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エキストラ! ~緑楠学園サイキック事件録  作者: 潮見若真
第3部 その一歩を踏み出すためには
83/88

83.伊織、何度目かの「残像」。山崎は逡巡の末に

ぼちぼち最終章となります。

 目の前の狭い室内を、数名の「鑑識の人」とかいう警察官たちが窮屈そうに動き回るのを、伊織は玄関口に立って呆然と目で追っていた。

 六畳一間に申し訳程度のキッチンのついた、小さなアパートの一室。

 仕掛けられていたという盗聴器は、昨夜のうちに古市探偵の手によって取り外され、部屋は何事もなかったように普通の男子高校生の下宿という佇まいに戻されていた。


 盗聴器を仕掛けた相手が分かったので、「気づかないふり」をする必要もなくなったのだと楠見から聞かされた。それでも……。今この目の前で粛々と行われている作業に、また別の種類の新たな不安を抱いている。

 心細さに隣に立つ楠見を見上げると、楠見は察したように伊織の肩に手を置いた。


 大丈夫。そう励ますように、楠見は口もとだけで小さく笑う。


 都内の放火事件と神奈川県の相原家火災事件がつながり、合同で捜査がされる運びになった。都内の現場で見つかった犯人のものと思われる遺留品。その持ち主を調べるために、伊織の部屋――数週間前まで相原哲也が暮らしていた部屋から彼の指紋や何かを採取するのだという。


 と、その時、軽く音を立てて背後のドアが開いた。三十センチほど扉の開いた隙間から、船津刑事が姿を現す。刑事は玄関を背にして立つ楠見に、ほかの捜査員には聞こえない声の低さで耳打ちするように、


「今のところ、上手くいっています」


 楠見は室内へと目を向けたまま心持ち耳を船津のほうへと傾け、頷いた。


「けど、時間をかけてじっくり調べるってことになったら、誤魔化しきれるか微妙ですよ。正直、賭けです」


「すみません。危険な橋を渡らせて」

 小声で応じ、詫びるように目線を下げた楠見。


 いまひとつ話の呑み込めていない伊織には、なんの話をしているのか理解できない。そこから後は、その伊織にも聞こえないほどの小声で楠見と船津は何事か打ち合わせ、話をまとめたようだった。




 朝から始まった作業は、一時間ほどで終わった。楠見に背中を押されて外へ出ると、まだ太陽はそれほど高くもない位置にあり、向かいの家の、つぼみをたくさんつけたツツジの生垣に光が差している。

 この部屋に帰らなくなってからたかだか十日かそこら。伊織にとっては十五年間の人生の中で最大の事件が詰まった、それでいて時間の停止したような、不思議な十日間。その間に、自分の外側にある世界では季節は少しずつ確実に移ろっているのだということを、伊織は実感する。


 曲がり角まで続く生垣を何気なく目で辿った先に。

 思いがけない人物の姿が視界の端に引っかかって、伊織は思わず息を止めた。


「てっ……」

 叫びそうになって、捜査員が近くにいるのを思い出し寸でのところで声を止めると、考える暇もなく伊織は走りだしていた。


「伊織くんっ?」

 驚いたように声を上げ、楠見が後を追ってくる。


 哲也は生垣の端、曲がり角から半身を乗り出してこちらを窺うように見ていたが、自分を目指して走ってくる伊織に目を向ける様子はない。


(もしかして……また、アレとか?)


 頭の片隅で何度目かになる「幻覚」を疑っていたが、足は止まらなかった。


 伊織がその角に達する前に、哲也は体を生垣の陰に引っ込める。追って角を曲がると、身を翻して駆けていく哲也の後ろ姿が見えた。角で一旦止めてしまった足を、慌ててまた進める。哲也は数十メートル先の角をもうひとつ曲がる。必死に駆けつけて哲也の入っていった角に伊織がたどり着いたとき、少し先を走っていた哲也の後ろ姿が消えた。


(……?)


