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よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁす!
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『ちょっと提案なんだけどさ、みんなで散歩に行ってくるのはどうだ? 鳳千歳もノアちゃんもこの辺りは詳しくないだろうし、食後の運動も兼ねてさ』
『……怪しいわね』
『なにがっ!? 疑心暗鬼になりすぎだぞ千夏!』
『いいや、絶対に怪しいわね!! どうせまた、アタシ達が外に居る間に誰か連れ込むんでしょ? あーヤダヤダ。イヤラシイったらありゃしない』
正直に言えば、散歩を提案しただけであり、それ以上の事など思ってすらいなかった。行かないのなら、それはそれで良いとさえ思っている。
だから別に、残るという選択を千夏がしても俺は構わないのだ。だが……行かない理由に対し、少しばかり引っ掛かりを覚えた。
たしかにノアちゃんと鳳千歳は千夏が知らぬ間に来たのだが、鳳千歳に関しては俺も知らなかった事だ。そもそも誘っていないし。
千夏に毎回言わないといけないのかという話にもなるが、それを言った所で、ややこしくなるだけだろう。今の千夏は、ちゃんと受け止めてはくれないだろうし。
まぁ、とどのつまり……今日の千夏は何故かとても面倒臭いという事だ。
『今日誘っ……招待したのはノアちゃんだけだし、他に誰が来るっつーんだ? 偶然を抜きにしたらケンゾーくらいだろ?』
『ほら、あのー……楼王院麗華とか?』
『あー……いや、あの人の性質上、来る時はちゃんと連絡があると思うぞ。執事みたいな人が何日の何時に来ますから、みたいなのを伝えに来たりな?』
『……たしかに、それはありそうね』
俺の頭の中に「おーっほっほっほ」と高笑いしている姿が浮かんでいる。きっと千夏もそれに関しては同じだろう。
あの人のインパクトは忘れる方が難しい。しかし不思議と悪い印象は無く、何故か嫌いにはなれない性格をしている。
『なっ! 俺と仲良い奴でお前の知らない奴とかほとんど居ないし、別に怪しくないだろ?』
『じゃあ、アタシ達の散歩中に誰かを連れ込んでたらどうする?』
『どうって……というかオイ!! まず、その表現やめよ!? 電話だから近くに居るみんなに千夏の声は聞こえてるんだろ!? お嬢様二人と純真無垢な子が居るんだから!!』
連れ込むという表現。鳳千歳や楓ちゃんにはやや刺激が強すぎるワードだ。
ノアちゃんは……まぁ、実はノアちゃんが一番しっかりしているから、きっとギリギリ大丈夫だろう。でも女の子だし、本当は大丈夫じゃないみたいな事もあるかもしれないけれど……。
『で、どうするの?』
『連れ込むとかは無いんだけど……。というか、そもそもこれさ……なんで俺がリスクを背負わないといけないんだ?』
『それはー……ほら、ただの保険よ? 連れ込まないなら別に良いじゃない? そうでしょ?』
『それはそうだが……俺ってそんなに信用無かったっけ?』
『信用はしてるけど、それは私の視界に居る時だけの話! 目を離すと何をしでかすか分かったものじゃないでしょ、椋一って』
