②⑤
一章はここで区切りですね!
まぁ、次もいわゆる共通ルートその2みたいな感じですけど!
あと、毎日更新もここで終わりですね、残念ながら(´ω`)
あとは、まったりといきましょう!
では、よろしくお願いします!
「ん…………んぅ~~はぁ……さて、起きるか!」
アラームを止めて、上半身を伸ばす。何とも言えないこの感覚が、気持ち良い。俺は朝一回くらいなものだが、猫がよく伸びをしている事に共感はできる。
まだ半分しか開かない目で、ぼんやりと隣を見る。
「すぅ……すぅ……」
静かな寝息。まだぐっすりと千夏は寝ている。一応アラームは鳴ったのだが、その程度じゃビクともしないらしい。
何だか……寝る前に恥ずかしい会話のやり取りをしていた気がするが、曖昧だ。
とりあえず静かに動いて、千夏を起こさない様に部屋を出た。
洗面所で顔を洗い、サッパリしてから調理場へと向かう。
――朝六時。いつも起きる時間よりは一時間ほど遅いが、さっそく開店への準備を進めていく。今日は知り合いが来る予定は無いし、いつものメニューだけを作れば問題ない。
「椋一、昨夜はお楽しみでしたね?」
「いや、何言ってんの。息子の貞操観念は意外と堅いからね?」
「駄目ねぇ……いざって時は狼になるくらいじゃないと。オホホ」
ちょっと古いお決まりの台詞を言いながら起きてきた母さん。ウチはいつから宿屋になったのだろうか。
早めに寝たのも、千夏よりも早く起きてきたのもいろいろ危ないからだ。お泊まりをした事は今までもあったが、小さい頃以来である。
久しぶりにお泊まりをしてみて分かった――もう、ギリギリ駄目であると。思春期を他人事としてみていた。
「オホホじゃないよ。起きたなら早く準備してくれ」
「はいはい、朝からせっかちねぇ。コーヒーくらい飲ませなさいよ。要る?」
「……要らないこともない」
コーヒーを飲んで目を醒ましたら、また準備を再開させる。
スポンジケーキを作る段階までは終えて、あとのケーキ作りは母さんに任せ、俺は朝食の準備に移った。
今日は千夏の分を含めて三人分。親戚が泊まりに来たとか、初めて泊まりに来た友達とかなら多少は良いメニューを用意するが、そこは千夏……簡単でも問題ないだろう。
「椋一、千夏ちゃんを先に起こしに行ったら? 時間掛かるんでしょ?」
「そう……する。何か飲ませて待っててもらう方が、朝食も冷めなくて良いかもしれないし」
先に炊飯器のスイッチを押してご飯を炊いておく。
もう七時頃で、起きる時間としては丁度良い具合だ。
(よし! 気合いを入れていくか! 今日はマスタード入りサンドイッチも作ってないから素手での戦いになるしな!)
意気込んで部屋に戻り、それほど体勢の変わっていない寝相だけは良い千夏の枕元に立つ。
「千夏、朝だぞ。起きろー」
まずは、声を掛けながら軽く肩を揺らす。
「んっ!」
肩に置いた手を振りほどく様にそっぽを向いて、より深く布団に潜り込む千夏。まだ計算の範囲内である。
「せーのっ、はいっ!」
一気に布団を剥ぎ取ってしまう。結局、人を起こす手段として、これ程までの嫌がらせは無いだろう。
人の睡眠は、布団の温かさありきの睡眠なのだ。それを奪ってしまえば、自然と目が覚めていく。ついでにカーテンも開けて、光を部屋に通す。
このダブルパンチなら、千夏も起きざるを得ない。
モゾモゾとしてきている……もうすぐだろう。千夏とは、ここからが勝負なのだ。
「うぅ……――運命神しゃま?」
「は?」
――はて、運命神とは。聞き覚えがあるような無いような……。
千夏はいったい、どんな夢を見たのか。ずいぶんと変な夢を見たのだけは分かる。
ゆっくりと身体を起こして、ベッドの上で女の子座りをしながら目を閉じて祈りのポーズをしている。ここを神殿か教会か……そんな風に思っているのかもしれない。
「運命神しゃま……お願いがありゅのでしゅ……」
「う、うむ。私が運命神。紛うこと無き運命神。どうぞ?」
「はい……椋一が……大きい胸に囚われてしまっていりゅのでしゅ。どうか、救ってくだしゃい……」
(この子何を願っちゃってんの!? 別に囚われてませんけど! 自分の手に余っても構わない物一位ではあるけれど、別に大きさで何かが変わる訳じゃないんですけどっ!)