 足を緩めながら、哲也の消えた場所まで行く。曲がり角はない。途方に暮れて周囲を見回すうちに、楠見が後ろから追いついた。


「伊織くん、どうした?」

「あ、の……今、哲也さんがここにいたように見えて……」

「なに……?」


 眉を顰めるようにして低く言うと、楠見も少し先まで進んで路地の真ん中に立ち周囲を見渡す。


「哲也くんは、こっちに?」

「あの、はい。アパートのほうを見てて……慌てて逃げたように、見えて。追いかけて……ここらへんで消えた……のかな」

「ふむ」


 まだ辺りへと目をやりながら、楠見は顎に手を当てた。

「テレポーテーションしたかな」


「え?」

見た(、、)のは哲也くんの『残像』だろう。俺には見えなかったからな」

「……えっと」

「逃げたんだとしたら……この小一時間――俺たちが中にいる間に、ここに来たのかもしれない。きみに会いに。けれど警察が出入りしているので、近づけずに姿を消した……かな」


 哲也は必ずもう一度、伊織に接触してくるだろう。そう聞かされていた。廃倉庫で話したことの、残りの部分を伝えに。

 哲也の「伊織に伝えたいこと」というのを、自分はもう既に、ほとんど知っていることなのではないかと思われた。火事の原因も、伊織の能力のことも、哲也のことも。伊織は焼け跡で自分の目で見、楠見たちの知り得た情報を聞き、封印されたという自分の能力のことを知った。


 それでも。哲也を安全に保護するために、彼と会わなければならないのだ。組織や警察に見つかる前に。


見えた(、、、)のに――)


 もどかしい気持ちで、伊織は唇を噛んだ。せっかく能力が解放されたのに、それを活かして立ちどころに事件を解決させるような力は伊織にはなかったのだ。

 哲也が去っていくのを、見た(、、)。「残像」をひたすら追うことができれば、伊織は哲也の元にたどり着くことができるのではないかと思った。けれど、それが見えるのも偶然程度でしかなく意図して知ることはできない上に、足で平面的に移動するだけでなくテレポーテーションで別の場所に飛んでしまうのだとすると、追いようがない。


「ひとまず戻ろう」

 楠見が伊織の肩に手を回し、来た道を引き返すよう促す。


 名残惜しく哲也の消えた場所へと首をめぐらしながら、伊織は楠見に従って歩きだした。







(相原哲也の放火は、彼の両親の家だけではなかった――)


 警察署の一室に並べられた事務机の上に、叩きつけるように資料の束を置いて、山崎はしばしの間その机に体重を乗せたまま動きを止めていた。


 昨夜、山崎刑事と白塚刑事が相原家火災事件の捜査本部となっている警察署に到着してから時を置かずして、警視庁からひとりの刑事がやってきた。

 船津と名乗った刑事からもたらされた情報は、捜査員たちを驚かせた。

 東京都内の複数の箇所で、燃焼促進剤も検出されず、発火原因も不明の火災が起きている――そう彼は言った。木造住宅をたちどころに一軒燃やし尽くす炎。けれどその原因が、まったく分からないと――。


 だが、数時間前に神月悠という少年からすでに同じ話を聞いていた山崎の驚きと戸惑いは、別のところにあった。


(聞いていた通りになった。けれど……)


 少年の鋭い眼差しを、有無を言わせぬ口調を、思い出しながら。

 逡巡していた。


『発火の原因は分かっていません。ただ――』

 捜査員たちの前で都内で起きている事件の概要を一通り説明した船津は、険しい視線を作った。自意識過剰だと思いつつ、山崎はその視線が自分に向けられているような気がして仕方なかった。


『手でライターやマッチを使って火をつけているのではない。ガソリンや油で燃やしているのでもない。我々には考えられない、まったくの未知の発火方法を持っている危険性がある。重々気を付けて、捜査に当たってください』


