第三十八話「ハルトの真実」
今日は私がハルトの両親へご挨拶に行く日……。
……。
そこは見覚えのある家だった。この、廃墟のような佇まい。彼の実家であるというのが信じられない。信じたくない。彼は「さあ」と私の手を引く。しかし私は「ごめん」と言って立ち止まってしまった。
「どうしたんだい」
「私、ここ行きたくない」
「何言ってるのさ」
「私、ここ来たことあるもん。もう、本当にごめん」
「実は、僕も出来ることなら行きたくないんだ」
彼の握力が少しずつ強くなっていく。
「どうして」
彼は手を離すと私の肩を掴んだ。彼の熱が肩から指先に伝わっていく。
「僕も異世界から来たから」
「え」
私は彼に見つめられ、私も彼を見つめる。彼の瞳の奥には私と同じ景色が広がっているように感じた。
「ここは僕の実家ではない。この世界に来たばかりのときの僕にとっては怪しい男女二人組の経営するお化け屋敷でしかなかった。先生には、いやミラには言おうか迷ってたけど、信じてほしい」
ハルトの瞳に反射する私に向かって私は頷いた。
「だから、あのとき……私が異世界から来たと言ったときに信じてくれたんだ……。私、茜凛っていうの。改めて」
「ああ、僕は唯香。よろしく」
「え」
廃墟の隙間風の音が際立って聞こえる。しばらくしてから、私はもう一度訊ねた。
「お名前……」
「橘唯香です」
「女性の方……?」
「あ……! 一応……」
「この世界では……」
「あの……ネナベみたいなものです」
……。
「転生したら、男になってて、でも、男っぽくしないと、この人キモいって思われると嫌だったので……。この世界では与えられた見た目の通りに男として生きようって思って……」
私は冷凍庫に取り残されていたように凍って固まっていた。彼、いや彼女は私の肩を揺さぶって、どうにか溶かしてくれているようだ。
「そしたら、私のこと」
「いや、あなたのことが好きなのは変わりません。今は男です」
私はその真っ直ぐすぎる彼女、いや彼の視線で身体にまとわりつく氷を徐々に溶かしていく。どうしてか、私はそれとともに、それまでになかった安心感を得た。
「うちの親ったら、イセカイスリープの研究をしていながら、僕が異世界から来たことさえ知らないんだから、大丈夫だよ。その程度の人なんだから」
ハルトがそう言い終わると、廃墟の扉が突然開いた。
「聴いていた! ハルト、小野寺裕翔の妹!」
あの女だ。もう関わりたくないのに。
「まるで赤の他人じゃないか!」
巴留はそういうとハルトは私を引き寄せた。
「ひゃっ!」
「そうだよ。僕はあなたとは赤の他人だ」
「結婚は認めんぞ」
「……関係ない! 悪いが、好きにさせてくれ。赤の他人なんだから」
「呪われろ! 呪う! ハルト! 大好きだ!」
「僕も今となっては赤の他人だけど、ありがとう、大好きだよ!」
私には何が起こっているのかさっぱりわからなかったが、一件落着か。天晴ということでいいのかな?