どう誤解を解くか。これは逆に良いチャンスなのかもしれない。
意識があやふやである今の千夏なら、上手く誤魔化せる可能性がある。
……そんな事が仮にも出来てしまうと、それはそれで心配になるのだが。
「う、うむ……落ち着くのだ人間の少女よ。彼の者は別に胸で人を選ばぬ。そう、特に気にする事はない」
「んー? お救いくだしゃい……」
「ほら、一旦お眠りよ? うん。一回、寝ようか。また後で起こしに来るから」
「むにゃむにゃ……」
千夏を仰向けに寝かせて布団を掛けてやると、スヤスヤと眠りだした。
やはり自力で起こすのは困難を極めるみたいだ。特に、今日みたいによく分からない夢を見た日は。
「仕方ない。ご飯が出来てからまた起こしに来るか……」
――それから三〇分もしない内に、俺はまた千夏を起こしに戻って来た。……のだが、むにゃむにゃ何かを言って全然起きない千夏。
こんなに眠たい人を起こすのは罪悪感も多少はあるのだが、もう朝食は出来上がって、母さんも下で待っている状態だ。
片付けやら店の準備があるから早く食べて欲しいのが本音。
「ほら、おんぶするから」
「うんめーしんしゃま……」
最終手段的に、無理矢理にでも上体を起こして背中にどうにか乗せ、一階まで運んで行く事にした。一般的な女子よりは筋肉質だし、重いのかと思ったが……意外と軽い。そして、ちょっと柔らかい。
「むしゃむしゃ……」
「食べないで!? あと耳は弱いからあんまり喋んないで……」
階段が難所ではあったが、どうにか転ばずに下の喫茶店スペースまで辿り着いた。
「あら、運んできたのね?」
「仕方なくね。優しく起こそうとすると、千夏は絶対起きないし」
「ふにゃふにゃ……」
椅子に降ろしてもまだ目を完全には開けていない。たまに開いたかと思えば、また閉じてしまう。
「ふふっ……千夏ちゃんは駄目みたいね?」
「普段からぐぅ~たらしてるからだな、まったく……。もう、先に食べてようか」
「そうね。そのうち目も覚めるでしょうし」
俺と母さんだけ先に食べ始める。そして、今日の予定について簡単に確認をしておく。
毎週日曜日はお客様の数は少ない。そう忙しくならない日ではあるのだが、近所の馴染みの店へ買い物に出掛ける日でもある。今のところその役目は母さんだから、俺は留守番をしていなければならない。
まぁそれでも、昨日の夜それほど遊べなかった千夏と遊ぶ事も可能だろう。
「なるべく早く起きてくれよな」
「むにむに……」
――結局、千夏が自然と目を冷ましたのは八時を回った頃になってからだった。
起きて喫茶店の椅子に座っている状況に驚いていたが、すぐに朝食を発見しては食べ始めた。
「ねぇ、今日は変な事言ってなかった?」
「ん? もちろん言ってたぞ。運命神がどうとかって」
「は? 何よそれ」
やはり寝ボケている最中の事は覚えてないらしい。治るものなのかすら怪しい癖だ。
「知らんよ。早く食べて、家に帰るんだぞ」
「はいはい。どうせ暇だし、課題も中途半端だからまたすぐに来るわ……というか、椋一がママに言いに行ってくれれば帰る必要無いんだけど?」
「俺がお前の家に行ったら面倒な絡まれ方するのは目に見えてるからな、それに、ちゃんと帰ってこないと心配するだろうよ」
隣とはいえ、やはり顔を見ないと両親は安心は出来ないだろう。そこら辺の細かい部分を守ってこそ、次も許可が出るというもの。
まぁ、もうしばらくは泊めるなんて精神衛生上よろしく無いから遠慮させて貰うけど。
「……ごちそうさま。じゃあパッと行ってくるから!」
手を合わせるまでは良い子なのに、そのままパジャマ姿で帰っていくのはまさに非行少女さながらである。
