①
新作!新作!
またハーレム系!(ハーレムエンドは予定してないです)
よろしくお願いします!
ピピピピピピピ――――。
意識を覚醒させんと鳴り響く目覚まし時計を止め、上体を起こしてカーテンを開ける。まだ外は薄暗い。
朝の五時。そんな早朝に俺――北上椋一の一日は始まる。
「ふぁ~あ……さて、顔洗って仕込みと朝食の準備をしないとな」
二階にある自分の部屋を出て、喫茶店となっている一階の厨房へと降りていく。
学校へ行っている間は店の切り盛りを母親が一人でしないといけない為に、この時間と夕方に俺は手伝っている。それがほぼ毎日だ。
早寝早起きで健康的にも良いし、簡単な料理やスイーツなら作れる様にもなった。その上、お小遣いも増えるしメリットが多い。今のところ不満は特になかった。
(しいて言うなら……美少女の攻略が進まない事かな)
――ギャルゲーには夢が詰まっている。
現実とは違い、変な髪の色、頭のおかしい子、美少女など、普通なら関わらない相手と恋愛ができる。むしろ変な子ほど可愛い事だってある。
様々なジャンル、様々なキャラが居るギャルゲーだが、俺がプレイするのは『ギャップの少ない王道』の物ばかりだ。
――朝になれば、幼馴染は起こしに来てくれる。
――先輩はスタイル抜群で頼りがいがあって。
――同級生は活発的な完璧美少女で。
――後輩は小悪魔系で憎たら可愛くて。
――お嬢様は自由奔放で。
そういった、王道だけど面白いギャルゲーを主にプレイしていて、もはや俺の恋愛における価値観はギャルゲーによって培われたと言っても過言ではない。
女の子は程よく『褒め』程よく『からかう』。人によりその割合は変わってくるものの、そのバランスが女の子と話す際の全てだと学んだ。
現実で彼女が出来た事はまだ無いけれど、ほとんどのゲーム主人公は高校二年生から始まっているし、俺もその波に乗っていくつもりである。そう、全ては今日から始まるのだ。
「さて、いつも通りケーキの仕込みからするか!」
時間があまり取れずに、攻略の進んでいないゲームの事を頭から追い出して、気持ちを切り替える。
「今日もいつもと同じぐらいで大丈夫かねぇ……」
立地が良い訳でも、特別なメニューがある訳でもなくい喫茶店『きたかみ』。一応飲食店営業の許可を貰っているからカフェと称すべきなのだろうが、細かいことは気にしないのがウチの母さんなのである。
この店が繁盛していると言えば……残念ながら嘘になる。それでも、来てくれるお客様の為に『夕方前に品切れ』という状況だけはなるべく避けたいと心掛けて朝から準備を進めているのだ。
ショートケーキとチョコレートケーキ用のスポンジケーキを焼いて、その間にクリームを作っていく。
最初は時間が掛かっていた作業も、今は慣れてきた事もあり効率的に動ける様になっていた。
「おはよ~、椋一」
「あぁ、おはよう母さん。……まさか風邪でも引いた?」
手を額に当てスッキリしない表情で姿を現したのは、この店のオーナーでもある母さんだ。
俺が学校に行っている間の店の事は全部やってくれている。
「うー……違うのよ? ほら、久し振りに従姉妹から飲みの誘いがあって行ってきたじゃない? 『恵里ちゃん飲みな~』ってお酒を注がれてちょっとばかし飲み過ぎちゃってね……」
「あー……ま、楽しかったなら良かったんじゃない? 朝食は軽めにしておく?」
「お願いするわ……」
時計を見ると六時三十分を越えていた。
いつもならそろそろ朝食の準備に取り掛かる時間で、胃を起こす時間を考えると母さんの起きてくるタイミングは良かった思う。
「何を作ろうかなぁ~っと、そうだそうだ……今日は弁当を作らなくて良いんだったな」
冷蔵庫を漁り、手に取った弁当用の食料を元の位置に戻した。
いつもなら朝食ついでに自分の昼御飯の用意もするのだが、今日は昼前に学校が終わる予定になっている。
自分の弁当はだいたいが冷凍食品で済ますのだが、それでも省けるとだいぶラクに思える。
「風邪じゃないらしいけど……とりあえずお粥でも作るか」
家の食事スペースは喫茶店と兼用であり、厨房から少し出てみれば机に突っ伏している母さんの姿があった。
(今日の営業は休みになりそうだな……)
母さんの事だし、昼前にはケロッと治ってるだろう。だから、おそらく突発的な休店日にはならないと思う。休店日は年始と母さんの都合という不定休で、たまに母さんが居ない日には店を開けられない事もある。
今日みたいに「うーうー」と口から音を出している母さんを見ると、無理かもしれないとついつい思ってしまう。
「はい、水」
「助かるわ……椋一」
とりあえずコップ一杯の水を持って来て、俺は厨房で朝飯の準備に戻った。