 この発言に、室内には小さくはないどよめきが広がった。反応の半分は、「そんな馬鹿な。調べてみれば当たり前の原因が出てくるはずだろう?」と言ったごく常識的なもの。一方で、誰もがその「未知の発火方法」をそれぞれに頭に思い浮かべていた。

 遠隔操作。時限装置。世間にまだ周知されていない、新種の燃焼促進剤の存在。――そして超自然現象の可能性を頭の片隅に浮かべ、それを即座に打ち消して。


 当夜中に神奈川県内での類似の火災事件の記録が報告され、放火現場に浅からぬ因縁があると目される「創湘学館」に関した表面的な報告書がまとめられ、そして。


 朝を待ち、東京では相原哲也の住んでいたアパートの捜索がなされて。


「出たぞ!」

 書類を携え飛び込んできた刑事の声に、室内にいた刑事たちは一斉に顔を上げた。

「東京の現場に落ちていた遺留品についていた指紋が、相原哲也の住んでいたアパートにあったものと一致した。相原哲也の逮捕令状を請求する。その間に、例の学習塾周辺の人員配備についての再調整だが――」


 神月悠の予告どおりになったことに戸惑いつつ、山崎は手帳を広げた。

 指示される配置をメモしながら、昨日の彼の要求を脳裏によみがえらせていた。


――警察には彼を捕まえることはできません

――相原夫妻のような犠牲を出すことになるかもしれない


(もしも――)

 超能力だなどとは、やはりこの期に及んでも考えられない。けれど、警察の知らない発火方法。一瞬にして家と人を燃やした、恐るべき炎。それがまた、振るわれるとしたら――?


 駄目だ――。内心で首を横に振る。そんなものがあるのだとしたら、捜査員の危険もさることながら、いずれにせよあの高校生たちに解決を任せるわけにもいかないではないか。

 けれど。


 あの神月悠の確然とした瞳がやはり、頭から消えなかった。そして、緑楠学園の楠見副理事長。白塚を尾行していた不思議な少年。彼らは何か、その超自然的な炎を回避する方法を知っているのか……?

 メモを取り終わるのと同時に、捜査員たちは動きだす。すぐに部屋から出ていく者。額を寄せ合って打ち合わせを始める者。騒然とする室内を見回し、山崎はポケットの中の携帯電話を握りしめた。








 船津からの電話を簡単な会話で済ませて、楠見が受話器を置く。

 応接セットのソファでハルは、並んで座っているキョウと一度顔を見合わせて、それから楠見の次の言葉を待った。


 楠見は顎に手を当てて、重いため息を吐き出す。

「……哲也くんに逮捕令状が出たそうだ」


 一言それだけ言うと、立ち上がり応接セットにやってきてオットマンに腰かける。そして、ハルとキョウの向かいの席に所在なく座っている伊織へと体を向けて、


「どうにか先に見つけて自首を勧めたかったんだが――済まない。けれど、組織に命を狙われている状況となると、これが一番安全だと思う。最善の方法で解決させるよ」


「あ、は、はい……」

 伊織は要領を得ない顔で、戸惑ったように頷いた。


 早い段階で哲也を見つけ出し自首させることができれば、罪は軽くなったかもしれない。――とは言っても、そもそも罪に問われることはほとんど有り得ないサイ犯罪であるから、どの段階で捕まろうが結果に影響する可能性は低いが、それでも警察や検察の心証は変わってきただろう。

 だが、逮捕令状が出た今、相原哲也は指名手配犯だ。

 この後、哲也の身がどうなろうとも、前歴は一生ついて回る。下手をすれば伊織にも影響する。


 けれど、そこまで思考が追い付いていないらしい伊織にどういう言葉をかけていいのか分からず、ハルは楠見がローテーブルに置いた資料を取り上げて、その半分をキョウに手渡した。そうしてテーブルの隅に置いてあった箱を引き寄せると、そこに入っていた黒い碁石をひと掴み取り出してテーブルの上に置く。


