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プレビューが100を越える様になってきたなぁ~(´ω`)
ありがたやぁ~
よろしくお願いします!
――ゲームは一日一時間……もプレイ出来たら上々だ。休日はともかく、平日だとそんな感じだ。
思ったよりも早く母さんからの呼び出しがあって、今日は三〇分もゲームが出来なかった。
そんな残念や気持ちは胸の奥へと追いやって、今日も閉店まできっちりと働いていく。
(戸締まりよし! 今日もご苦労様でした……俺!)
余り物で母さんが作っておいてくれた遅めの晩御飯を食べ、風呂と歯磨きを終わらせて、寝る為の準備を着々と終わらせていく。
明日は、平日よりも朝の準備をゆっくりと出来るからありがたい。でもきっと、いつも通りの時間には起きてしまう事だろう。
ベッドに入り目を閉じると、今日の出来事が瞼の裏に浮かんでくる。
同級生達も、香華瑠女学園の生徒といろんな出会いがあっただろう。だが、その中でも俺が一番強烈な出会いの日だったと思う。
(まぁ……楽しかったな。うん……寝よう)
一般的な学生よりは少し早い時間に眠りに就く。
話題のドラマも深夜のバラエティーもあまり観ない。けど、それを残念とは思っていない。
常連さんのくだらない話を聞いたり、初めて来てくれた人と会話したり、そういう働いている時間の方が俺には価値のある時間だと思っている。
(明日はノアちゃんが来てくれるらしいし……気合い入れて……)
だいぶ疲れているとは思っていたが……睡魔に身を委ねてみると、呆気なく眠りの世界へと沈んで行った。
◇◇◇
「あら? 愛理。何処かにお出掛けするの?」
「はい! 今日はパイセンの所へ行って参ります」
昨日、パイセンから電話があった。パイセンの声は電話でも優しく、暖かく感じる。それに、胃袋も早くパイセンの所に行けと言っているみたい。
電話が終わった後に、急いで寮にある服からオシャレなコーディネートを考えて、ようやく決まった時にはけっこうな時間になっていた。
でもそのお陰で、今日はバタバタせずに済んでいる。寝坊もしていないし、体調も良い。
(はぁ……失敗っす。寮生は制服が厳守なの忘れてたっすよぉ……まぁ、楽なんで良いんすが……)
制服に着替えて、読み掛けの本を小さい肩掛け鞄に入れて、準備は整った。
後はパイセンの教えてくれた道順通りに歩けば、喫茶店に行けるのに……何故か、同室である千歳様が部屋の入口にて仁王立ちをしていた。
「千歳様? 私、そろそろ行きたいのですが……」
「愛理? 誰の所に行くのか、もう一度だけ聞いて良いかしら?」
(ひえっ!? じ、自分の勘が正しければ、答えをミスれば首が飛ぶやつっす!)
ただならぬオーラが千歳様から感じられる。
たしかに、昨日から様子が少しだけおかしかった気がする。
夜に電話した時に聞くのを忘れていて、結局パイセンが千歳様を助けてくれたのか分からない。
ただ……寮に帰って来た千歳様は普段と様子が違っていた。緊張やストレスが溜まってるかもと思って、昨日はソッとしておいた。
何かがあったのだろうけど、その何かを聞けなかった。その確認も兼ねて、今日はパイセンの所へと向かおうと思っていたのに、思わぬ難関が立ち塞がっている。
「えっとですね……その、パイセンのお家が喫茶店をやられているそうなので、遊びに行こうかなぁ~と」
「その『パイセン』という方のお名前は?」
「きたかみパイセンです……」
「うふふ、愛理ったら。まさか、椋一様ですか? もしや、私と椋一様がお友達という関係になったのを気に掛けて、より仲良くなる場を用意してくれたのですね? あら、でも、どうしてでしょう? 私、誘われていない気がしますけど?」
(お、怒ってるっす! しかも椋一様!? お友達!? あの千歳様にそう呼ばせているとは……パイセン何をしたんすかっ!?)