◇◇
――俺の通う高校は専門性のある学校でも、私立の金持ちが通う学校でもなく高校自体はとても普通だ。
朝の八時二十分までに登校して、終わりが六時間授業の日なら四時前、七時間授業の日なら五時前となる。
そこから部活に行く者と帰宅する者に分かれて、俺は当然帰る組で、放課後はバイトの時間となる。
去年は授業のペースが速く、疲れる日々の連続だった。これから勉強が難しくなる事を考えると、よりシビアな時間管理が必要になるだろうし……少しばかり憂鬱な気持ちにもなる。
だが、悪い事ばかりじゃない。俺の通う学校は普通なのだが、二年生の期間だけ『特別な日』がある。
その特別な日があるからこそ、一年生の時の授業スピードが少し速かったとも言える。
俺はまだ、それに関しての概要を噂話程度でしか知らない。
部活などで頼りになる先輩が居る奴なら、詳しい内容も知っているかもしれないが……残念ながら、生憎と俺にはそんな先輩は居ない。
だから、今日のHRで初めて詳しい内容を知る事になる。新入生に親しい知り合いが居る訳でもない俺にとって、今のところそれだけが今日の楽しみだった。
「椋一? 早くしないとアンタまで遅刻するわよ?」
「はいはい。もう行ってきますよ……」
朝の七時過ぎ、制服に着替えて身嗜みを整えて、家を出る。
学校までは、普通に歩いても二十分くらいで着く距離だ。それなのに早めに家をでる理由が俺にはあった。
家を出て、道路を大股で十歩も歩かずに目的地へと辿り着いた。
隣人――柏家に。
俺はインターホンも鳴らさずに玄関の扉を開けて、中に入っていく。その音に気づいたのか、リビングからママさんが姿を現した。
「おはよう椋一君。ごめんねぇ~、何度も声を掛けてるのにあの子まだ起きてなくてぇ……やっぱり椋一君じゃなくちゃ起きないみたいなの」
「ママさん。違うんですよ……幼馴染って……いえ、もう何度もしたやり取りでしたね……」
俺の目は死んでいるだろうか、それともまだ輝きを放っているだろうか。
俺の恋愛におけるポリシー『ギャップ求めず』。
もちろん、全ての意外性を否定している訳ではない。ヤンキーガールが家庭的……みたいな良いギャップは面白いし、大歓迎だ。
ただ、ヤンキーガールが実はフェイクで、本当は真面目みたいな『違う、そうじゃない』的なギャップを、俺は欠片も求めていないのだ。
ヤンキーガールはヤンキーガールとして、真面目なら真面目としてギャップを見せて欲しいのだ。そこがブレ始めたら、もう違うと思ってしまう。
(それなのに、それなのに……)
とある部屋の前に立つ。『ちなつ』と書かれたプレートの掛かっている部屋の前に。
柏千夏。それは、産まれてからずっと隣人として共に育ってきた人の名前だ。
ここでも、勝手に部屋へと入っていく。どうせ、ノックをしたとしても聞こえない。何十回何百回と試して、その上で省いていく事に決めたのだ。
見慣れた部屋の中、女の子らしい可愛い物はそれほど多く置いていない。その代わりと言うのもなんだが……小学生中学生の頃に手に入れた空手の大会トロフィーが幾つか並べてあった。
代わり映えしない部屋に、今さら驚きも感動も無い。今はただ、目的を果たすためだけに足を進めて行く。
千夏は、簡単に言えば女子に頼られる系の女子だ。
子供の頃はショートだった髪もずいぶん長くなり、身長はやや高めだが……男っぽかった昔よりも、今は女の子らしい見た目をしている。
その辺の男子よりも近寄り易く頼れるから、千夏は女子からの人気が学年問わず高いのかもしれない。
「……やっぱりまだおネムですか」
そんな千夏にも弱点がある。
それは朝がとてつもなく弱い事……ではない。その、先の話だ。
「千夏、朝ぞ。もう朝ぞ。というか、遅刻ギリギリだぞ?」
「にゅー?」
「にゅー、じゃなくて。ほら、起きろ千夏! 千夏起きろ!」
「うにゅ~? あー、りょーちゃんだぁ~。りょーちゃん、何してるのぉ~」
(幼児退行の日か……さては、子供の頃の夢でも見てたな? 後で恥ずかしさで暴力的になるし……これはまた面倒な……)
柏千夏。十六歳――ギャップ『寝起きの悪さ』
俺の中での幼馴染とは、起こしに来てくれるもの。決して、起こされる側ではないし、寝ボケて変な事を口走る奴の事を言わない。
だから俺は、なるべく千夏を『腐れ縁の隣人』と思うようにしている。事実としては『幼馴染』だから、話すときはそう言うしかないのだけど……。
面倒なのが分かっていて、その上でどうして毎朝起こしに来るのか……それはもう自分でも分からなくなっていた。全てが幼馴染という言葉で片付けられてしまうのに、慣れたのかもしれない。
