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よろしくお願いします!
今日は少し短めのやつです!
俺は期待せずに、思った事を伝えた。
「今日は駄目です。疲れてるでしょうし、今は無理について来なくて大丈夫です。ご自愛ください」
「ですが……」
「きっとお礼とかはノアちゃんが言ってくれますし……それに、貴女は俺じゃなくてノアちゃんにお礼を言うべきですしね」
きっと、今も無理して会話をしているに違いない。
表情にこそ出ては居ないが、詰められない一定の距離感がその証拠になる。
ここで俺について来てしまえば、せっかく連れ出した意味が薄れる事になってしまう。それは本意では無いし、男が苦手な鳳千歳自身も疲れるだけのはずなのだ 。
「えぇ、愛理にはもちろんお礼を言います。だからと言って、やはり貴方に言わない訳にはいきません」
「真面目……なんですね? 良いことだとは思うけど、こんな些細な事ならもっとフランクに? 軽い感じで良いんですよ?」
「いえ、そういう訳にはいきません。恩にはまず、きちんとした礼をば」
(頑固かっ! くっ……しかしこういうタイプのお嬢様も想定内ではある)
鳳千歳の価値観はそうなのだろう。堅く真面目で、正しくあれ。楼王院麗華とはまた別の意味で才能を持っている感じだ。
鳳千歳は、秩序や基準という正義。それを貫く才能。
楼王院麗華は、自分という自信。それを貫く才能。
二人と会話した時の雰囲気や、立ち振舞いからそんな気がした。
決して悪い事ではない。むしろ、常人では難しい事を二人はやっていると思う。
自分を信じたり、自分を律するというのは案外難しい。大人になるにつれ、無意識の内に逃げ道を探す様になっていくものだ。
怒られるのが嫌だったり、面倒事を避けたり、楽をしたり――子供の頃の無邪気さと引き換えに、どんどん保身的になっていく。
それが普通だと思う。それが成長だとすら思う。
そんな中で、自分を貫いている人はまず浮くだろう。変わり者だと笑われるかもしれない。
鳳千歳と楼王院麗華、それにノアちゃんにも……長所短所は別として、特徴がある。
世のほとんどの人は遅咲きであり、早熟している人を理解出来ない。それなのに、早熟している者を『変わっている』と糾弾してしまいがちだ。
「変わってるな、鳳千歳さんは……いや、正しいけどさ。俺達だと『助かった』『おう』のやり取りでサラッと流すよ、これくらいの事は」
「変わってる……私が……」
鳳千歳をあえてそう評価をする。何かを変えて欲しい訳ではないが、そう評価する以外に言葉は見付からなかった。
正しいのはきっと彼女の方だ。恩に感じたから礼をする――それ自体に変な部分など少しも無い。だが同時に、ゆとりが無い様に感じた。
フワッとさせる事で続く人間関係もあるのだ。恩に対して礼を返してしまえば、そこで終わってしまう。しかし、恩に対して恩で返せば関係は長く続いていく。 友達の関係とて、持ちつ持たれつ……そんな感じだと思う。
「いや、俺も変な所はあるし、鳳千歳さんが特別って訳じゃない。けど、同年代や同級生相手に『受けた恩は忘れません!』みたいな態度は仰々しいと思うよ?」
「し、しかし……何もしない訳には……」
「違ったら失礼だけど……鳳千歳さん、友達少ないでしょ? 恩をすぐ返してゼロに戻すから、周りの人との始まり掛けた関係もそこで終わってしまうんだと思うよ。ま、実際のとこは知らないけどさ。そういう事で、とりあえず礼は要らない。それじゃ――」
俺の狭い交遊関係を見ても、迷惑を掛ける事もあれば、掛けられる事もある人達ばかりで構成されている。
一方的に貸すとか、借りた分は何かしらですぐに返す様な人とはあまり友達にはなっていない。……続かなかったというのが正しい。
つまりはそういう事。庶民の考えではあるが、鳳千歳には少し伝えてあげなきゃと思った。
友達の作り方を偉そうに語れる程、多くの友人が居るわけではない。けれど、困った時には頼りになる友達しか居ない。
その意図を汲み取ってくれたのかは分からないが、噴水のある洋風庭園へと歩き出した俺の後ろに足音は聞こえない。
鳳千歳も楼王院麗華も、初対面の印象は悪くないどころか、良いのは事実だ。
だからと言って、まだ油断は出来ないがな……うん。
◇◇◇
『――蜂戸、お時間は大丈夫ですか?』
『もちろん、大丈夫でございますよ。それにしても私奴にお電話とは珍しいですな……如何なされましたかな?』
『申し訳ないけれど、一人調べて欲しい殿方が居ます』
『なんと、殿方ですか。……どこまでお調べになりましょう?』
『可能な限り全てを』
『承知致しました。しかし、どうしてその殿方を?』
『それは……はい、つい先程の事です。私を変わっていると言ってくれました。正しいけど、変わっていると。それに、恩を受けたのですが……それを返さなくて良いとも。その方法を取れば、友達ができると彼は言っていたのです』
『左様で御座いますか。その殿方……いえ、そのお坊ちゃまは、おそらくお嬢様を心配してくれたのでしょう。案外、お嬢様とお友達になってくれるやも知れませんよ?』
『ん……それはどうでしょうか。もう少しお話をと思ったのですが、同級生に誘いを断られたのは初めての経験でした。たぶん……いえ、そうですね。彼が、ではなく、私がお友達になりたいと思っているのかもしれません』
『そうで御座いますか。それはそれは……爺奴にとっても喜ばしい事です』
『変……でしょうか?』
『そんな事は御座いません。ですが、そうですね。私がそのお坊ちゃまを調べてもよろしいのですが、仲良くなりたいのであれば……会話の中で自然と知っていく方が良いと爺は思います』
『なるほど。蜂戸、ありがとう御座います。ですが、どう声を掛ければ良いのやら……』
『それでは助言をば――――』
◇◇◇
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