◇◇◇
「ねぇ、ゴールデンウィークだけど。お嬢様達はみんなお出掛けで、楓ちゃんも家族と出掛けるって話じゃん?」
店が開店してからしばらく。千夏はちょっとだけ家に顔をだしてすぐに戻って来ては、俺の部屋で二度寝をしに行った。
そのまま寝ててくれれば楽だったのに、起きて来ては来月頭の大型連休の話をし始めた。
非公式交流クラブの為に作ってるカレンダーも、ゴールデンウィークだけはスカスカになっている。
それ意外の土日に関しては、入っていたり入っていなかったりとまちまちで……まぁ、お嬢様達は休日も忙しい日が多いのだと察する事ができた。
カレンダーに千夏の名前は無く、つまりは気分で来るという事なのだろう。
「そうだな。ゴールデンウィークな。客が少ないからゲームし放題だ」
「む……遊びに行ったりしないの?」
「家でゴロゴロしてた方が良くないか?」
「そう言われればそうだけど……あーもう! いい!! 友達と遊びに行ってくるからっ」
フンッと不貞腐れる様にカフェオレをストローで吸い、カラコロと氷を鳴らしている。
遊ぶ余裕はあれば良いのだが、店を完全に休みにしない限りは俺に休日は無い。前もって母さんに予定を伝えれば何とかなるとは思うのだが、そこまでして遊びに行きたい場所は思い付かない。
そう考えると……俺は案外無趣味な人間なのかもしれないな。それを寂しい奴だと指差されるのは少しムッとするけど、あまり強く否定はできないかもしれない。
「なぁ、千夏」
「な、何よ。今更遊びに連れてって欲しいとか言ったって遅いのよっ」
「いや、そんな事は別に言わないが……やっぱり俺も普通の高校生らしく遊んだ方が良いと思うか? 珈琲作りや料理を作ったりばかりしてるのは、面白味が無いか?」
部活に打ち込んだり、勉強を頑張ったり、休日にゲーセンやカラオケに行ったり。そういう普通の高校生がやる様な事を俺はあまりして来なかった。
どこに青春を捧げるかは人それぞれだと思っているし、自分の選択を間違っているとは思っていない。
だが、やはり他の人から見れば――俺の生活は楽しくは見えないのかもしれない。
だから千夏に聞いてみた。というか、千夏にしかこんな事は聞けない。
「……何を思ったかは知らないけど、アンタがお菓子を作らなくなったら楓ちゃんが泣くわよ。自分の楽しさの為だけに働いてる訳じゃないでしょ、アンタは」
「まぁ……たしかに。自分が楽しみたいなら部屋でずっとゲームしてた方がずっと楽しいな」
「そゆこと。椋一が普通の男子みたいな生活をすれば、少なくとも三人は泣くって事よ」
「なるほ……三人?」
一人は楓ちゃん。それはさっき聞いたから分かる。二人目は、きっと母さんだろう。俺が手伝わずに部屋に引きこもってゲームばかりしてたら間違いなく困る人物にカウントされる。
「楓ちゃん、母さん……あと、誰か困る人って居るっけ?」
「ふんっ。何でも教えて貰えると思ったら大間違いよ。たまには自分で考えなさいよね!」
またカフェオレを飲み始めた千夏。これ以上問い詰めても、おそらく意味は無いだろう。
とりあえず俺はこのままでも構わないらしい。それだけ分かれば今は良しとしておこう。
「千夏。久しぶりに新作メニューをゴールデンウィーク中に作ってみようと思う! 空いてる日があればで良いから来てくれ」
「行けたら……行く。ま、行ってあげなくもないけど! 予定が空いてたらだけどっ」
コロコロと表情が変わるのが千夏の面白い所だ。怒っていたかと思えば笑顔になり、たまにその逆もある。
ゲームでは無いリアル女子の情報が、今まではほぼ千夏からしか得られなかったから、それが女子の普通だと思っていた。
