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非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~  作者: じょー
第一章 いわゆる共通ルート
17/71



あと、8話で一章が終わってしまぅぅ~

(;゜0゜)

今回は少し長めです

よろしくお願いします!



 


「へい、お待ち! バゲットで作った『溶かしチョコ&ホワイトチョコ染み込ませ冷やしラスク』と『シュガーラスク』です」


 楓ちゃんに作ってあげたパンの耳ラスクよりも少しゴージャス感を増したラスク。作り方自体はもっと手間が掛かるけれど、だいたいは命名した通りである。

 もちろん先の展開が読めるので、少しだけ楓ちゃんの分も用意している。


「うわぁ~、パイセンが作ったすか? 本当の本当にっすか!?」

「出来立てで香りも良く、それがまたより一層美味しそうな印象になりますね」

「ふふ~ん! りょーいち君はね、何でも作れて凄いんだから!」

「何でもは言い過ぎですよ、楓ちゃん」


 たしかに今の時代、調べれば一通りのレシピは手に入る。だが、俺なんて所詮はその程度でしかない。

 料理人を目指している訳でもないから、それなりの物を作れれば満足してしまう。成長の見込みは残念ながら無いのだ。それでも、こうして褒められるとそれなりに嬉しく思う。


「あとは、これ……味変(あじへん)にでも使ってください」


 用意していた付け合わせのタレやクリームをテーブルに置く。


「パイセン!! ま、まさか私が抹茶が好きなのを見抜いてっすか!?」

「あ、そうなの? 完全にたまたまだけどそれなら良かった」


 流石は抹茶風味。甘い物がそもそも苦手という人を除いて、あまり失敗談を聞かない味である。

 ホワイトチョコよりも抹茶の方が苦手な人は少ない……俺調べでは。


「椋一様、このお菓子はおいくら程で提供されているのでしょうか?」

「いや、これはお店じゃ出してないよ。あ、これはアレね! サービスだから遠慮なく食べて良いよ!」

「いえ! せっかく椋一様が作ってくださったのですから、感謝の気持ちとしてしっかりお金を払わせてくださいっ」


 お金云々(うんぬん)で作っていないから遠慮なく食べて欲しいけど……鳳千歳はやはり堅い性格をしている様に思える。どこからか財布を取り出して、俺が値段を言うのを待ち始めた。

 こんなやりとりをしてしまったが故に、ノアちゃんも楓ちゃんも目の前のお菓子を先に食べられなくなってしまっていた。

 安いバゲットにコンビニの板チョコ、バターや牛乳は家にあった物を使ったが、それでも合計で一人辺り数百円程度だ。


「いや、大丈夫だって! ホントに!! 凄く安上がりのお菓子だからさ! あと……食べる前に支払われるとプレッシャーがあるから先に食べて?」

「食べずとも判ります! これは、美味しいです!!」

「(言い切った!?)――だとしても、うちは前払い制じゃないんで! ほら、食べて食べて」


 半ば強引に理由を付けて、何とかお金の話題を保留に持っていった。鳳千歳も渋々といった表情を浮かべながら、財布を横に置いてラスクへと手を伸ばした。


「パイセン~、チョコが染み込んでいて美味しいっす~」

「そ。それは良かった」

「やはり、美味しいです。椋一様はお菓子作りがお上手なんですね? 是非、指導して頂きたいのですが」

「お、おう。なんか、持ち上げられすぎると照れ臭いな……」


 こういう時はお世辞が多分に含まれている場合だって、あるとは思う。それでも、やはり自分が作った物を褒められるとモチベーションはかなり上がるものだ。

 楓ちゃんも美味しそうに食べてくれているし、裏メニューとして残しておく方向で検討しても良いかもしれない。


「愛理、貴女なら幾ら払いますか? 適切な金額として」

「そうっすねぇ……ドリンク一杯とこのラスクセットなら千円近くは払うっすかね。ドリンクが四百円~五百円。ラスクが三種類三枚ずつの計九枚で五百円~六百円で合計千円くらいっすかね」


