第十一話「食蟻獣」
「健太……くん」
巴留がそう呼びかけると、小刻みに震える布団の中から震える声が聞こえる。
「なぜ……なぜ来たんだよ……!」
「学校に、来て」
「ああ……お前はどうして学校になんか、行けるんだよ」
「あなたが学校に来る日を待つためだよ」
「こんな俺を……?」
巴留は小さく頷いた。
巴留はゆっくりと手を伸ばし、布団を勢いよく剥ぎ取った。
「(……!?)」
裕翔は驚き、思わず声を発した。
健太は目を閉じて縮こまっていた。
「早く学校に来ないと、呪う! ずっと、待ってたのに! 気持ちは、察してるけど、いつまで、待たせるのよ! 明日、絶対、来るって、約束、しようよ」
健太は目を開けた。その目つきは鋭く、人間のものとは思えなかった。
「絶対、そんなこと思ってなかっただろ! 嘘だ! これは罠だ! お前は食蟻獣だ! 消えろ! そもそも、お前に待ってろなんて言った覚えなんてない。お前が勝手に待ってただけだろ! この勘違いこけし! 呪えるもんなら呪ってみやがれ!」
裕翔は健太を止めに入った。彼の身体は熱く、全身の筋肉が軽く痙攣していた。
「まあ……落ち着けよ、なぁ、巴留は、その、不器用なんだ。そこらへん……」
裕翔が巴留に目を移すと、彼女は肩を震わせ、笑っていた。
「……食蟻獣にこけしね。これは私の勘違いだった。私は間違ってた。あなたなんて待たなくてよかったのにね。……げに。一層、あなたのことが憎らしく、なってきた。一層、あなたのことを呪いたく、なってきた」
そう言い切ると、彼女は笑いながら泣いていた。
床に落とした涙の粒はそれぞれがくっついて大きくなり、やがて大きな水の塊となって健太の顔面目掛けて襲ってきた。
裕翔は金縛りになって動けなかったが、目の前で健太がその大きな水の塊に顔を埋め溺れているのが見えた。
「(巴留! やめろ!)」
巴留は健太に徐々に近づいていき、水の大きさも増してきた。
「——最低!」
巴留の声が鳴り響いた瞬間、健太の口から気泡が出なくなった。
裕翔の金縛りが解けた。もっと続いてくれ! 何故こんなタイミングで!
健太の顔は白く、唇は青くなっていた。
「巴留……! ああ……」
裕翔は気絶してしまった。
「うまくいったようだな、巴留」
「あなたも、こんな私に付き合ってくれてありがとう。本当に暇なのね」