第一章 2話 国の犬になってしまう。
角川さんとの「答え合わせ」も終わり、あれが自分達を試すための実験だったと再確認してしまった。
つっかえる事も多いし、なかなか納得はできない。
だが、だからと言って後戻りはもうできない。
「先に、進むしかない…か…」
さっきから何故か頭が痛い。何でこんなに…とも思うが気にせずにドアノブに手をかける。
開けようと思ったが、戸惑った。
妹、彩帆の姿。例えあれが夢だったとしても夢と信じたくない自分がいることも、ここを開ければまたあの悪夢を見る可能性があることも、何かが変わってしまったことが怖い。
ドアの向こうに、今度は何がいるのか、何があるのか全く分からない。
こんな、こんな理不尽なことになるのなら、何か特殊な能力でも何でもいいから欲しかった。
例えば透視とか。でも1番欲しいのは…そこまで考えてやめる。
これじゃ本当に強欲だ、国の犬になってしまう。
誰にともなくため息をつく。
…とりあえず、先に進まなくては。
※
ドアを開けるとそこにはただ広い部屋が広がっていた。悪夢を見なかったことに安心した。が、もしかしたらもっと大変なことが起こるかもしれない。でも気負うままではいけない。気を紛らわせるために周りを見回すとドアが10つ。中央には長机に向かい合って椅子が5つずつ…ということは。
そんなに経たないうちにドアが開いて、他の試験者が出てきた。
皆同じような反応をし、一瞬固まるが、中央に机があるのに気づき、促されるようにそこに向かう。全員が出てきたので、僕は隣の部屋にいた男の人についていき、座る。
全員がほぼ意識せずに座ったが、どこか当然のように女と男で分かれる。何だか合コンのようだ。
だがそんな気楽なものでもない。
角川さんが最後に現れる。
「皆様。国の成果はどうでしたか?」
全員が顔をこわばらせて暗い表情になる。
角川さんはその反応が当然だと言わぬばかりに、気にせず続ける。
「これから約30分間、皆様同士で交流をしてもらいます。もうそんなに時間も無いのでよろしくお願いしますね。それでは、私はここで失礼させていただきます。」
ああ、それと。といって振り返る。
「皆様の中でこの仕組みについて分かった方が2人いました。ですが、その2人は…絶対に他の皆様には話さないように。では、またいつか。」
「また、いつか…?」
ふと零すと、全員の視線が僕に向く。今までそんなことなかったというのに…もしかして。
「あの、もしかして僕の声、聞こえてます?」
顔を見合わせる人、じっと見てくる人もいる。
何か答えてくれよ…
いや、向かいの女の子の口動いてないか…?
「…よ…」
予感は当たったようだ。角川さんがいなくなったので、恐らく夢操者が目醒めたのだろう。
当然夢の外だから、お互いの声を聞くこともできるようになるはずだ。
しばらくは誰も口を開かなかった。が、
「帰りたいよ…お母さぁぁん…うわぁぁあん…!!」
1番小さい子が耐えきれずに泣き出してしまった。
誰も泣き止ませる気などないのか、ほうっておいている。眉をひそめ、聞こえないようにする大人までいる。
(…ダメな大人だな。でも僕も何もできてないから同じか。)
など、考えていると。いきなり僕と同じぐらい女の人が立ち上がり、泣いてる子のそばに寄る。
「はぁーい!ね、泣くのやめよう?お姉さんのお手々見ててね?」
手をパーにして見せて、ひらひらさせる。
「ん…?なぁに…?」
女の子の方も興味が湧いたのかその手をじっと見ている。
その女の人はぎゅっと手を握りその上に小さな子の手を重ねる。
そして
「さん、に、いち!はい!」
ぎゅっと握った手をぱっと開く。
すると、スポンジのボールが3つ。子供が好きそうなマジックだ。
案の定、その子は笑顔になり、ふわふわのスポンジボールで遊んで、その子はその人とも仲良くなったようだ。そして、僕らは女の人に
「何やってるんですか皆さん!小さな子が泣いているんです!少しぐらい、話しかけてあげるぐらいしたらどうですか!」
怒られてしまった。
大人でさえもマジックに惹かれていたようで、はっとしたように地味に前のめっていた身体を引いた。
大丈夫なのか、この人達…
……とりあえず気を取り直そう。
「えっと、皆さん…多分それぞれの部屋で色んな思いがあり、大変だったと思います。ですが、このプロジェクト、恐らく、というより、確実に途中辞退は認められません。ここまで国も手を開いて来ています。乗っかる道しか残されていないかと。」
しん、としてしまうが、隣に座ってたチャラそうな男が
「まあ、そんな深刻に考えない方がイイっすよねぇ!」
と助け舟を出してくれた。
すると力が抜けたのか、場の雰囲気も少し緩くなった。
髪の毛が緩くカーブした女の人が
「えっと、今のうちに自己紹介しときませんか?やっぱり、同じ場にいるんですし、仲間として考えた方がいいんじゃないかなって思って…」
「賛成です。」
「よし、そうするか。」
口々に言って自己紹介で言うことを考えている。何だか久しぶりに見た平和だ。
「では、まずは私から…私は太田 桜、18歳です。大学に通っていて、夢はピアニストです。どうぞ、サクラって呼んで下さい。」
髪の毛が緩くカーブした女の人だ。
「じゃあ左周りで、私ね。私は笹川 唯!25歳で化粧メーカーの正社員やってます!サクラと同じで、ユイって気軽に呼んでね!」
ショートヘアで元気なイメージ。リーダー気質がありそうだ。
「先に飛ばして、あ、心配しなくて平気だよ…?うんうん、ちょっと待っててね…?……よし!私は中川 沙樹、16歳の高校生!気軽にサキって呼んでねー?夢は保育士!小さい子を見捨てるのは許せませんよ!!」
同級生だったか。最後のに少し焦る大人、しっかりしてくれ。
「えっと、八桜 うたです…9さい、です…」
にしても小さいな…何でここに来たのだろうか?
「川田 真奈です。歳は29歳で、フリーライターやってます。」
落ち着いた雰囲気で、お姉さんっぽい。
「長谷川 冬馬、36歳だ。ある事務所で事務長をやらせてもらっている。」
責任感が強そうで、なかなか頼りがいがありそうだ。
「飯田 凛、17っす!高校生!仲良くしてくださいねぇ!」
さっきのチャラ男だ。1つ上か…年下かと思うほどだ。(身長が低い。)
「橋本 瑠衣。19。」
無愛想だな…まあいいだろう。
「田中 凪、35歳で、企業1つ起こして社長やってます。えっと…えっと…よろしくお願いします。」
社長がこんなんで、よくその企業やってけるな。
「僕は隅田 ケイで、16歳の高校生。よろしくお願いします。」
「おぉ、これで皆終わったねー!!じゃあ、とりあえず…」
いきなり部屋が暗くなる。一瞬だったようですぐに明るくなる。
全員の視線が僕の後ろに集まっている。真剣と緊張と恐怖が入り交じったような顔をして見つめているので、僕も何となく後ろを振り向く。
「……ッ!?」
そこには巨大なモニターがいつの間にか現れていた。これから起こることを想像し、恐怖を感じるには十分過ぎたようだ。
「んふ、ようこそ皆様?ユメミプロジェクト、ご参加感謝しまぁぁあす!んふ、んふふふふ!!」
不気味なピエロのお面を被った男が映し出された。
ピエロのお面のその口元が今のほんの少しの平和を壊そうとばかりに歪んでいた。