 めちゃくちゃ高い……。電気代や水道、ガス、人件費を諸々考えるとしたらセットでそのくらいの値段を付ける店もあるかもしれない。

 ただ、うちは味が他よりもフツーな代わりに、値段を安く設定してきた。夜メニューの売り上げで光熱費を払っているのもあって、昼を安く出来ている。

 だから千円というと、俺の中ではかなり挑戦的な値段設定だ。材料で拘っているのなんて、パン屋のパンくらいだし気が引けてくる。


「ノアちゃん、流石にそれは――」

「愛理。流石にそれは――」


 鳳千歳と声が被る。

 生まれも育ちも違う俺達だが、価値観のズレていない部分もきっとあると信じていた。お嬢様が持つ千円札も俺の持つ千円札も、同じ千円は千円なのだ。税込み百円の物なら十個しか買えないのも一緒なのだ。


「やっぱり鳳千歳もそう思うよな?」

「えぇ。椋一様もそう思うと思っていました」


 俺達はニコやかに笑い合う。同級生だから通じる気軽さ。遠慮の無いこの感じは、嫌いじゃない。


「「やっぱり千円は……」」


 ノアちゃんの方に向き、きっと忘れてしまっている千円の重みを、ここで思い出させてあげようと声に力を込める。

 俺と鳳千歳の二人からの意見ならば、ノアちゃんもきっと分かってくれるだろう。


「(このメニューで千円は)――高いよ!」

「(このメニューなら千円は)――安いわ!」


「「…………」」


 ノアちゃんに向けていたはずの顔を、一瞬にして鳳千歳へと再び向ける。それは鳳千歳も同じ様で、俺達はお互いの……信じられないものを見ている様な驚いた顔をして、見詰めあった。

 息をピッタリ合わせて同じ台詞が出ると思っていただけに、驚きが隠せなかった。

 あの笑み、あの信じた思い、あの重みを……俺達は理解し合っていなかった。その上、お互いに真逆を行ってしまった。


「いや、どう考えても高いでしょ! よくて七百円と消費税ぐらいでしょ!」

「いやいや、椋一様の意見を尊重したいとは思いますが、椋一様が思っている以上に美味しいですし、何より椋一様が作ってくださったのですからそこを加味しませんと」

「いやいやいや、作り手は加味しなくていいから! 確かにチョコの方は試食してないけど……でも、それでも千円は高いって!」


 言い争いがヒートアップしていく。他にお客様が居なかったのが救いだった。声を出しても気にしないメンバーばかり。

 店内にも響く声で、適正価格について俺と鳳千歳で議論が交わされていく。ノアちゃんと楓ちゃんは元より興味が無かったのか、二人でガールズトークをし始めてしまっていた。母さんは何かしらの雑誌を読んでいる。


「――分かった分かった、もう分かった。実はさ、もう二品くらい作る予定で……お菓子とお昼を食べるならだけどさ、どう? そこで決着をつけないか?」

「受けて立ちます。椋一様の作る料理はもっとお金が取れるのだと、私がそこで認めさせてみせます」


 こうなったら、最高にチープで美味い料理を出してやろうと逆にやる気が溢れてくる。

 適正価格に値段設定を維持できたら俺の勝ち、値段を上げるべきという論に納得してしまえば俺の負け。実にシンプル……じゃないかもしれないけど、分かりやすい勝負だ。


「では、調理場に行って参りますのでお客様はごゆっくりしていてください……ま! せ!」

「えぇ、ゆっくりさせて頂きますとも! ……でもその、椋一様? あの……少しはお喋りとかも……時間があればですけど……それはそれとして……せっかくの休日ですし……」

「あ、あぁ……うん。これはこれとして……ほ、ほら! お菓子作りには待つ時間とかあるしね? その時は普通に……ね?」


 何か空気がおかしい気がして、俺は慌てて調理場へと逃げるように入って行った。


(ち、ちくしょう……しおらしい態度を取られると、不思議と女子って可愛く見えてくるな。そのせいで微妙に、いや、かなり気まずくなってしまう。……とりあえず楓ちゃんとノアちゃんを思い出して、可愛いの概念を元に戻しておかないと……)


