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人類は魔族に負けました  作者: よす
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9話 初講義

荷物を置いたディーンを連れて庭の青空教室に行く。


「まずは自己紹介ですね。私はツバサ。よろしく。」


「おう、改めてだな。ワニ族の族長ゲイルの息子ディーンだ。よろしくな。」


「ちなみに、ツバサは文字で書くとこうです。」


 と言って、地面に木の棒でがりがりと『つばさ』と表記する。そして、その隣にくっきりと見やすいように『でぃーん』と書く。


「じゃあ、これはなんて書いてあると思いますか?」


「もしかしてこれ、俺の名前か?」


「その通り。これが君の名前ディーンです。」


「へぇ、これが俺の名前ねぇ。俺にもちょっと書かせてくれ」


「ええ、もちろん。」


 そういって木の棒を渡す。ディーンは何度も自分の名前を書いている。


「あ、それだと、『でいーん』になってしまうから『い』は小さく書くんですよ。」


「んだよ、結構細けぇな。」


「ちなみに『げいる』はこうですね。」


「この『い』は大きくていいんだな。」


 しばらく自分と父親の名前を書いた後にディーンが訪ねてくる。


「なぁ、エリアル様とオヤジの命だから、俺はあんたに今文字を習ってるんだが、これっていったい何の役に立つんだ?集落に帰っても読める奴がいねぇなら、意味なんてないんじゃねぇのか?」


 そう言われてみれば確かにそうだ。あまりにも識字率が低いと文字は必要性が薄い。違う、そうじゃない。本がないから必要ないんだ。読める必要がない。ということは、先に学ぶべきは、本の有用性と、記録の重要性か。


「ディーン、いいところに気付きましたね。私も気付かされました。必要なのは文字じゃない。本です。ちょっと待っててください。」


 急いでルミナを探す。すぐ見つかった。というか台所でサーモンとにらめっこしていたんだけども。


「ルミナ。聞きたいことがあるんだけど。」


「やだなぁ、こっそり一人で食べようなんて思ってないよ。思ってないよ。」


「いや、そうじゃなくて、調味料のために廃墟を色々探したって言ってたよね。」


「ああ、そうだね。今でも探しに行くよ?塩はともかく胡椒は手に入りにくいし。」


「本屋を知らないか。できれば状態のいい本を探したいんだ。」


「本屋は知ってる。割と近くにある。でも状態は絶望的だと思うよ。屋根がないから雨ざ らしで、まともな本があるわけないし。」


「いや、ありがとう。探してみるよ。」


 ルミナに聞いた本屋は確かにエリアル邸から徒歩3分くらいの近所にあった。レンガの外壁はかろうじて残っているが、床はかつては本であったであろうしわしわの物に苔が生えているような状態だ。敷板の間からは雑草が伸びていて3年の時間を感じさせる。天井も手前半分はなくなって奥にかろうじて残っているくらいだ。


「なあ。これはだめだぜ。まともなもんなんか残ってねぇって。」


 とりあえずディーンにも一緒に来てもらったが確かにこれはひどい。


「いや、奥は多少雨の影響も少なそうです。いいものがあるかもしれない。」


 そういって奥に進んでいく。そしてうつぶせに倒れた本棚を発見した。


「ディーン!来てください!もしかしたらここにお宝があるかもしれません!」


 ディーンにも手伝ってもらい本棚を起こすと、そこには乾いたままの本が大量にあった。とりあえず全部内容の確認をしたいが、タイトルを見ながら持ってきた袋に詰めていく。そこまで大きな本屋ではなかったみたいだが、逆にそれが良かった。一つの棚の分だが、そこそこのジャンルの本が含まれてるみたいだ。ディーンにぴったりの本もあったしな。あわよくば白紙とインクも手に入らないかと期待したが、そこまで都合よくはいかなかった。

 欲張って全部詰め込むと結局一人で持てずにディーン二人で抱えて持って帰ることになった。帰路につこうとすると道の前で3人の鶏と豚と牛の魔族が立ちはだかっていた。


「おい、あんたら、お宝を掘り出したんだってなぁ?近くで騒いでるのを聞いたぜ。痛い目に会いたくなければそれ置いてとっととにげるんだなぁ。」


 牛の男がリーダーなのか斧を肩にあて声をかけてくる。


「うひひっ、お宝売ったら金はいる。金はいったら飯たくさん買える。」


 豚の魔族はそう言って持った三又のフォークを構える。鶏の魔族は武器を持ってるようには見えないが、隠し持ってるのだろうか。袋を置いて対峙するが、戦うのは無謀なのは間違いないな。


「ち、3人か、この手槍だけじゃ厳しいな。」


 ディーンの腰の後ろにある短い槍に手をやりながらつぶやいている。


「ディーン、待って。私に少し話をさせてくれませんか。」


 ディーンの肩に手を置き前に出る。


「まずは名乗っておく。私はエリアル一家のツバサだ。この胸の紋章がその証だ。エリアル一家を知らないというなら、私を殺してこの荷物を奪ってみるといい。明日には君たちの命もなくなることだろう。」

 とりあえずエリアル様の威光で何とかなるなら何とかしたいんだが。どうだ?様子を見ると、明らかに3人に動揺が走っている。


「おい、本当にエリアル一家なのか?」


「お、俺、紋章みたことある。多分本物。」


「やばいんじゃねぇのか、ここって、本拠地の近くだよな。」


 よし、あとは畳みかけるだけだ。


「それに、この中身は見せてあげよう。君たちにはこれが売れると思っているのかい?金属でも食料でもない、ただの紙束だぞ。」


 そういって袋の口を開いて相手に向ける。そこには確かに本だけが入っている。


「な、紙だと!?おいチキン。どうなんだよ。」


「いや、ビーフの兄貴、あんなもんカラスどもは買い取ってくれねぇよ。」


「ひ、引き上げるんだな。うん。」


「は、命拾いしたな。ニンゲン。」


そういって3人は周りを気にしながら早歩きで去って言った。


「ふぅ」


と言ってその場に座り込んだ。


「あー、怖かった。」


「おいおい、あんた言葉だけであいつらを退散させたのかよ。やるじゃねぇか。」


「いや、エリアル様の名前を借りただけですから。すごいのはエリアル様ですよ。」


「へぇー、こういうやり方も学んで来いってことなのか。」


「そうですね、争いを避けるのに交渉の手段を学ぶのもいいかもしれませんね。」


そうして、二人で頑張ってエリアル邸まで袋を抱えていったのだった。


次回「釣りに行こう」です。

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