千歳様は男嫌いだ。本人は苦手なだけとよく言っているが、教師に対しても露骨な距離の取り方を見ていれば本当のことはだいたい分かる。だから、パイセンには苦手という事はしっかり伝えた。
なのに、出会ったその日にお友達になっている……あり得ない。それが素直な感想だ。
今までも男性と会う機会らあったはずの千歳様から、お友達なんて台詞を聞いた事がない。
――香華瑠女学園の中等部、その二学年の時に私は転校して来た。だが、その当時でも鳳千歳様の名前は下級生にも知れ渡っていた。
男嫌いなのも、その時は噂で聞いただけなのだが知っていた。私よりも家柄の良い友達から、御一緒する機会のあったパーティーで殿方に囲まれているという話を耳にした事もある。
高校で同じ寮の部屋になり、打ち解けようと積極的に話し掛けていた時に前情報を踏まえて聞いてみたのだ。『男性のお友達はどれくらい居るのですか?』と。
居ませんよ――その時の返事は、その一言だけだった。
だからこそ、今とても驚いている。まだ、あり得ないと思っている。でも、パイセンなら……という不思議な気持ちもあった。
昨日会ったばかりの男性に対して、どうしてこうも信頼感があるのだろうと今頃になってちょっと疑問が浮かんできた。
いい人なのは間違いないと思うけど……私が一人っ子だからだろうか。年上の男性……お兄ちゃんみたいな関係に密かな憧れが、心の内側にあったのかもしれない。
「千歳様。えっと、お友達って……パイセンは男性ですよ?」
「でも、その椋一様に頼んだのは愛理、貴女でしょう?」
「そうですけど……いえ、まさかの結果に驚いてます」
「愛理、感謝してますよ。変わりたいと思えたキッカケは貴女と椋一様のお陰ですから。昨日の内にお礼を伝えておくべきでしたね」
とても優しい微笑みに、つい視線が釘付けになってしまう。
(やはりパイセンがどうにかしてくれたんすね……頼んで正解だったすね)
千歳様……本当はいつも優しい人だけど、どちらかと言えば凛々しさが前に出ていて、他人があまり寄り付かないタイプだ。
一緒に生活をしていると、千歳様も完璧じゃない事くらいすぐに分かるのだが、どうしても周りの人は千歳様に理想を押し付けてしまう。
その理想であろうとするのが千歳様の優しさだけど、私は少しくらい心を休めても良いのに……と思っていた。
(交流会の前日に見た千歳様は怖かったすが……千歳様は努力家っすからね。たまに危なっかしいし、私がサポートしないといけないかもっすね)
本当は休日のパイセンを独り占めに……なんて考えていたけど、大好きな千歳様と一緒ならもっと楽しい日になるかもしれない。
――私は千歳様の言葉に、乗っかる事にしてみた。
「お、お礼は受け取りました。さ、千歳様も着替えてください! パイセンの所に一緒に参りましょう!!」
「あ、愛理? いえ、さっきのは悪い冗談で……上手く言えないものですね」
「いえ! 私が千歳様と一緒に行きたいんです。ダメ……ですか?」
「そんな事はないわ。ま、待ってね! 急いで準備をするから」
必殺の上目遣い。歳上の、特に優しい人相手にはかなり効く技を私は習得している。
(ふむふむ。千歳様も、案外チョロかったすね。女性でこれなら、パイセンは男ですし、かなり有効に違いないっす! 私の上目遣いはかなり練度も高いですし!)
まさか、私の上目遣いをはるかに越える上目遣いの使い手と出会う事になるとは。……この時はまったく想像もしていなかった。
◇◇◇
土曜日の朝。学校も無ければ、千夏を起こしに行く必要も無い。
つまり、ゆっくりと開店の準備が出来るということだ。
いつも通りにケーキ作りから始め、いつもは母さんに任せているチーズケーキも自分で作る予定である。それに加え、今日はノアちゃんが来てくれる記念日に更に別のお菓子を幾つか作るつもりだ。
そう考えると、やはり忙しさはあまり変わらない気がする。でも、今日はその忙しさを楽しく感じていた。
「良い天気だし、良い日になりそうだな!」
そんな言葉を独り言で吐きながら、オーブンに生地を入れて焼いていく。ついつい作業中なのに、鼻唄を奏でてしまう。
「さて、ノアちゃんや楓ちゃん用に何を作ろうかなぁ……洋菓子と和菓子……どっちも作ってみるか?」
楓ちゃんの好みは把握しているが、ノアちゃんの方が分からない。昨日の電話した時にでも聞けば良かったのに、その時にお菓子作りの発想が無かった事が悔やまれる。
ノアちゃんは女の子だし、とりあえず甘ければ……というのは安直過ぎるだろうか。
甘さ控えめの方が良いとか低カロリーが良いだとか、生クリームよりカスタードが良いだとか……拘りは人それぞれ、好みが分からない場合にどうしても苦戦するポイントだ。
「ノアちゃんは何が良いだろうかね」
「だぁれ? ノアちゃんって?」
「――ッ!? びっくりしたぁ……おはよう母さん」
「おはよう。それで? あんたの口から千夏ちゃん以外の名前が出るとは思わなかったんだけど。まずは千夏ちゃんをしっかり捕まえてから、他の子に行きなさいね?」
寝起きでまだ頭が回ってないのだろう。よく分からない事を口走っている。
「あぁ、うん。ノアちゃんってのは、香華瑠女学園に行った時に知り合った子だよ」