 自分でも分かる。少しだけ、混乱しているみたいだ。

 俺も珈琲でも飲んで落ち着かないと、鳳千歳と何を話したら良いのか分からなくなりそうだし、取り決めた勝負にも負けてしまいかねない。

 だから、可愛いの概念とか、そういうよく分からない変な話は一度頭の片隅に追いやって集中し直さないといけない。


 とりあえず……珈琲だ。そして、次のスイーツのアイデアを纏めてから、お菓子作りを始めるとしますかね。



 ◇◇



「あのさあのさ、愛理ちゃんは一年生なんだよね? なんでりょーいち君と知り合えたの? 他の学年の子は立ち入り禁止でしょ?」

「そうっすね。その日、自分寝坊してしまいまして……千歳様に起こして貰ったのについつい二度寝してしまったんすよ。それで朝食もお弁当も忘れて、昼休みから立ち入り禁止なのも忘れてて……空腹で倒れてた時にパイセンに助けて貰ったんす」


 只今絶賛、俺がノアちゃんを助けた話の最中で全身がむず痒い。

 改めて聞くと、空腹で誰かを探しに洋風庭園まで来たものの立ち入り禁止で誰も居ないというオチ。ノアちゃんもかなりのおっちょこちょいだ。


「愛理ったら……あれほど注意したのに、もっと早く寝ないからですよ?」

「えへへ、すみませんっす」

「……ですが、その時ばかりは寝坊を強く責められませんね(チラチラ)」


 鳳千歳からの意味ありげな視線には気付かない振りをして、その代わりに、ラスクを置いていた皿が空になっている事に気付いた振りをした。

 そろそろ、次のお菓子を先に食べるかか少し我慢して昼までは飲み物だけで我慢するかを選ぶ時間だ。昼には少し早いが、ここで食べてしまうと昼御飯のタイミングを逃してしまいかねないというタイミング。


 二品の内容は、軽いデザートとして『濃厚プリン』重めのデザートとして『抹茶味のガトーショコラ』を予定している。

 先にプリンの準備をしていた為、俺の都合ではお昼まで我慢して貰う方がありがたい。

 食後のデザートでプリン、持ち帰りでガトーショコラが理想的だ。


「それでですね、私は生まれつきのお嬢様では無いっすからパイセンがくれたお弁当……特に冷凍食品がとても懐かしかったんすよね! その時にパイセンがその時こう言ってくれたんです『全部、食べな』と」

