第十七話「再会」
その女は、スピカにとって見覚えのあるような顔だった。
「裕翔を返して!」
女は叫んだ。
「佳奈は、イリュージョンを、見たくないの?」
「あなたはやっぱり、どうかしてる! 他人の命をなんだと思ってるの?」
佳奈がもっちーを羽交い締めにしたその瞬間、スピカの金縛りが解け、ケンジは目覚め、ルクスは穴から這い上がってきた。
ルクスが叫ぶ。
「望月君、君が今からやることは無駄だ!」
「なぜだ」
「小野寺君の身体は二つあるように見えるが、それはどちらも小野寺君の本来の身体ではない。そしてもう一つ、裕翔君の魂は片方にしか宿っていない。よって矛盾を与えることはできない! このバカが!」
「なんだとこのチビ!」
結果、イリュージョンは失敗に終わった。
「私の努力が、無駄になった! 呪ってやる!!」
ケンジはもっちーを取り押さえた。
「何をする!」
「裕翔は俺のものだぞ!」
「気持ち悪い。呪う」
スピカは佳奈と呼ばれていた女の方へ駆け寄る。
「お母さんなの?」
佳奈は泣いていた。
「スピカ……。ごめん、私……」
スピカは佳奈の頬を打った。
「お母さんのバカ! 本当に……」
そして、裕翔が目を覚ます。
「……んあ? ここどこだ? ……!?」
辺りを見回すと、目の前でケンジが巴留を取り押さえている。その奥には土まみれのルクス。さらに横を見るとスピカと佳奈が抱き合っている。
「(……俺は……いや、皆……どうしたんだ……?)」
あまりの情報量の多さに裕翔は混乱し、気絶してしまった。
*
俺は巴留に騙されていたという事を知った。
佳奈はスピカたちの母親に戻るそうだ。
俺は……佳奈と、一緒に居たい。だがしかし、フローラがそうはさせてくれまい。佳奈はどう思っているだろうか。
「私、怖かったんだから。最終的には、私一人で飛び降りてた」
「ああ、ごめん。俺も、お前と一緒に飛び降りたかと思ったけど、でも本当に良かった。お前と会えて」
裕翔はここで素朴な疑問を抱いた。
「お前、この世界だと、スピカたちの母親だから、俺よりもはるかに年上なはずだけど、見た目が若いのはどうしてなんだ?」
「裕翔くん、それは気づいてはならなかったかもね、他で言ったらきっと脳みそ吸い取られて干物にされてたかも」
「ああ、またこのパターンか」
この世界のタブーは恐ろしい!
そして何より、ケンジは偽りの存在ではなかったということが知れて良かった。
それだけだ。
巴留はいつの間にかいなくなってしまった。ケンジが巴留のことを取り押さえていたはずだが、恐らく、巴留の罠にまんまと引っかかって逃げられたのだろう。使えない男だ。(ケンジの扱いが最近酷くなってきているが気にするな)
*
ルクスとも別れを告げ、俺、ケンジ、スピカ、佳奈がスピカの家に到着する頃にはもう夜が明け、太陽が光の線を描き始めていた。
佳奈をフローラに合わせるということで、とりあえず俺は隠れた。
「なんで隠れるの?」
佳奈にそう聞かれたが、ここまで答えにくい質問もなかなかないだろう。