佐藤大輔のクソ野郎が死んだ
訃報。
偉大で最高で最悪な戦記作家。
未来永劫クソ野郎閣下、小説家:佐藤大輔。52歳にて死す。
ここに追悼として、私の佐藤大輔への思い出話を記す。
佐藤大輔のクソ野郎が死んだ。
彼の書く小説の多くが傑作と言っても過言ではなかった。
いづれの作品も、人物と世界の深みと激動の流れ、血と鉄と科学と夢と皮肉と諧謔に溢れた小説・物語であった。
しかし、一作を除いて尽くがいづれも、未完・未完・未完。
彼の作品は尽く素晴らしかった。だがそれゆえに読者は憎んだ。
◆
最初に佐藤大輔に出会ったのはいつだっただろう。
たしか、中学生の時分に「漢の名言集」というとある個人サイト(ガンダムをネタに軍事考察・解説系サイトだったか)の一コーナーに嵌ったあたりだったと思う。
(余談だが、「漢の名言集」とその個人サイトを少し前に懐かしくなり探したら見つからなかったので消えてしまったのだろうと思う。私の知る限りで、佐藤大輔作品の名言が一番豊富に取り揃えていたサイトだっただけに残念でならない)
あの名言集サイトは、妙に佐藤大輔作品の名言が豊富に取り揃えられており、中学生ながらその皮肉と諧謔にとんだやり取りや名言に興味を惹かれたものだ。
しかし当時の私はマンガ好きなオタク。友人から当時の流行りのラノベを薦められはしても、決して読みはしなかった男。
「皇国の守護者」という小説の名言を読んで素晴らしく滾っても、小説に手を出すのはどうにも躊躇してしまった。
そんな折に嬉しいニュースを知った。なんでも「皇国の守護者」が漫画化してるらしい!!!
地元の本屋に無かったので、仕事で都市の方に行く父さんにくっついて帰りにデカイ本屋に寄ってもらうことにした。
30分くらい自分で探すが見つからない。最終的に店員さんに聞き、そしてどうにか漫画版「皇国の守護者」一巻と二巻を買うことに成功した。
素晴らしかった。紛うとこなき傑作だった。小説のコミカライズ作品で、こいつに勝てる作品がこれから産まれるのだろうかと唸らされるほどに凄まじい作品だと確信している。
調べたところ漫画の2巻の内容までで小説の1巻くらいとのことで、当時は確か小説の最新が8巻だったので、この漫画は、こいつは長く楽しめるコンテンツだろうと当時の私は狂喜した。
その後、どこでかは忘れたが旅行先の中古本ショップで「地球連邦の興亡」の三巻を発見する。即決で買った。
しかし、一巻はもちろん読んだことはない。手元にあるのは三巻のみ。ましてや佐藤大輔の小説を読むのはそれが初めてだった。懸念はあったが読み進めた。そして確信した。この作家の文章ならば小説だろうと問題ではない、と。
そして遂に、「皇国の守護者」漫画版の四巻を読んだくらいで我慢できなくなり原作である、小説「皇国の守護者」のほうに手を出した。
小説の九巻までを読んだ当時の私の衝撃は筆舌に尽くし難い。というより、もはや覚えていない。
しかし、「皇国の守護者」という一つのファンタジー戦記、小説作品によって、私の趣向が致命的に影響されてしまったのは間違いなかった。
そしてさらに漫画版に期待を膨らませるのだった。ざっと計算して漫画でなら二十巻は行くだろう! と、期待していたのだ。あわよくばアニメ化やもと期待したのだ私は!!!
漫画「皇国の守護者」が打ち切られるというアホみたいな話を聞くまでは。
最初は悪い冗談かと思った。
しかし、調べれば調べるほどに、悪い冗談ではないことを知る。
そして知るのだ。佐藤大輔の小説が好きな者たちの虚ろな苦笑いを、諦めた笑みを、「またか」という嘆きを。
そして悟ってしまう。私が踏み入れたものは煉獄なのだと。
漫画版「皇国の守護者」は5巻にして、小説の展開を知っているものも、知らないものだとしても、不自然な幕切れで打ち切られた。
作画担当の伊藤 悠先生の悔しさが滲むような最後であった……。
◆
その後、ライトノベルである豪屋大介作の「A君(17)の戦争(1 - 9巻 未完)」、佐藤大輔の唯一にして最後の完結済みシリーズ「征途(1 - 3巻)」に手を出す。
「遥かなる星(1 - 3巻 未完)」、「平穣クーデター作戦 静かなる朝のために(一巻完結短編)」、「侵攻作戦パシフィック・ストーム(1 - 3巻、外伝1巻 未完)」も読んだ。
かなりしばらくして、ある意味の原初にしてきっかけでもあった「地球連邦の興亡(1 - 4巻 未完)」を1巻から4巻まで読了。
なぜか不思議とおそらく佐藤大輔の架空戦記での一番の代表作である「レッドサン ブラッククロス(1 - 7巻 未完」には結局手を出さなかった。
佐藤大輔原作の「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD(未完)」が人気漫画になり、更にはアニメ化にもなったときは喜んだものだ。
もしかしたら御大(佐藤)がアニメ化でいくらかやる気になるかも知れんと思ったからだ。もちろんぬか喜びだった。
最近出た「エルフと戦車と僕の毎日 I パンツァーエルフ誕生(上下巻)」は買ったは良いが、今だにどうにも読めていない。
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今でもたまに思う。あの時に佐藤大輔に出会わなかったらどうなっていただろうかと。
あのクソ野郎に出会わなかったら私はどうなったのだろうと。
出会わなければ、と思うこともあった。だが、こいつがいなければ今の私は無かった。
私は出会ってしまったのだ、あのクソ野郎に。
そして煉獄のような荒野を歩んでいたのだ。少し前までは。
新刊が出るという噂に一喜一憂し、音沙汰が無ければ平常運転だなと虚ろに笑っていたんだ。
しかしだ。あのクソ野郎は死んだ。
多数の戦記ファン、戦記作家に多大な影響を与えながら。良い小説は生み出せど、決して”良い”作家ではなかった佐藤大輔という一人の作家。
佐藤大輔は死んだ。
皮肉で言われていた未完の傑作達は、尽く真実の意味で未完の傑作となった。
様々な人々の人生と趣向を狂わせた男が死んだ。
我々を残して先に行きやがった。
先に地獄で待っていろ。
今に貴様が生み出した鬼のような読者どもが続々と行くだろう。
地獄で新刊をひーこらと書かされるがいい。
ああそうだ、彼は最高で最悪だった。
ちくしょう。畜生め。ご苦労様でした。
もっふる さんの感想を読んで、思い出し、思い至ったことを後書きに書こうと思う。
佐藤大輔のファンタジー戦記「皇国の守護者」にこんな言葉がある。
「許しは請わない。 だが、後悔だけはさせない」
佐藤大輔のクソ野郎が死んだこの世界で、私はこの言葉が奇妙に腑に落ちた。
そう、悲しく不思議なことに、私は後悔だけはしていない。
佐藤大輔という作家はどうしようもないクソ野郎だと確信している。しかし、彼と彼の小説に出会ったことに後悔は無い。
それだけのものを得たのだ。それだけのものを読んだのだ。
尽く未完なのはまったくもってたまったもんではないが。
しかし、それでも、彼が書く小説は、唯一無二に面白かった……。
偉大なる未完の魔王。佐藤大輔のクソ野郎に、素晴らしい小説を書いた作家に、献杯。