「へぇ~、りょーいち君が優しい後輩君でお姉さんは安心だよ! 世の中には愛理ちゃんみたいな可愛い子を狙う怖い人も居るんだからね」


 お菓子はただのオマケと言わんばかりに、女子達は会話でも上がっている。ついでに、ほとんど喋っていない俺もオマケ感が凄い。

 俺もラスク達も、ガールズトークの一役になっているのであれば、それは喜ばしい事だ。

 だから……例え、ノアちゃんが俺の言っていない台詞を捏造していたとしても、空気を読んでオマケとして何も言わないでおこう。


「たしかに、私はともかく……千歳様は気を付けた方が良いかもしれないっすね」

「ん……どうしてかしら?」


 普通の女子なら嫌みとか、わざとらしいと捉えられても仕方ない場面だが、鳳千歳の顔を見ると本気で不思議がっているから何も言えなくなる。

 そんな鳳千歳の性質をノアちゃんも理解しているのか、鳳千歳の返答を聞いても一切の淀みが表情に出ていなかった。


「千歳様はお綺麗なんですから、一人で街を歩いていたら声を掛けられますよ!」

「うんうん! 鳳ちゃんは美人だもんねぇ、スラッとしてて……羨ましいなぁ」

「お褒めに預り光栄ですが……知らない方に声を掛けられるのは少し困りますね」


 本人が幾ら嫌がっていようと、事情を知らない他人からしたら『綺麗な子が歩いている』という状況が在るだけで、声を掛けて来る人は遠慮なんかしないでグイグイ来るだろう。

 お嬢様気質から、強く断れる人はそう多くない。だから、お嬢様とはそういう意味でもチョロい性格(キャラクター)として存在しがちだ。


 きっと年下の女の子や大人っぽくなりたい女の子からすると、鳳千歳は憧れてしまうくらい理想的な外見をしている。

 それはきっと、男性側も似たような感想を抱くはず。外見はほとんどの人が美人と評するのは間違いない。

 自分に自信のある人ならば、鳳千歳が仮に一人で居るのならダメ元で声を掛けるだろう。俺も自分がイケメンでコミュニケーション能力が高ければ、声を掛けていただろうし。


「大丈夫ですよ、いざとなったらパイセンが助けてくれますし! ね、パイセン?」

「んー……まぁ、時間稼ぎくらいなら? 流石に物理的距離で無理な時は無理だけど。香華瑠女学園の生徒なんて制服着てるだけでも目立つんだから、普段から気を付けなさいな」

「じゃあ、自分や千歳様が敷地外に行くときは遠慮なくパイセンを呼ぶっす!」

「え゛っ……」

「愛理、それは……とても良い考えです」


(都合を考えないのは、ナンパ師だけじゃなくお嬢様もだわな……ゲームで知ってる)


 ――開店してから、一時間以上が経過していた。

 徐々にお客様も増えだして……とは言っても空席だらけだが、注文も入り俺が調理場と席を行き来する頻度も増えてきた。

 母さんが、他のお客様を意図して少し離れた席に案内してくれているお陰もあって、俺達は楽しくお喋りを続けられていた。


「椋一、ブレンド珈琲一つ。あと……そろそろ準備しないと来る(・・)わよ?」

「はいよー……もうそんな時間か」


 休日の昼前になると、奴が来る。毎週、予定の無い日はゆっくりと寝過ごして、起きて、ここへやって来る。

 自分の家で何か作って食べれば良いものを、わざわざ五百円するランチを食べに、やって来る。そう――隣人の千夏だ。

 俺はカウンターの裏に回り、先にお客様の注文から準備し始める。


(やべぇー……ノアちゃん達に気付いたら面倒な事になる予感がする)


 千夏に好き嫌いはあまり無い。甘い物も辛い物も程度が行き過ぎて無ければ文句は言わない。ただ、千夏が知らないメニューを楓ちゃんにこっそりと提供した時とかは……凄く怒る。怒るというか、自分にも作れと強めに脅されるのだ。


(千夏は食べ物関係に小うるさいからなぁ……。解決策はどうにか誤魔化すか、別日に作る約束で穏便に済ませるかの二択しかないな……)


 ほぼ暴君と化している千夏だが、一応お客様の一人だ。機嫌を損ねると生活しづらくなる隣人というのもあって、無下には出来ない。

 鳳千歳やノアちゃんの席と離した席にした方が良いのか、それともちゃんと説明した方が良いのか……難しい選択だ。

 世の中に不満という不満は特に無し、無いからこそ面白いと思えるのかもしれないが……こういう時だけ、こういう重要な二択を選ばないといけない時だけは、ゲームの様な『セーブ&ロード機能』が欲しくなるな。


 ――チリンチリン。


「ふわぁ~……椋一、来てあげたわよ」


(ほら、セーブ出来ないから頭真っ白なのに千夏が来ちゃったよ)


 千夏の、まるでさっき起きたかの様な顔を確認して、用意したブレンド珈琲を母さんに任せると、俺はすぐ調理場へと引っ込んだ。席は……もうどこに座ったって一緒だ。ノアちゃん達が見付かるのは時間の問題である。ならば俺は、少しでも時間稼ぎをするしか無い。

 プリンの出来も気になるが、まずは千夏の昼御飯を作る事を優先させる。……空腹だといつもより怒りやすくなるからなぁ。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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