第十五話「部外者」
「あなた達ったら、裕翔探しをもうすっかり諦めてたのかと思ってたわ」
「俺だっていきなりお前が家に帰るもんだから、『裕翔、探すのよろしくね』って言われたのかと思ったよ」
「さあ、早速探しに行きましょ、もう行くところは決まってるわ」
*
「お姉ちゃん、お昼ご飯置いておくよ」
フローラがスピカの部屋の前に昼食を置いた。しかし、スピカの返答がない。
「(お姉ちゃん、反省してるのかしら)」
フローラはスピカのことが気になったので、そっと扉に耳を当てた。
風の音が聞こえる。バサバサと風が原稿用紙を巻き上げる音も。
「お姉ちゃん、原稿飛ばされないように気をつけてよ?」
……。
応答がない。フローラは、スピカが部屋に閉じ込められてしまったせいで、ショックを受けてしまったのだと思い、謝るために扉のガムテープを剥がした。
「お姉ちゃん、ごめんね、だから返事をして!」
フローラは扉を開けた。が、そこには誰も居らず、窓が開いている。これは完全に、窓からスピカが飛び降り、自ら命を絶ったのだとしか思えないだろう。
フローラはショックを受けた。
「お姉ちゃん? 考えすぎだよ……」
怖かったが、窓から下を覗いた。スピカの死体が落ちていると思ったが、何もなかった。
「(……!?)」
*
ケンジとスピカが歩きながら話している。
「一体どこに行くつもりなんだ?」
「わからない、ネタの香りがする方よ」
「適当だな」
「適当の意味も正しく使えないようじゃ駄目ね」
ルクスが割って入る。
「まあ、喧嘩は止まってからしたらどうかな」
スピカが止まる。
「だって、私とケンジが喧嘩するのを通りすがりの人が見たら、絶対ケンジの方が悪いって言われるかもしれないから、かわいそうだよ」
ケンジは苦い獅子唐に当たった時のような複雑な表情をする。
「私だって、何も考えてないわけじゃないのよ、だいたい何よルクスは、他人と他人の間にすぐに割り込んできて、あーだこーだ自分が悟ったかのように、偉そうに……」
「僕は間違ってない」
「ほら、そうやって、わかりきったような言葉、マジムカつくんだけど。生意気が!」
ルクスがいきなり高い声になった。
「酷い! 姉ちゃんの意地悪! 家出してやるぅ!」
スピカは動揺する。
「ちょ、いきなりなにバカなこと言ってんのよ! いつから私があなたのお姉ちゃんになったわけ?」
通りすがりの人がルクスとスピカの様子を見てやってきた。
「そこのお姉さん、いくらなんでもそれは酷すぎやしないか? 自分の弟を散々貶した後、家出すると言った弟のことを、もう家族ではないと言って突き放して!」
「あの、これは誤解です! こいつが、いきなり変なことを言うもので……」
「それにしても酷いぞ! 今では虐待として罪に問われると言うのに」
「……。姉弟ならこのくらい当たり前でしょ! なんなのよあなた、部外者でしょ?」
通りすがりの人はふとケンジの方を見る。
「ん? お前さんどこかで見覚えがあるような……」
ケンジの冷や汗が止まらない。予想していた最悪の事態が起ころうとしている。
「あんた、逃げてるだろ」