遂に誕生。そして保護。
翌朝、応接間に入ると結構キツめの、水が腐ったような匂いがした。
その匂いの方向へ行くとその匂いの元の近くにいた風太郎が一目散に、椅子の下に隠れるのが見えた。
それで、水槽に目をやると、金魚がいない。
この時に僕は、風太郎に食べられて、無残な姿になった金魚の姿を想像したけれど、違っていた。
水槽の脇で、食べられること無く死んでいたのだ。
当時小学生だった僕には、何か気味悪く思えた。
しかし、暫くすると、風太郎は椅子の下から出てきて、死んだ金魚をじっとみていた。
確か、この時からだった。風太郎が僕に警戒心を解き始め、接近しても平気になったのは。
それから親が2階の寝室から降りてきて、金魚の死んだ状況を見るなり
「びっくりして水槽から飛び出したかな?」
と言う。
それから、菜箸で金魚を掴み、
「まだ大丈夫かな?」
と、水槽に戻してみる。箸から離れて動く事は無かった。
「あー。やっぱりだめか」
と、金魚を引き上げ、新聞紙に包んでから、家の庭に埋めた。
その日。何故か大人しくなった風太郎。僕は風太郎の頭を撫でようと手をだした。
そうしたら、風太郎は逃げる事無く、頭を撫でさせてくれたのだ。
これが結構嬉しかった。
この日から、風太郎は家族全員に警戒心を解き始めた。
餌をあげる時は、皿を離れた所に置いて食べさすのだけど、足りないと寄ってくる。
これの繰り返しで、風太郎はほぼ家猫になった。
「風太郎、おいで」
と、繰り返していく内に名前も覚えてくれた。
トイレは、まだこの時は、外に出たい時は窓を開けようとするたま、外に出していた。
でも、月日がたち、家の中で粗相をしたため、それをきっかけに魚屋に行って、大きめの発泡スチロールを貰い、
トイレ砂を入れて、躾をすることに。
そのタイミングは、風太郎が外に出ようとした時に、風太郎を抱えてトイレまで運び
「トイレはここだよ」
と、数回繰り返した。
すると、しっかり覚えてくれたのだ。
それからは、家猫として普通の生活。
風太郎の気ままに、距離を置いてそこに居たり、寝たり。
寝てる間に触ればゴロゴロの喉を鳴らしたり、御飯の時は空いている椅子の上に座り、前足を乗せてテーブルを
覗いたり。
時には鳴いて催促したり。
そんな毎日。
たまにお刺身をあげ、悪戯にわさびをほんの少し付けたのを与えると、動きが止まり、涎が大量に
でたり。
これは、今思えば結構可哀相な事をした。
そしてまたたびを与えれば、これを目当てに兎に角ひっついて歩き、またたびの側で何回も寝返りを
うって酔っ払ったり。
家猫として普通の生活。
そして月日が経ち、風太郎のお腹が明らかに大きくなった。
お腹を擦ると直ぐに猫なで声で座り、動きを止める。
父親は誰なのか?
そして、風太郎に異変が起きた。
近づくとやたらとシャーッと鳴く。やたらと気が荒いのだ。
これを見た父が
「これは、ひょっとすると近いかな?」
そう言って翌日には、大きめのダンボールとタオルを数枚用意して、風太郎を外の物置の扉を少しだけ
あけて閉じ込めた。
翌日。
朝に、どんな様子か覗きに行こうとしたら父に止められた。
「こら。ひかる。物置に近づいちゃだめだぞ。風太郎は警戒心が強く気が荒くなってるから、子猫に
手をだすかも」
しかし僕は、この父の忠告を無視して物置の直ぐ側まで行ってしまう。
そうしたら
「駄目だっていったろう!」
と、怒られたのだ。
そして翌日の夜。
「ひょっとしたら生まれているかな?」
と、父が懐中電灯を持ち出して物置の扉を開ける。
そうするやいなや
「うわっ。やっちまったか」
と言った。
この時、風太郎は物置から出てきて家に入って来た。
僕が風太郎を見ると、口の回りが真っ赤なのだ。
風太郎は皿にある水を飲む。
これをみた時に、僕はまさかとは思ったのだが、
「ひかる。物置に近づいちゃ駄目と言ったろう?風太郎の口が赤いのはみたか?」
「うん・・・」
「そうか。風太郎はな、自ら子猫を食い殺したんだよ。初めての出産で気が荒い上に、会社で知人に
聞いたんいだけど、何か危険があると、パニックになって子猫を食い殺す事があるそうだ。
それだな。全部死んでたよ。こりゃ後始末が大変だ。ひかる。お前が物置に近づいたからだぞ」
「ごめんなさい・・・」
僕は、子猫の生きた姿が見れないのと、父に怒られたダブルショックで泣いた。
それから、また月日が経った。
この頃にはもう、おふみ、じゅげむは全く姿を見せなくなった。
そして、約4ヶ月が経ったある日。
風太郎のお腹が明らかに大きくなっていた。
この時に父が
「猫は1年に3回は生むと聞いたが本当みたいだな。ひかる。いいか?今度は絶対に物置に近づくなよ」
そう言われたぼくは、物置に決して近づかなかった。
それから4日が経った。
その日の朝、茶トラの顔の平べったい不細工な猫が物置に入るのを僕は目撃した。
「もしかして、風太郎の相手ってこいつ?」
思わず声がでる。
それから、学校から帰り、風太郎は家の中に居たので、子猫を見れるチャンスと思い、僕は物置にあるダンボールを
を見る。
そして見ると、段ボールには4匹の猫が寝ていた。
一匹は三毛猫。二匹は茶トラ。そしてもう一匹は黒猫。
その姿を確認して直ぐに物置から出た。
また、その日の夜。
外にでた風太郎と共に、時間差で、顔の平たいぶさ猫が外に居たのをみたのだ。
そしてまた翌日。
風太郎が家の中で寝ていたので、また、物置に行って子猫の姿を見ようと思い、ダンボールを覗いて
みた。
すると、三毛猫を除いて、後の3匹の猫の姿が無かったのだ。
僕は何で居なくなったか、想像を巡らす。
それで、結論として、あのぶさ猫が1日の内に三匹を連れ出し、残った三毛猫は、風太郎が同じ三毛猫
なので護ったか、ぶさ猫が茶トラなので興味なく残ったか。
こんな結論になった。
父は、二匹も飼うのが面倒らしく、保護を反対したが、母や兄の協力もあって、生まれたばかりの三毛猫を
部屋で保護して、風太郎と共に、家の中で飼うようにしたのである。