第十八話「懐かしい日々」
佳奈は扉をノックした。
返答がない。
「ふぅちゃんったら、買い物行ってるのかしら」
スピカがそういうと、ポケットから鍵を取り出して扉を開けた。
「ただいまぁ」
扉を開けるとリビングで椅子に座って俯いたフローラが居た。
スピカは中へ入ってフローラの元へ寄った。
「どうしたの? ふぅちゃん」
フローラは顔を上げると、目は真っ赤に腫れ、頬には流れた涙が固まっていた。
「お姉ちゃん、なんでいなくなったの」
「悪かったよ、勝手に出て行ったりして……」
「お姉ちゃん、死んだの?」
……。
「はぁ? 私が死んだ? 勝手に殺さないでよ! ここにいるじゃない」
「お母さんのお迎えが来てるよ……」
スピカの後ろには佳奈が立っていた。
「フローラ、お母さんは生きてるよ」
フローラは飛び上がった。
フローラは佳奈の前に駆けて行ったと思うと、佳奈の手を握ったり、髪を束ねたり、体当たりしたりしていた。
「ちょ……フローラ!」
*
ケンジが行こうとすると、裕翔に止められた。
「お前も一緒に、隠れようぜ」
*
「クロア、良かった……。久しぶりね」
佳奈はクロアを抱き上げた。
「ニャー、ニャー」
フローラはよくクロアに乗り移っていたが、その時よく見た夢について佳奈に話した。
「私が、クロアに乗り移る時、車に轢かれそうになる夢を見るの。その時いつも、女の人に助けられて……最初のうちは誰かわからなかったけど、何回かその夢を見るうちに、それがお母さんだということに気づいたの。ねぇ、話して、何があったのか——」
「イセカイスリープ、過去にも私はあなたたちに言ったはず。私は異世界から来たっていうことを——」
*
裕翔とケンジは家の前の草にまみれて隠れている。
「俺たちは行かない方がいいかもな」
裕翔はそういうとケンジは頷く。
それからしばらく、二人は今までの出来事について話していた。
すると突然、裕翔が悲鳴をあげた。
気づくとそこに裕翔はいなかった。
「おい、裕翔!」
ケンジが叫ぶと何者かに足を掴まれ、引っ張り出された。
「おい、何するんだ!」
ケンジは目を開けると、そこには手錠をかけられた裕翔がいた。
「(……!?)」
知らない男がケンジの腕を掴んでいた。
「裏切りものが、くたばれ」
男はケンジに向かってそう言い放つ。ケンジは抵抗できなかった。
そうだ、俺ら、犯罪者だったんだ……。
*
ギ……ギギギギ……ガチャ……。
久しぶりに聞く音だ。この音とともに俺は自由を奪われた。
ケンジは脱力した。裕翔も離れた牢獄に入れられてしまったようだ。
……寝よう。