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三酔夜
「お幸せにね」
そう述べて扉を閉めると、嘆きの声が中から聞こえる。
わたくしは何かを咎めたいのでも、裁きたいのでもない。
ひとときの気の迷いと謂うのであればその証を示してくだされば良いものを。
あの方は不実ながらも誠実なので、わたくしを愛しきひととは呼べぬのだ。
わたくしと同じ様に。
わたくしは誠実な形のまま、不実な自分にドレスを着せましょう。
あの方がわたくしの手を取り愛を囁くことなど一度もない。
赦しを乞いながらですら心を黄金の結髪の娘に託しているのだから。
ああ、哀れなひと。
この後も寄る辺なく、ただ揺蕩うのみでしょう。
誰か差し延べる手がありましょうや。
わたくしを置いて他に、この方を掬い上げる御仁が。
ああ、あれば良かろうに。
愛しきひととは呼べぬのは、わたくしも人であるからか。
誰もかれもどうか責めてくれるな。
あの方もわたくしも、所詮は唯の人。