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四酔夜
紙切れ一枚の御縁でありました。
あの方とわたくしはそれで終わり。
形ばかりに慰謝料を請求し、わたくしはもう呼ばぬ名を記憶に溶かす。
幇助を失くしたあの方とその御家、どうなるのやらという懸念は少し。
愛しきひととは呼べなくとも、愛らしきひとではあったから。
何かしら、愛の様なものを感じていたのだと、示してくだされば良かったのに。
わたくしは愛しきひとの元へ行く。
「終わりました」とわたくしが告げると、その腕にわたくしを抱いて口づける。
それは愛の様なもの。
形を成さぬ愛というものの形。
「あなたがわたくしを愛していると、証を示すことが出来まして?」
愛しきひとは何も言わずにまたひとつ口づけて、わたくしを抱く腕に力を込める。
それは愛の様なもの。
愛そのものではついぞなかった。
けれど不実なわたくしが、まるで愛されているかのように、ひととき誤魔化されてしまえる形。
証明なんてできやしない。
人の心など不実だから。
わたくしは愛しきひとに口づけを返した。