「香華瑠……って、えっ!? 何でアンタが香華瑠女学園に行くのよ?」
そういえばそういう行事がある事を伝えていなかったな。
伝える必要も無い気はするのだが、今は説明しておかないとあらぬ誤解を受けそうだ。
かくかくしかじか……と、どういう行事でノアちゃんがどういう子なのかだけを、簡単に伝えておいた。
とりあえずこれで、ノアちゃんが来た時に俺が厨房に居てもすぐに呼んでくれるだろう。
「なるほどねぇ。それで何を作ろうか迷っていると」
「そういうこと」
「そうねぇ……材料費はあんた持ちで良いなら、好きに作ってみれば良いんじゃない?」
「息子の友達が来るというのに、材料費も出してくれんのか母よ……」
「仕方ないわねぇ……ワンコインだけよ?」
財布から取り出して、ポンッと手に五百円玉を乗せられる。何かを買ってくるにしては少々物足りない額だが、材料費と考えれば……ホットケーキミックスと牛乳とか、食パンやチョコ等、お手軽な物なら手に入る額だ。
それでも、作れるのは一品くらいになってしまうからやはり自腹は切らないといけない。この微妙な額のチョイス……母さんらしい。
「ありがたき幸せ……後で何か買いに行ってくる。あ、オーブンで生地焼いてるから見ておいて。とりあえず朝食作ってくるね」
「はいはい。よくできた息子だわね」
まだ朝が早く、スーパーは空いていない。だから先に朝食の準備に取り掛かる事にした。
休日はトースト。平日はご飯。お客様が来た時は別だけど、それが北上家の習慣だ。古めかしいトースターに食パンをセットしてタイマーを回す。
後は、目玉焼きかスクランブルエッグでも作っておけばそれで良い。今日はなんとなくスクランブルエッグな気分なだけで、目玉焼きの時もあるし、玉子焼きの日もある。
冷蔵庫から卵を取り出して、ボウルに割ってかき混ぜ始めた。
お客様に出す料理は丁寧に作っている反動なのか、自分達の為の料理はあまり凝らないし、拘っていない。
それなりに美味しく、簡単であればあるだけ良いとしている。
「パン……か。パンは良いよなぁ。フランスパン、食パン……おぉ。とりあえず薄力粉とか買ってくれば何か作れるかもしれないか?」
この喫茶店の開店時間は朝の十時、近所のスーパーとだいたい同じ時間だ。
可能なら喫茶店をオープンする前に買い物には行っておきたいと思っていた時に、まさに天啓が如きアイデアが降り注いできた。
「よしよし! 薄力粉とかはコンビニにもあるし、ついでに他の材料も集められそうだな。パン屋なら朝でも開いてるだろうし!」
チン! とトースターからパンが飛び出した。
その音で、必要以上に卵をかき混ぜていた事に気が付く。少し考え事に没頭し過ぎていたらしい。
だが、良いアイデアは降って来た。お金はワンコイン以上に掛かりそうだが、そこにはもう目を瞑る事にしておく。
(今日はまぁ……来るのはノアちゃんと楓ちゃんくらいだし、良しとしようかね)
料理が完成して、オーブンの事などまったく気にせず店内で珈琲を飲んでいる母さんと朝食にする。
「そう言えばアンタ、もう一人働く子が欲しいって言ってたわよね?」
「ん? まぁ、居ないよりは居てくれた方が良いかなぁ」
「ほら、私の従姉妹の友里乃叔母さん知ってるでしょ?」
「あー……ん? 話にはよく聞くけど、記憶には無いかも?」
母さんがたまに呑んでいるという従姉妹さん。幼い頃に会っているらしいし、家もそれほど離れている訳では無いらしいが、俺は全然関わった記憶がない。
親族の集まりみたいなのも無いし、正月やお盆に祖父母の家に行っても一日二日で帰ってくる。それも、子供の頃の記憶だ。十数年は行っていない。
家族仲は良い方だと思うが……親族仲は、正直に言えば分からない。母さんとその従姉妹さんは仲が良いのかもしれないが、それ以外の人の情報はあまり聞かないし。
「その友里乃叔母さんの娘ちゃん……椋一からすれば『再従兄妹』になるのかしら。前に真由子ちゃんと飲んだ時に、あまりお互いの家の事は話さないんだけど、お酒の勢いでポロッと聞いたのよ。それで、その子もまだ学生らしいし、時間的にはかなり空いてるらしいんだけど……どうする?」
「どうするもなにも……そりゃ、居てくれた方が俺は助かるけど」
「そう。んーじゃ、とりあえず話しておくわね! まぁ、やるかやらないかはその子次第だから期待はしないように」
もし、一人増えるなら勉強の時間もゲームの時間も確保しやすくなるだろう。
再従兄妹なんてほぼ他人みたいなものだし、同じ学生らしいけど歳上か歳下かもまだ分からない。それでも、親戚というだけでそれなりの親近感は湧いてくる。
しかも娘さんらしいから、この喫茶店に足りない華やかさが増える事は万々歳だ。
期待するなとは言われても、流石に期待してしまう。どこかでバイト経験があったり、穏やかで優しい人だとより嬉しい。
「頼みます神様! よろしくお願いします!」
柄にも無く、天に祈りを捧げてみた。今日も一日頑張っていく予定だ。きっと、願いは届くだろう――――。
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