 ローテーブルには、東京都と神奈川県の地図が並べて広げられている。そのうちの東京都地図――火災現場と学習塾の教室に印がつけてある――のほうに、資料を見ながらハルとキョウは手早く碁石を置いていく。

 船津から送られてきた、捜査員の配置場所の情報である。


 伊織はやはり目の前で何が行われているのか理解できていない様子で、それにぼんやりと目をやっていた。


 スマートフォンが振動を始めたのは、東京都地図のあちこちに碁石が散りばめられた頃だった。


「来た」

 つぶやいて、一度キョウと楠見に視線を送る。

「山崎刑事だ」


『――いいかい? 一度しか言わない。今の捜査員の配置だ』

 押し殺した声で、早口に告げる山崎。口調にはまだ逡巡が滲ませながら、念を押す。

『今日いっぱいの情報だ。変わっても連絡はしない。この一回だけだ』


「分かりました。お願いします」


 答えて、ハルはすでに学習塾の教室所在地だけマークしてある神奈川県地図に目を落とした。

 山崎がメモを読み上げるように告げる箇所に、残りの碁石を置いていく。

 最後に礼を言ってまた連絡をする旨を伝え、淡々とした通話を終えた。


 テーブル上に並べられた地図を見て、楠見は口もとにだけ満足そうな笑いを浮かべた。

「やったな、ハル。ご苦労さま」


 不機嫌な表情を作って、ハルは楠見に抗議の視線を向ける。

「まったく……上手くいったからいいものの。こういう交渉ごとはね、楠見の仕事だと思うんだよ、俺は」


「いや、ハルが適任だよ。俺は既に彼らには反感を持たれちまってるしな。俺が言っても聞く耳を持たないだろ? そこを行くと、有無を言わせず相手に話を聞かせることにかけてはお前が一番だ」

「楠見の計画はいつだってアバウトなんだから」


「それをいつだって結果オーライにしてくれるお前たちは、本当に優秀だよ」

 両手を広げて微笑む楠見。

 ハルとキョウの顔を等分に眺めながら言うので、この「計画」に関してはまだティカップとトイレのドアを壊すことしかしていないキョウが、満足そうな顔をする。


 そうなると、キョウに嬉しそうな顔をさせることを至上命題としているハルとしては黙るしかなく、先にキョウの機嫌を取りに出る策士の楠見にハルは一度嫌な顔をするに留めた。


 楠見はそれをやり過ごして地図にまた目を落とす。


「それはともかくとして。これで――」地図上には、満遍なく碁石が散りばめられている。「この範囲内にいる限り、少しの間は哲也くんの身は安全だろう。これだけあちこちに警察官が張ってたんじゃ、組織の連中もすぐに派手な動きは取れないだろうからな」


 警察に学習塾の情報を渡し、哲也に自首させることを諦めてまで大規模捜査に踏み切らせた狙いはそれだった。

 創湘学館の教室は、大手学習塾ほど数は多くないものの、東京・神奈川全域に比較的くまなく所在していた。塾と事件の関連が警察に知れたことが分かり、この塾の近くで相原哲也を追う警察官が目を光らせていれば、組織の連中もまず滅多なことはできないだろう。対策を立ててくるにしても、多少の時間稼ぎにはなるはずだ。

 だが、警察が睨みをきかせている地帯に立ち入りたくないのは哲也も同じ。そしてハルたちにしてみても、警察が先に哲也を見つけてしまうのは避けたいのだ。

 ハルはもう一度地図に目を落とす。


 警察の警戒の「穴」になっている場所に哲也を呼び出し、組織よりも早く彼を見つける。


「問題は、どうやって哲也くんを呼び出すか、だね……」


 ため息混じりに言うと、それまで話について来られていない様子だった伊織もここは思考が追い付いたらしく、携帯電話を取り出し一度開いて、すぐに閉じた。

 哲也から連絡が来ないことがまるで自分の責任だとでも思っているかのように、申し訳なさそうにほかの三人を見回す伊織。


 慰めるような控えめな笑みを、楠見は作った。

「いや、哲也くんもかなり焦っていることだと思うよ。隙を窺っているんだろうが……」


「隙を、ね……」言いながら楠見とキョウを交互に見る。


 おそらく二人とも、その方法には思い至っているはずだ。

 隙を作って哲也をおびき寄せる方法が、ひとつだけあるのだ。


(彼はたぶん、『人』を目印にしてテレポーテーションができる……)


