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一酔夜
「あなたさまがわたくしを愛していたという証拠をみせてくださいませ」
わたくしは目の前で跪き項垂れる名目上の婚約者の、つむじのあたりを見やりながらはっきりと述べる。
何一つ提示できないであろう相手に、わたしは笑みを溢した。
ああ、哀れなひと。
この後も寄る辺なく、ただ揺蕩うのみでしょう。
誰か差し延べる手がありましょうや。
わたくしを置いて他に、この方を掬い上げる御仁が。
ああ、あれば良かろうに。
わたくしが言葉を述べた後も、ただ頭を垂れる他ないこの方に。
なにか他に救いがあれば良かろうに。
遠い心の奥底より願う。
それすらも道化の手習いの様な肌触りの、酷く毒された曖昧さで編まれた詩のひとひらで、わたくしの本懐に依るものと、誰もかれも言えぬのだ。
なんと物悲しく滑稽なことか。
さようなら、愛らしきひと。
愛しきひととは呼べぬのは、わたくしも人であるからか。
誰もかれも責めてくれるな。
わたくしもまた、このひとを責めぬから。
わたくしもまた、このひとの様であるから。