4話 グリフとルミナ
「あのーグリフさん。」
おそるおそる玄関の広間に立っているグリフさんに声をかける。
「なんだ。」
「私はツバサと言います。これからこの家でお世話になるのですが、適当に寝床を作れと言われたので、家の中を見て回ってよいか聞きに来たのです。」
「ふん、礼儀はわきまえているようだな。2階に上がらない分には自由にみてまわればよかろう。2階はエリアル様に部屋を賜ったもののみが使える場所だ。お前が行く必要はあるまい。」
さっきの会話といい、グリフさんは真面目で気の利く男のようだ。聞いてないことでも教えてくれる。なら、もう少しいろいろ聞いてもいいかもしれないな。
「私はエリアル一家に入ったようなのですが、エリアル一家とはいったい何なのでしょうか。」
「・・・エリアル様の私兵隊のようなものだ。それぞれが一部族の長であったり、高い能力を持つものであったりする。エリアル様に恩義があり忠誠を誓っているものがほとんどだ。」
「全員がこの家に住んでるわけではないのですね?」
「ああ、ほとんどが自分の配下を従えて自分たちの集落を作っている。」
ということはもしかしてエリアル様はこの一帯の支配者階級なのか?いや、この地域を支配しているのは鮫の魔将ビッグマウスだったはず・・・
「魔王軍の中でもエリアル様はかなりの実力者なのですね?」
「まぁな、もうニンゲンどもは虫の息だから軍を動かすことなどあまりないだろうが、5年前の軍再編の時には魔将候補にも選ばれたという話もあるな。」
私のご主人様は強大な権力者だったようだ。魔王直属の六魔将ではないとはいえ候補に選ばれるとなると、私など小指一つで吹っ飛ばすことができるんだろうな。
「たっだいまー」
ふいに陽気な声がして扉が開いた。そこに現れたのは荷物を抱えメイド服を着た黒髪ショートの女の子。人との違いは、猫耳がついてしっぽが生えてることか。魔族といってもなんともかわいらしいことだ。
「あれ?お客さんが来てたの?ごめんごめん。」
「いや、こいつは客ではない。エリアル様のきまぐれで一家に入ったニンゲンだ。」
謝った猫魔族にグリフさんがすかさず否定する。
「ツバサです。よろしくお願いします。」
「あ、ええと、ノ・・・じゃない、ルミナだよ。僕も割と最近入ったから新入り仲間だね。」
「そうなんですか。がんばりましょうね。」
ルミナさんはとても好意的に迎えてくれたので、ここが魔族たちの一大拠点である事実など頭から吹っ飛んでしまった。
「ルミナさんは猫、なんだよね?」
「ルミナでいいよ。昔は人に飼われてたから料理とか掃除とかそういうのが他の魔族より割と得意でさ、屋台で料理作って売ってるときにエリアル様にスカウトされたんだ。」
「勝手に寝床を作れって言われたんだけど、どこかいい場所はあるかな?」
「うーん、応接間は生活スペースにしたくないし、倉庫や台所は寒いし、客間を
従者が使うってのもねぇ。よし、私の部屋を少し貸してあげよう!」
「え?一緒の部屋ですか?」
「上の階の人たちはともかく私みたいな下っ端が一人で一部屋使えることが贅沢だったんだから、別にかまわないよ。荷物も特にないみたいだし。」
人同士だったら男女で同部屋なんてのはありえないような気もするんだけど、種族も違うしいいのか?いや、そうじゃない。奴隷だった身の上で倉庫ではなく部屋で寝られることに感謝すべきなんだ。
「それじゃあ、荷物を片づけてからでもいいから案内してもらえるかな?」
「おっけー、じゃあちょっとまっててねー」
そう言って奥へ小走りで走っていった。
「お前に一つ忠告だ。ツバサ。猫は気まぐれだぞ。」
ふいにグリフさんが話しかけてきた。
「今日は機嫌がいいみたいだが、毎日そうだとは限らん。共に寝起きするなら覚えてくがいい。」
「ありがとうグリフさん。あなたは優しい男だな。」
「ツバサ、お前は我ら一家が一番授かりたかった名を貰っているのだ。エリアル様の翼と
なるべく自らの役割を全うして見せよ。その時には私もお前を仲間と認めよう。」
グリフさんの重い期待を背負ってしまったが、精いっぱいやるしかないな。
次回「仕事の準備」です。