『マジかよ……。それじゃあ……なに? 俺って、ずっとお前の視界の中に居ないと疑われ続ける訳?』
『そ、そうよ! だから……(もにょもにょ)』
最後の方は聞き取れなかったが、そんなに信用が無かったとは少しショックである。
千夏の中で俺は、監視しておかないと何をしでかすか分からない赤ん坊と同じ扱いだったのか……。むしろ、俺ほど手の掛からない子供はそんなに多くないと思う。朝は自分で起きれるし。
『分かった分かった。じゃあ、俺がみんなを散歩に連れていくから、千夏は店番を頼む。注文を取るくらいは出来るだろ?』
『それはダメ』
『えぇ……もう打つ手無しじゃん……』
『ふふふん! 仕方ないわねぇ……貸し一つで良いわ!』
俺を追い込んだという気分に浸っているのか、声がすこし弾んでいて、千夏の機嫌は先程よりも幾分か良さそうだ。
御大層に「貸し一つ」なんて言っている。それを持ち出すのなら、俺が千夏にだけは負けるはずは無いのに。
・毎朝起こしている件。
・千夏の見栄の為に逆の立場でも受け入れてあげている件。
それ以外にもあるが、俺も今日までの年月で千夏に借りを作っていない訳ではないから、多くは言えない。それでも覚えている貸し借り相殺していったら、この二つは俺の切り札としてきっと残る。それで俺は勝てる。
『週五でお前が作ってる貸し、ほとんど返して貰って無いんだが? くっくっく……毎朝の、アレだ』
『……うぐっ。お礼なら言ってるじゃん……言ってるもん。だから貸しとかじゃないし? トントンでチャラだし?』
語尾が上がり、明らかに動揺しているのが声だけでも伝わってくる。
ゲームをしている人なら全員分かるだろうし、ゲームをしていない人もきっと分かると思うが――チャンス時はとりあえず攻めるのが鉄則だ。
謎の『トントンチャラ理論』を展開する千夏など、電話で拳が来ない事も加味すれば初期装備でも倒せる相手だ。
『なら、俺も千夏がみんなを散歩に連れてってくれたらお礼を言うから、それで良いよな?』
『……良くない。それとこれとは、別! 問! 題!』
だが時に、チャンスと思いきやゲームの仕様で無敵状態だったりする時がある。何をしても意味が無い状態……今の千夏の様に。
そういう時は、キレても良い。綺麗事で収まらない時は言っても良い。
キレても仕方がないとはいえ、キレないとやってられない時はそうするべきだと思う。
いつにも増してワガママな千夏に対して、幼馴染としては違和感しかない。そしてそれを、俺は言わずにはいられない。
『くぅぅ~ッ! もうお手上げよ? そんな面倒臭いワガママ女みたいな事を言うタイプじゃないだろ!?』
『なッ――!? 誰が面倒臭いですってッッ!?』
『ワガママの自覚はあるんだな……一応』
『もう怒った! 表に出なさい!! 私の拳でケリをつけてあげるわ……』
『拳っていうならケリとか言うなよややこしいだろ……そういう時は、カタを付けるとかの方が良いぞ!!』
『意味が通じてるなら……茶々を入れずに素直に受け取りなさいよ!!』
お互いに語尾が強く、言い争いになっていく。ただ、お互いに声量を見失わないくらいの冷静さは持ち合わせているみたいで、お互いの声が直接耳に届く事態にはまだなっていない。
(それにしても……今日の千夏は、いつもに増して感情の起伏が大きいな?)
