第十六話「矛盾」
「人違いじゃないっすか」
「いや、間違いない。お前、小野寺裕翔じゃない方!」
「(お笑い芸人じゃないんだから……)」
「覚えておるぞ! かば……かば、ば、けん……。わかった! カバオだ!」
「違います、さよなら」
三人は逃げるようにその場を離れた。
スピカはケンジを睨む。
「あなた今度から頭巾被りなさいよ! 頭巾を!」
ケンジは咄嗟に気の利いた(?)事を言う。
「頭巾がなくてドキンってか?」
「ぶっ殺す」
ケンジの悲鳴が夕焼け空に鳴り響く。
*
陽も落ち、星が煌めきだしたその時、スピカは立ち止まった。
「ここね」
そこはなにもない(敢えて言うなら草しかない)場所だった。
そこには一人の髪の長い女が立っていた。しかし、周りが暗いため、それが知っている人なのか、知らない人なのかさえわからない。
その女は言う。
「よく、ここがわかった。裕翔は私のもの。あなたのものではない」
スピカは返す。
「裕翔は私のものではない。でも、返しなさい。あなたのものでもないから」
「なら、誰のもの?」
「そうね……裕翔の両親、もしくは大切な人のものかしら」
「裕翔は私の大切な人」
「あなたがどうなのかなんて聞いてないわよ? あなたもケンジと同類ね」
ケンジは学校で先生に指名された時のような反応をした。
「ぅえ? 俺?」
「ケンジと、一緒にしないで。あいつは私よりバカ」
「初対面でそりゃないだろ!」
静まり帰ったその時、ルクスはライトで女の顔を照らした。
「「もっちー!?」」
「バレてしまっては仕方ない。私のイリュージョンに付き合ってくれる?」
「あなた、裕翔になにをするつもりよ!」
「くちあに」
女はそう言うと、スピカは固まってしまった。
「(……前より、金縛りが強くなってる……!?)」
ケンジはもっちーに飛びかかる。
「よくもスピカを!」
女は、降りかかるケンジの拳を掴み、ケンジを放り投げた。
「ぐはッ!」
ルクスは驚きを隠せなかった。
「(まさか、望月君にあれほどの力があったとは)」
「ルクス君、次はお前だ。君はあれだけ研究に協力的だったのに……。裏切ったな!」
「待て、誤解だ。少し話し合わないか。平和的な解決を望んでいる」
「人は話し合いで解決できないから戦争する。人間なんて所詮その程度。くちあに」
ルクスは地面から伸びる手に引きずり込まれてしまった。
「さあ、待ちに待ったイリュージョンのはじまりはじまり……。神よ、この世界に矛盾を与えよ」
二つの魔法陣から出現したのはこの世界の裕翔の身体と、もう一つの世界の裕翔の身体だった。
「(裕翔が二人?!)」
スピカは驚いたが、金縛りの所為で中途半端にしか驚けなかった。
二つの魔法陣から放たれる光が渦を巻いて大きな光となり、空がみるみるうちに明るくなっていく。
すると、別の謎の女がもっちーに近づいていくのをスピカは目撃した。
「(あの女は誰なの?)」
すると女はもっちー目掛けて飛び蹴りをした。
「(……!?)」




