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人類は魔族に負けました  作者: よす
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1話 売られた男


 暗闇を照らす不気味な青い炎の燃える燭台が魔王の座る玉座まで続いている。勇者と呼ばれた男は魔王の兵を何千、何万と屠り、ようやくここまでたどり着いた。これまで多くの仲間の助けを借りてきた。救えない命もたくさん見てきた。だが、それも今日で終わる。頼れる仲間と共に玉座へと向かう。


「勇者よ、よくここまでたどり着いたな。我が力の前に屈するがよい!」


「魔王ロアよ!貴様を倒し、世界に光を取り戻して見せる!」



そして、5年の時が流れた


「次!7番、来い!」


 屈強な豚魔族の声が牢屋に響く。鎖のついた首輪と手枷をはめられた。今さら逃げる奴なんていないだろうけど、万が一にも逃げたり客を傷つけたりしないようにってことなんだろう。薄暗い通路を連れていかれ、外の広場に出る。そこは昔の円形劇場の後だろうか、階段状になった客席には多くの魔族たちが座っている。私はステージの中心に押し出された。司会らしき鳥魔族が客に声をかける。


「次の商品はニンゲンの男だ!年は25!力仕事もそこそこできる上に昔は子供に学問を教えてたっつう位に頭も切れる!ただ食べるだけに買うのはちょっともったいない高級品だよ!始まりは50シルバから!」


 5年前、私たち人の希望、勇者は魔王に挑み、そして敗れた。残された人のほとんどは魔王軍に立ち向かい殺されるか、侵攻に巻き込まれて命を落とした。わずかに生き残った人はあちこちに隠れ里を作りひっそりと生きている。そして、魔族の人狩り部隊に見つかると奴隷として魔族に売られるのだ。売られた先のことはわからないが、先の話からするとただ食われることもあるようだ。客たちが思い思いに値段をつけていく、自分の値段が上がっていくのが楽しいなんて考えは自分の境遇を思えば出てこないのかもしれない。それでも安く買われるより高く買われた方が大切に扱ってもらえるんじゃないかと期待してしまう。


「3ゴルド!」


 ひと際大きな声が会場にこだまし、その後、オオーッという歓声も聞こえる。


「よし、他にはいないね!3ゴルドで販売だ。」


 鎖を握っていた屈強な豚魔族が首輪と手枷を外してくれた。

会計を済ませた購入者が近寄ってくる。ローブに身を包んでおり、フードで顔も隠しているのでわかりにくいが胸のふくらみを見るに女性なのだろう。身長は私よりもかなり低いので5セルくらいか。とりあえずステージからは退散し、ローブの女性の後に続いて奴隷市場を後にした。


 魔王の侵攻で滅びた町を再利用して作られた町並みは何というか、基礎だけはしっかりしていて、そこに木と葉で作った家があるので、とてもちぐはぐな街並みだった。

 足元はレンガで舗装されてるので歩きやすいが何かのフンが落ちていたり、ゴミや死体が放置されていて所々で腐臭を放っている。


「こっちだ」


 向かった先には立派な二階建ての洋館があった。外から見ても部屋の数は6部屋はある。魔王の侵攻で破壊されてない物件があったのだろう。木と葉の家とは比べ物にならない住処だ。ということは、私のご主人様は魔族の中でもかなり権力か財力を持っているのだろうか。庭の途中で急にご主人様が振り返った。


「ここまで来たらいいだろう。私の名はエリアルだ。しっかり覚えてもらうぞ。」


 そういってフードをとった。エメラルドのような輝く薄緑の長い髪に緑の目、細く端正な顔はお世辞抜きの美人で、自分の運は尽きてなかったのだと思う。


「おい、聞こえているか?それとも、しゃべれないなんてことはないだろうな?」


 エリアルが眉をひそめ不安そうに聞いてくる。せっかく大金を払って不良品だったらかなしいぞ。と、目が言っている。確かに捕えられてからしゃべったのなんて自分の情報を聞かれた時だけだったので、久しぶりに話すのは緊張するが、ご主人様の質問にはきっちり答えたい。


「だいじょうぶ、です。う、うん。話せます。」


 少し切れてしまったが声は出る。エリアルも安心したようで顔を少し緩めてくれた。


「では、名前を決めなくてはな。」


「は?」


「いや、名前がなくては不便ではないか。7番だったからセブン・・・では安直すぎるか・・・ふむ・・・」


あごに手を当てて考え込み始めたエリアルに、


「あの、エリアル、様?私にはクライスという名があるのですが。」


「ん?ああ、そうか、だが、それはニンゲンとしての名であろう。これから我が従者となるのだから新しい名を私が授けるべきであろう」


 エリアルはそれがさも当然であるかのように話すので、おそらく魔族の中では当然のことなのかもしれない。そして、従者になる。というのはもしかして人ではなくなるのだろうか。


「よし、決めたぞ!お前の新しい名は。ツバサだ!」


「ツバサ・・・」


 新しい名をもらったからなのか、クライスという男の名は捨てて、これからエリアルの従者ツバサとして生きていくのだということをなんとなく理解ができた。



次回は「魔族とは」です。


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