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居眠り先生とボク

作者: popi

初恋にまつわる、初めて書いた短編です。

星野先生はボクのクラスの担任だ。年れいはたしか27才…だったかな?


ボク?小学二年生の元気な女子だよ。なんでボクって言うかって?お兄ちゃんにあこがれてるから。男の子に生まれたかったから。


でもね、さいきんは女子に生まれてよかったかなって思ってる。だって、星野先生のおよめさんになれるかもしれないから。


星野先生はいわゆるイケメンじゃないと思う。ウチのパパの方がイケメン。たちひろしの若いころに似てるパパ。星野先生はどちらかというと、赤ちゃんみたいな顔してる。ほっぺがいつも赤い。まつげが長い。

それに、よく見ると、目の色がうすいの。うすい茶色のような、ふしぎな色。


そして、お昼休みになると、よく、教室の窓がわにある先生の机につっぷして寝てる。

なんだか疲れてるみたい。


いくらボクたちがまわりでさわいでも、先生の背中に乗っかっても、先生はひたすら寝てる。


寝てる先生にこっそりキスしたことがある。みんな見てない時にチュッてね。パパにオヤスミのキスをするみたいに。でもね、パパはいつもおヒゲが痛いのに、星野先生はおヒゲがほとんどない。ふしぎ、まるでうぶ毛、まるで赤ちゃん。


眠ってばかりいるのに、休み時間にぜんぜんボクらと遊んでくれないのに、それでもボクは星野先生が好きだ。


先生、ボクをおよめさんにしてくれないかなあ。


でもね、じつは、先生の恋人を見ちゃったんだ。


車に乗ってる時、たまたま先生と女の人がいっしょに歩いているのを見た。


「ほしのせんせー!!」


車の窓からさけんだら、先生はこっちを見てちょっとビックリしてた。


いっしょにいる女の人、かみが長くて。


ライバル出現。


ボク…思い切って、先生に告白した。お昼休みに眠ってばかりいる先生にみんながあきて、教室の別の場所に行った後、眠ってる先生にそっと耳うちした。


「あのね、星野先生…ボク、先生がすき。ケッコンしてください」


先生は変わらず寝てた。


とうとう先生から返事はもらえなかった。




3年生になり、担任の先生が変わった。星野先生よりずっと年上の、やせた背の高いその先生は、なぜかボクを目のカタキにして、よくみんなの前でボクだけを怒った。


「おまえは言葉づかいが悪い!おまえは態度が悪い!見なさい、クラス委員の伊藤さんを。ああいう風になれないのかおまえは!」


かわいそうに伊藤さん、とまどったような顔でうつむいてた。顔色が悪かった。ごめんね、伊藤さん。なかよくしてくれてたのに。ボクのせいで、名前を出されてしまって。


ボクは学校の帰り、道路の前にぽつんと立っていた。

その道路はダンプ道路っていう名前でよばれてて、ダンプがたくさん通る。


あのダンプに飛んで当たれば、もうあの新しい担任の先生から、みんなの前で怒られることはなくなるな。


ポーンと、飛んでしまえば…。


「武川さん」


とつぜん聞きおぼえのある声がして、ふりかえると、そこには白いシャツに青いネクタイの星野先生が立っていた。


「星野先生…」


気づくと、泣きながら星野先生にしがみついてた。


先生はボクをさわらなかったけど、きょぜつもしなかった。先生の白いシャツに顔をつけて、涙と鼻水でよごしても、先生はなにも言わなかった。




それから、駄菓子屋さんのお店の外のベンチで、先生がコーラをおごってくれた。

本当はコーラは骨がとけるから飲んじゃだめってママに言われてたけど、前にこっそり買って飲んだ事がある。シュワシュワ甘くてちょっぴり苦くて大人の味で好き。たまになら骨もとけないんじゃないかな。


先生は何も言わないけど、ボクはすっかり元気が出た。


「星野先生、ケッコン…しないの?前のあの人と…」


「え?…ああ、武川さん、車に乗ってたから…。あれはね、ぼくの母です」


「ウソー!?」


「ほんと。ウィッグ…カツラしてたから、若く見えたんだろうな。だからね、もし君が大人になって、まだぼくと結婚したいって思ってたら、その時ぼくが独身だったら、」


先生はそこまで言って、それからだまった。先生の横顔を見ると、とってもしんけんな顔をしていた。とっても後悔をしている顔をしていた。


それから先生はずっとだまってしまって、二度とその話はしなかったけれど、ボクはダンプにポーンとするのを中止することにした。


だって早く大人になって、先生にプロポーズしなきゃならないもの!




新しい担任の先生は、それから数ヶ月して、よその小学校に移っていった。

理由は分からない。

次の担任の先生は若い女の先生で、ぽっちゃりしてて、いつも大きな声で笑っててあったかい先生でホッとした。


伊藤さんは前みたいにうれしそうにボクに話しかけてきてくれるようになった。それと、先生が変わって、伊藤さんが一番よろこんでいるように見えた。だって前の先生、何かと伊藤さんを職員室に呼んでたもの。クラス委員だからって、用事を言いつけすぎだった。いつもニヤニヤして話しかけてたし。


だからボクも伊藤さんも、絶対に前の先生の話はしない。いつも二人で一緒に笑って、毎日がまた楽しくなった。




待っててね、星野先生。

ボク、早く大人になって、先生をおムコさんに迎えに行くよ。


その時まで、できれば、ゼッタイ、独身でいてね、ボクの居眠り先生。







同窓会で40年ぶりにお会いした星野先生は、すっかり白髪になられて、でも、あの時と変わらぬ赤ちゃんの様な雰囲気だった。

印象的な目は、薄い茶色から濃い金色へと変わっていた。


「星野先生…」


「…武川さん…君ですか…」


「私、先生をお婿さんにお迎えに来ました」


先生はその濃い金色の目を大きく開けて、「でも、君…」と、あの時と変わらぬ上品な物言いで答える。

「ぼくは後、何年生きられるか………」


「間に合って、良かったです。それとも、こんなオールドミスは、お嫌ですか…?」


少し離れたところから、40年来の親友、鈴木さん(旧姓伊藤さん)が微笑んで見守ってくれている。


先生は少し震える手で、私の手をしっかり握って、それから赤ちゃんのような笑顔を見せた。


お読みくださってありがとうございます。

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