だけど、常にクールな人も居れば、常にゴージャスな人も居る事を最近になって知った。
そう思えば、やはりギャルゲーは恋愛のバイブルだと言える。
仮に俺がギャルゲーをプレイしていなければ、ノアちゃんや鳳千歳、ましては楼王院麗華みたいなタイプと上手く会話が出来なかっただろう。
(ゲームでは軟派野郎、現実は硬派野郎を気取っている俺なのに……どんどん女子と接する内に軟派な部分が表に出て来ているかもしれない。そこだけら気を付けなければ)
忘れていけないのは現実とゲームの境界線。作られたキャラと現実の人。
それでも、理想を追い求めてしまうから恋愛って難しいのだろうな。彼女なんてゲームの中でしか作った事が無いから偉そうには語れないけど。
可愛い人には格好いい人がお似合いで、それが当たり前で、現実だ。
男女共通で、中身が大切だという言葉はよく聞いたりもするが、外見が要らないとはあまり聞かない。
人それぞれ好みの容姿があって、その基準に近ければ後は中身という意味が大概だ。俺だって、それくらいは理解している。
悔しいが……ギャルゲーの主人公も、顔が見えた場合は高確率で整った顔立ちをしている。イケメンなのだ、結局は。
プレイ中は主人公になりきるから気になりはしないが……こうしてふと考えた時には、どうしても最低限の顔の良さという項目を気にしてしまう。
「次のちゃんとした交流会までに、新しくレパートリーを増やしておくか」
「アンタ、もう交流会に行く必要なくない?」
「――否! 俺は行くぞ、毎回、必ずッ!」
何が起こるか分からないイベントに参加しない訳がない。そんなのは当然の事だ。
ケンゾーとか他の男子ならともかく、千夏は分かってくれないだろうな。低い確率としても、チャンスは自分で掴み取りに行かないということを……。
「どうしてそんなにやる気があるのよ……キモキモよ?」
「キモキモ言うな。別にお嬢様を怖がらせる様な事はしないから安心してくれ。それに、まだ敷地内も行ってない所あるじゃんよ」
来月の交流会はたぶん、一回目の今回よりも荒れる予感がしている。緊張感も薄れ、より積極的に交流する生徒が増えるだろうし。
流石に問題を起こす生徒は居ないと信じたいが……せめて自分はそうならない様に心掛けなければ。楽しいが前提になければ、交流会もたちまち廃止になってしまうだろうし。
「こりゃ、アンタから目を離すわけにいかないかもしれないわね……」
千夏の心配を他所に、俺は既に次の交流会の事を考えていた。洋風庭園以外の場所を訪れるか、思いきって誰かに話し掛けてみるか……。
非公式交流クラブもあるからレア感は他の生徒よりも薄いかもしれない。それでも……やはり実際に香華瑠女学園へ出向く来月の交流会が楽しみなのは変わらない。
「ま、毎日やることやってれば、一ヶ月なんてあっという間か。千夏、飲み物のお代わりは?」
「今は別に大丈夫」
そんな会話をしていると、離れた場所から母さんが声を掛けてきた。
「椋一、お母さん買い物に行ってくるから。少し任せるわよ」
もうそんな時間かと、店の現状を確かめて……今日も特に問題がある訳では無いことを確認した。
数人いるお客様の注文は捌いているし、買い物客は来ていない。
「分かった。帰って来たら連絡して。荷物を店に運ぶくらいはやるから」
「千夏ちゃん、椋一のことお願いね」
「あ、はい! サボらない様に見張ってますね!」
そうして今日も、変わらない日常が過ぎて行った――――。
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