 そして――。伊織もそれに気づいたらしく、ハッとした表情で姿勢を正した。


「あ、あの……」

 おずおずと、声を上げる。

「俺……俺がその、一人になれば、哲也さんは、その、会いに来てくれるでしょうか……」


 問われた楠見は、すぐには答えない。伊織をじっと見つめ、腕を組んで長い息を吐き出した。


「……オトリになんのか?」

 聞いたのはキョウだった。不快そうに眉根を寄せて。その真っ直ぐな視線に、伊織はたじろいだ顔をする。


「えっと、オトリって言うか……ただ、その……哲也さんは俺とだけ話せるチャンスを狙ってるんだろ? だったら……」

「だからそれがオトリだろ」

「いや、だけど……て、哲也さんは、俺には、その……」


「伊織くん」言い淀んだ伊織に、ハルはできるだけ優しい口調で声を割り込ませた。「哲也くんはたしかに、伊織くんを傷つけるつもりはないと思うよ。伊織くんにとっては哲也くんは危険じゃない。けれど、彼は能力のコントロールができない。そんなつもりはなくても、何かの拍子にまた強大な力を発現してしまう危険もあるんだ。彼のことを狙っている組織も、かなり物騒な連中だし、いま伊織くんを一人にすることはできない」


 伊織は必死に何か考えている様子ではあったが、反論が思いつかないという風に顔を伏せた。

 無謀に一人で行動して、キョウに怪我をさせてしまったことを思い起こしているのかもしれない。


 けれど言ったハルとしても、ほかに手はないのは分かっている。警察も動き出した今、何日も哲也からの連絡を待ち続けることはできないのだ。


「そうだな。ハルの言うとおり、きみを一人で行かせることはできない」

 楠見が前かがみに両肘を腿について、手を組み合わせた。そうして三人の高校生を順に見ながら。

「けれど、たしかにこれ以上確実な方法もない」


「あのっ……」その言葉を受け、伊織はわずかに勢いを得て、「お願いです。俺、哲也さんと話がしたいです。オトリとか、おびき寄せるみたいなのじゃなくて……いや、そうなのかもしれないんだけど……でも」


 膝の上で握りしめた拳に力を込め、必死の様子で楠見とハルとキョウを見回して、

「そういう風じゃなくて。ちゃんと話して、楠見さんやハルやキョウたちが力になってくれるって、分かってもらいたいんです。お願いします!」


 深々と頭を下げた伊織。そのまま自分のつま先を見つめるようにして動きを止める。

 しばしの間、伊織に視線を向けたまま楠見も、ハルもキョウも沈黙していたが、やがて。


「俺が一緒に行く」

 ぽつりとキョウが言った。


 その言葉に、伊織が頭を上げる。

「え! い、いいの……?」


 必死な様子で目を見張る伊織に、キョウは無表情にひとつ頷いた。


「一緒に行って、哲也が能力暴走させても組織の連中が来ても、伊織守る。だから楠見、行かせろ」

「……お前、また怪我したりしないだろうな」

「しない。伊織にも哲也にも、させない」

 きっぱりと言う。


 楠見は正面から見つめてくるキョウを見返し、ほんの少し考えるような間を取って、そしてため息とともに頷いた。


「分かった。哲也くんへの接触は二人に任せよう。ハル、援護を頼むよ」

「了解」


 伊織がまた目を見張り、キョウはほっとした顔をする。


「よし、すぐに動くぞ」

 言って、楠見は立ち上がった。

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