まるで、朝の寝ボケている時と同じくらい感情の波が浮き沈みしている。
最初はいつも通りかと思っていたのだが……いつの間にか、どこかのタイミングで変になっていた。
運動好きの千夏なら二つ返事で引き受けてくれて、みんなを食後の散歩に連れて行ってくれると思っていた。
こっちの都合が大半だが、気分転換も兼ねれると思って提案したみただけなのに……それがまさか、こんなに渋られるとは予想外であった。
(くぅ……幼馴染の事が一番分からない……)
千夏はこういう奴。と、視界を狭めてしまっていたのかもしれない。
俺のギャルゲ脳を漁ると、今日の千夏はツンデレのカテゴリー寄りの暴君チックなキャラクターになつていると判断せざるを得ない。
これは――対処を間違えると拗れるパターンだ。
(……ええと、こういう時はたしか……)
慎重に、記憶の中からどういう事をすればこういう性質の子が喜ぶのかを探していく。
幼馴染同士が喧嘩すると意地を張って、きっかけが無いと仲直りが出来なくなる。お互いに頑なになってしまい、自分から素直に謝れなくなるのだ。
昔、小学校終わりから中学一年の終わり頃までの期間で、本当に口を聞かないまでに発展きたから知ってる事だ。たしかあの時も……些細な事で喧嘩になってしまった。
一度拗れると長いし、クラスメイト達にも気遣わせてしまう。だから慎重に、本気と冗談との境界線を越えない様にしないといけない。
(――――大丈夫だ信じろ。今の俺は自分を曲げられる柔軟性を持っているはずだ。うん、ギャルゲーの主人公の様に適応力の高い人間になろうと日々頑張っているんだから)
謝れなかった昔とは違う。今は、違う。
その時を経験したからこそ俺は変われた。引き下がるタイミングや冗談と本気の匙加減も覚えてきた。
自分が悪くなくとも、謝って場を丸く収められるのならすぐに頭を下げる。軽い頭だと揶揄される事もいつかはあるかも知れないが、そんな時は自分の好きな言葉を思い出す。
《実るほど頭を垂れる稲穂かな》
簡単に頭を下げる軽い人間ではなく、度量があるからこそ頭を下げられる人間。それが、俺の理想的な大人の姿勢だ。
他の人に理想を求める事が、他の人より少しばかり多いという自覚がある。だからこそ、自分自身にも理想を設定している。
だからプラマイゼロ……と言ってしまうと、千夏のお礼言ったからトントンチャラになる理論と似通ってしまうだろうか。
『――ちょっと言い過ぎた、すまない千夏。幼馴染のワガママを受け止めるのが幼馴染の役割だよな』
『…………っ』
『千夏?』
『……駄目ね、今日の私なんか変だわ。こう……分かんないけど何か変なのよ、ずっと。アンタに気を遣われるなんて情けなくて泣きそうよ。……はぁぁ。仕方ない、貸し借り抜きで散歩に行って来てあげる』
『千夏……!! 助かるよ』
『ふ、ふんっ! 私はリフレッシュの為に散歩に行くだけだから! 戻ってきたらいつも通りになるし……椋一、美味しいプリンを用意しきなさいよ』
そこで通話が途切れる。千夏がポチッと一方的に通話を終わらせたのだ。
疑い深かったり、下手くそなワガママっ子だったり、でも最後の方は自分を省みれるいつも通りに近い千夏だったり……まるで、何かに乗り移られているかの様にコロコロと変わっていた。
性格がブレブレでたしかに変だったが、最後はいつも通りだったし、変だという自分を理解しているのならそこまで心配する事も無いだろう。
(千夏は一人っ子だし、もしかしたらノアちゃんみたいに、気軽に歳上に甘える姿とかが羨ましかったりして……って、千夏に限ってそれはないか! ……無いよな?)
普段は歳下から甘えられる立場の千夏。俺も千夏も一人っ子だし、歳上に甘えるという機会はたしかに少なかった。ワガママとか平気で言い合えるのは、お互いの親くらいなものだろう。
俺にとっては大先輩である楓ちゃん。とても仲良くさせて貰っているけれど、やはり甘えるというよりは、見た目も相まってこちら側が甘やかしてしまう。
そういう事を踏まえると……たしかに甘え上手な子を見ると誰かに甘えたくなる気持ちが沸くのも分からなくは無いかもしれない。
その相手に選ばれたという意味では……思ったほど信用度は低く無いのかもしれないな。たぶんだけど。
(でも、寝起き以外で千夏に甘えられる……とな? ……っ!? ムリムリ、絶対に無理だろっ!! 素面だと流石にこれは無理でしょうよ、お互いに。間違いなく鳥肌ものだし)
だが、幼馴染の困りごとを助けてやるのも幼馴染の役目なのだろう。例えそれに、如何なる羞恥が付き纏おうとやる時が来るかもしれない。
その来るべきの時の為に、訓練しておかないとな。心の訓練を。もちろん、ギャルゲーで。
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