モモ、ひかるを追い抜く。
モモの片方の犬歯が抜かれてから、どの位の月日が経ったろう。
明らかに片方の犬歯が伸び、歯茎に食い込む様になって血まで出ている。
御飯も食べ難い様であった。
そして、伸びた犬歯はいつだったか、折れて無くなっていた。
この事があってから、動物病院を変えたのだった。
そしてまた月日が流れ。
モモは一時期、かなりの短期間でねずみを捕まえては、人に見せる様になった。
そのどれもがいわゆる「半殺し」状態で、僕はそのどれも、モモを褒めた。
ただ、そういう、モモが捕まえてきた中で僕が覚えているのは。
僕が二十歳を過ぎ、当時サバイバルゲームにハマって居た頃だ。
モモが、小さめのねずみを捕まえて来て、僕に見せにきた。
その、捕まえられたねずみの怪我は少なく、さほど弱って無いのが見て分かる。
僕がじっと見ているとモモは、事もあろうにそのねずみを口から放したのだ。
するとねずみは結構な速度で部屋の角に逃げる。障害物はない。
僕はこの時、ネズミに変なばい菌があるんじゃないかと警戒する。
捕まえようとして、もしも噛まれたりしたらたまった物じゃない。
そう考えた僕は、何処かのメーカーのエアーソフトガン「GLOOK17」を取り出して、
BB弾をを込めて、銃身をスライドさせる。
それで、万が一の準備はオーケー。
放たれたネズミは、僕が眼に入ったのか、余り動かず警戒している様に見えた。
それで、僕とは反対方向に逃げるのだが、そうするとモモがねずみに近寄って前足の爪を立てて
引っかき、逃亡の邪魔をする。
その時モモは、何故か僕のほうを向くのだ。
僕が
「モモはねずみを捕まえたんだよな。偉いねー」
とか言って頭を撫でると、モモは再びねずみにちょっかいをかけて、僕の方へ寄せてきた。
ねずみはチューチュー鳴きながら僕の方へ寄ってくる。
僕は近づかれるのが嫌だったものだから、少しでも遠ざけようと、ネズミの横に回りこんで
、銃身を向けてトリガーを引き、BB弾を放つ。
ネズミの身体とエアーソフトガンの距離は僅か2センチ。
僕はこの時
「こんな至近距離だけど、威力の弱いソフトガンなんだ。弾は体を跳ね返るさ」
と、こう思っていた。
しかし、実際は違った。
「キイィッ!」
BB弾はネズミの身体にめり込み、そこから鮮血が走る。
「えっ?ホントかよ!」
僕は、予想外の事に慌てふためいた。
それから、部屋の絨毯にネズミの血がついたら大変なので、ネズミの身体にティッシュを被せる。
すると、ネズミは横に倒れて動かない。
様子を見ると、お腹の鼓動は大きくなり、目を細めて、苦しそうだった。
それをモモはじっと見つめていた。
・・・やがてネズミの命が途絶える。
息絶えたネズミを僕は、数枚のティッシュと新聞紙に包み、自宅の庭先に埋めた。
過去にこの様な事があったのだけれど、後に猫の行動の事を書いた本で調べたら、モモの
あの行動は「親が子に狩りの仕方を教える為にした行為」である事が分かった。
つまり、あの時点で僕はモモに「年齢では下」に見られていた云う事になる。
この時既に、モモが生まれてから十数年。
モモはとっくに大人になっていたのだ。