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序章ープロジェクトの開始ー

3ヵ月前、日本に超巨大地震が起こった。じわじわと攻めるように、経済も回らなくなり、自殺者は過去最多にまで登った。日本から逃げ出す人も多く、ほとんどの人間は死者、行方不明者と共に日本から消えた。今は昔の人口の3分の2が残り、そして遂に日本政府はこの国を捨てる決断をした。

日本が終わるまでの期限は1年。カウントダウンはもう既に始まっていた。


政府は日本中の心理学者、精神科医など「心」に関わる仕事に携わる人びとを集め一か八かのプロジェクトチームを結成した。

その名もユメミプロジェクト。


ー夢を見る。

人間は浅い眠りの時、夢というものを見ることができる。それを夢だと分かればその夢は自由自在に操れると言われている。


そこで、それを利用して「人間が頭の中の夢として創った世界に日本という国を移す」というものを考えた。その為に心理、精神全てを安定、それを継続させ、尚且つ半無意識状態を保つのに様々な人が関わった。

そして、もちろんこの夢の持ち主(ここでは夢操者パンタソスと呼ばれる)には計り知れない負荷がかかる。死者さえも出かねないプロジェクトだ。


月日は流れ、誰にも知られるぬままに技術が完成した。カウントダウンから5ヵ月が経っていた。




ある日だんだん暗くなっていく景色に、僕はうんざりしながらもぼうっとして適当に歩いている。すると。

ピリリリッ、ピリリリッ

軽快な電子音とともに音声メールが届いた。


【あなたは日本の政府によって選出されました。拒否権はありません。今すぐ国会議事堂、本堂に向かってください。会議は全員集合次第始めます。望みが…あ……。繰り返します。あなたはーーーーー】

機械の音声で僕の電話番号あてに連絡が来た。


いや、電話番号どうやって知ったんだよ。まあ今の日本でなら筒抜けか。と自分で勝手に納得し、しばらく音声を流しっぱなしにする。

途中気になることも言っていた。それが本当になるなら向かわなければならない。


もう夕日は沈み、すっかり暗くなっている。電灯は意味をなさずに切れている。こんな中歩き回っても悪いヤツらにつるまれるだけだ。流れ続ける音声メッセージに無感情に急かされている気がして、音声を切った。


「しょうがない、向かうか。」


細い道から国道に出る。適当なところで道を走るあと何台あるか分からないタクシーを捕まえて、国会議事堂に向かうことにした。

ラッキーなことに国がお金は負担してくれるらしい。普段は遠回りばかりするタクシーの床を踏んで急かすところだが、今日ばかりはいくら回っても大丈夫だぞ。運転手さん。


案外真っ直ぐに着けたこの政治の集大成の場はがらんとしている。手入れのされていない庭には草は伸び放題で、ゴミは捨てられ、木は枯れている。昔の面影などはもうない。あるのは何とも言えない不安感だけだった。

わざわざ見に行く場所もないので、議事堂の本堂へ向かう。そこが待ち合わせになっているようだ。


僕がつく頃にはもう他の人は集まっていたらしい。だいぶ小さい子もいるんだな…と、考えていると


「隅田様。おかけ下さい。これからユメミプロジェクトの説明を始めさせていただきます。」


いかにもな場違い感なので(周りはある程度しっかりした格好だが、僕はTシャツにジーパンだ)人を待たせてしまっているので早々に座らせてもらうことにする。高級そうなふわふわのクッションが乗った木製の椅子。座ると、ギシ、と音が出たが気にせずに目の前の取り締まり役の方を向く。


目が合ったが、すぐに彼女の方から目を逸らされ、全体に移った。


「いきなりの事で申し訳ありません。皆様にはそれぞれ担当の者が付きますが、私は夢操者パンタソス担当、つまり皆様全員の方の担当をさせて頂きます。角川です。」


しん、と部屋が静まり返る。

その後も色々と説明がされて、大体は理解した。そして最後に「成功した方は望むものを手に入れることができる」と言った。

無表情な人がほとんとだ。怒る人はいなかった。いきなりこんなこと言われて対応できてしまうのか。若しかしたら、下手したら死ぬかもしれないのに。

この場所ではもう感情も欠落しているのか。

他人事のように残念に思った。

だが周りから見てれば僕は、同じように無表情だったんだろう。


しかし無表情なのにその中に熱を持っているのは気のせいではない。何故なら、そう。これはただの日本を救う慈善行為のプロジェクトでは無い。リスクを背負う分失敗はできない。

それに今までで失ったものはそれぞれで大きい。


それをあの世界なら取り返せると言われたら。そしてそれがより大きく、より望んだ順に集められているとしたら。


政府は汚い。こんな馬鹿げたプロジェクトでも皆をやる気にさせてしまったのだから。


政府は最初からこれを無償でやらせるつもりじゃないのだ。失ったものーー僕だったらたった1人の大切な妹。それを自分の頭の中で、夢で、創ることができたら。自分の夢で世界を創ることに成功すれば、そのままそれは残る。


(最後まで天才なもんだ…!こんなこと…!!)


失ったものは創ればいい。このプロジェクトを考えたヤツらのやりそうな事だ。

つまりは欲しいものの取り合い。貪欲に奪うしかない。


僕はこのプロジェクトを完成させる…!絶対、絶対に妹を取り返してやるッ…!


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