「――くっ。ほらっ! そろそろ準備しないとマジでヤバいから。食えっ! このサンドイッチを食えっ!」
鞄から取り出したのは最終兵器『粒マスタード入ハムレタスサンド』。
ママさんは俺が優しく起こしていると勘違いしているのかもしれないが、そんな事をしていようものなら小一時間は掛かるだろう。
それで編みだしたのが、刺激の強い食べ物。辛さとは痛覚だ。
起こし方としては最低かもしれないが、心を鬼にして千夏を無理矢理起こしていた。
それも仕方ないだろう……ほぼ毎日なのだから。
「んぐ、むぐ、んぐ……んぐ? ぶえぇーーッッ!? こら、リョウ!! アンタまた雑な起こし方してくれたわねっ!?」
「ほら、水」
「ありがと!! でも、そんな気遣いは要らないから優しく起こしなさいよッ!!」
起きる。そして、千夏は怒る。
慣れとは怖いもので、ほぼ毎日こんなノリを俺達は惰性で続けている。
覚醒してからの千夏の動きはとても早い。水を渡すまでが俺の仕事で、すぐに部屋を出て玄関まで直行する。
いくら家族並みに近い距離だとしても、女子の着替えを見たりはしない。そこは紳士的にあるべし……これはギャルゲーで学んだ事じゃなく、普通に親の教えだ。
ギャルゲーならほら……ラッキーというか、偶然だから許されている部分がある。チャンスを自ら狙いに行ってたら、それは社会的に普通にアウト。子供の頃ならまだしも、この歳になると幼馴染でもアウトだろう。
「もう千夏は起きたの? やっぱり椋一君じゃなきゃダメねぇ~」
「ははは。ママさん、ははははは……」
ここでも気心が知れているからこその、惰性がある。
ママさんが言おうとする事を先読みして、あえて乾いた笑い声を機械的に出す。
「……そうそう! 昨日、知り合いに頂いたクッキーがあるから包んで来るわね。ちょっと待っててね」
「いや、別に大丈……あー、行っちゃった」
言い終える前にリビングへ行ってしまったママさんに、置き去りにされる。
これはおそらく時間稼ぎで、先に出発したい俺を繋ぎ止めてどうにか娘と登校させようとするママさんの企み。
「今日は回避出来なかったか……」
予想通り、ママさんがクッキーを持ってきてくれたのは、千夏がバタバタとリビングに入ってトーストを咥えて玄関にやって来たのと同じタイミングであった。
「お待たせ椋一君」
「リョウ、悪いけどアタシの自転車押して!」
「ありがとうございますママさん。千夏……チャリの鍵は?」
「昨日、外し忘れたから付けっぱだと思う!」
「そか。じゃあ、いってきます」
まるで自分の家かの様にママさんに挨拶をして、先に家を出る。
たしかに千夏の自転車にはキーが付けっぱなしでロックが掛かっていなかった。
敷地内に置いてあるとはいえ、不用心だ。というか、思考が相変わらず男寄りなのが原因かもしれない。
ジャムを塗ったトーストを品性の欠片もなく食べ歩く千夏の代わりに、自転車を押しながら学校へと向かった。
クラス替えは春休み中に掲示板に貼り出されており、千夏経由で自分のクラスは把握している。今年もまた、千夏とは一緒だ。
「リョウ、アンタも大変ね? 毎朝毎朝私を起こさないといけないなんて」
「おぉっ!! ついに分かってくれたか! よし、なら明日からは自分で起きてくれよな?」
「それはさ……ま、無理でしょ? 普通に。あと――寝ボケてたアタシの事を口外したら……鉄拳制裁するじゃん?」
鉄拳制裁を口にして、ついでに軽く肩を小突いてくる千夏。
仮に俺が口外したとしても、格好良いキャラでやっている千夏のあんな姿を信じる女子は居ないだろうし、むしろそんな話をする俺がキモがられそうだ。男子にも嫉妬の念で焼かれそうだし当然言える訳がない。
普通に考えれば口外なんて出来ないし、今までしたことも無いのを千夏は知っているはずで……つまりは、ただ持て余した拳を誰かにぶつけたいだけなのだろう。
(はぁ……。これらやっぱり、俺の識る幼馴染じゃねーな)
「千夏、再再再再……再確認なんだけど、料理の一つでも作れる様にはなったのか?」
「アタシは食べる専門だし? だしっ! だしだしっ!」
「痛いから無駄に叩くのはやめろ……」
幼馴染とは――。
学校に着くまでの時間、俺は幾度となく考えている議題について考えながら歩いた。答えはすぐ隣にあるのだが、それを否定し続けるために……。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
とりあえず23話までは書いてあるので、23日は毎日投稿できますが……その先はまだ書いてないのでペースは遅れる事を承知してくださいまし
m(_ _)m