「うん! いつもの、で!」


 楓ちゃんのいつもの――チーズケーキとミルクティー(甘め)。

 これはあくまで俺の予想でしかないが、楓ちゃんが常連客となった理由はこのやり取りをしたいが為だと思っている。


 大人っぽいやり取りに憧れる気持ちは分かるのだが……楓ちゃんがやると何かが違ってくる。空気がフワフワしたままで、ピシッとは決まらない。

 ここがBAR(バー)の様な薄暗い大人な空間じゃないのもあるかもしれないが、大半の原因はやはり、楓ちゃんに大人っぽさが足りないからだと思う。


「そうだッ!? 母さん、チーズケーキは作った?」

「あー……回復したのがさっきなのよ。だから……ね? 仕方ないわよねぇ。あっはっはー」


 俺が朝に作るのは、苺のショートケーキとチョコレートケーキのみで、チーズケーキは母さんの担当だ。朝の様子を思い出して、俺がやっておけば良かったと今頃になって後悔し始めた。

 ケーキの種類は、季節によって作ったり作らなかったりするのだが、定番として置いているのは三種類だけである。


(どうする? いつものケーキが無さそうな雰囲気を察した楓ちゃんがガッカリしてるぞ……)


 何故、この店の品数が少ないかと言うと……それは、夕方からのメニューにも材料費を割かなければならないからだ。客単価を考えると、どうしても夜メニューの方に比重を置いてしまいがちになる。


(今からチーズケーキを作るか? でも楓ちゃんの胃袋が我慢出来るか……無理そうだしなぁ)


 昼間はカフェとして営業しており、夕方からは食事処的な要素を取り入れて営業をしているのだが……お金の問題はシビアである。

 つまりは、スイーツばかりにお金を回すことが出来ずに、ケーキの種類を豊富にしてやれないのが現状だ。今回は母さんが悪いのだが、種類が多ければ楓ちゃんの選択肢だって増えたのに……とは思う。

 だが、そういうスタンスでやっているし、ある程度の妥協はしていかないといけない。


 繁盛して、儲かれば品数を増やせるのかもしれない。だが、そうなると別の問題が増えるだけなのは目に見えてる。

 それは、第一にして最大の問題……俺が過労になってしまう事だ。朝と夕方にお手伝いをするくらいの今なら、とても楽しくやれている。それがもし、家族経営なのを良いことに粉骨砕身の思いで働く事になれば……俺は、家出少年になってしまうかもしれない。


 人が増えれば効率良く仕事が出来るし、メニューも増やせるのだろうが、店側に立って考えてみると、二人でどうにか出来ている今の状況ならそれで良いと考えてしまう。

 個人的には一人くらい接客担当で雇って欲しいとは思っているけど……何事もバランスが大事で、中々に難しいものだと痛感していた。

 楽しみにして来てくれている楓ちゃんみたいなお客様の為に、出きる限りはしてあげたいと思う。けど……母さんを納得させるだけの理由がなければ、俺からは何も提案する事ができない。


「そうだ! 椋一もお昼ご飯はまだでしょ?」

「うん。まぁ、持っていかなかったしね」

「楽しみにしてくれる楓ちゃんの為に、謝罪の意味を込めて椋一がホットケーキでも作れば良いんじゃないかしら? 椋一はお昼、楓ちゃんは裏メニュー食べれるし、お母さんのミスも少しは帳消しで……一石三鳥じゃない!」


 まるで……良い事を思い付いた! みたいに言っているが,つまりは母さんのうっかりの尻拭いをしろという話。

 こんな会話が出来る程の余裕があるはずなのに、どうやらホットケーキは俺が作らないといけないらしい。

 母さんが作ってくれれば、本当に一石三鳥なのかもしれないが……俺にその指示だけを残して、母さんは別の作業に移ってしまった。


「裏メニューなんてあったの? 常連なのに知らないんだけどっ!!」

「あれは母さんがテキトーに言ってるだけですよ。……チーズケーキの代わりになるかは分かりませんけど、ホットケーキで良ければ食べますか?」

「うんっ! ……おっと、コホンコホン。危ない危ない。優雅さに欠けるところだったよ。りょーいち君、まずはミルクティーをお願いするんだよ」

「……(うけたまわ)りました」


 優雅さ。その判断はその人個人の価値観によって左右させるのだろう。

 楓ちゃんは、今の自分を優雅にティータイムをしている大人のお姉さんだと思っているのかもしれないが、俺から見ると……バタバタしている足と目の輝きが、楽しみを控えた幼き純粋な子供にしか見えない。

 だけどここで、自分に酔い始めた楓ちゃんに失礼な事を言うのは流石に野暮だろう。

 俺は、余計な事を言いそうになっている口をソッと閉ざした。そして、カウンターの裏に移動して鞄を置き、接客モードに入ってく。

 すぐさま楓ちゃんの注文通りに甘いミルクティーの準備に取り掛かり、頭の中ではホットケーキのちょっとしたアレンジについて思考し始めていた。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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