最後の団欒
────コンコンコンコン
包丁がまな板を叩く音が心地好くヒビク。自分はカ行の音が他の音より、印象深く聞こえるのだ。今日は遊び疲れた。
「今日の飯何ー?」荒っぽく兄が聞く。
そう言えば今日のご飯は何だろう。いや、兄は...
「何でもいいじゃないか、母さんが作るものは何でもうまい」と父さんが....
母さんが...何かをつぶやいた気がする。
すべてが霞んで行く
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「やっと起きたのね」
酷い頭痛と霞んだ景色の中、彼女が言った。
「ここは...」
自分の記憶と事実関係を繋ぎ合わせ、ここは仮想空間だと結論した。
「何故僕の家族を殺した」
「何となく」
やっぱり彼女の答えは変わらないようだ。
「いいか?僕は判別者で君は容疑者だ。僕が合図をすれば君の現実世界での体は分解される。」彼女の態度から、少し高圧的に話した。
「えぇ、それが目的だもの」と態度を変えず言い放った。
僕にとって彼女の発言は驚きを隠せなかった。死ぬ為に彼女は人を殺したのだ。僕の家族は、ただ、それだけの為に殺されたのだ。
「...この辺りを、散歩しようか」
驚きのあまり、訳の分からない事を口走ってしまった。
「面白そうね」
彼女は少しはにかみながら言った。
彼女が初めて見せた表情は、少し魅力的だった
────コツ コツ コツ コツ
彼女と辺りを歩いてみたが、どうやら仮想空間はお互いの記憶が混ざり合って出来た物らしい。
「この通りはあなたの記憶?」彼女が口を開いた
「あぁ、僕の学校の通学路だ」
「幸せそうな顔をしてるのね」
「そうか」
嬉しそうに駆け抜けようと、停止した僕が写っている。小学生の頃に兄とよく通った通学路だ。だから僕が写っているのは別段不思議ではない。だが、そこにはあるべき物、兄が写ってない。彼女は僕の家族どころか、僕の幸せな記憶まで殺したのだ。
────コツ コツ コツ コツ
僕は、小人の人形が置いてある家の前に立ち止まった。
「あなたの家?」
「そうだ、僕の家だ」
「扉が半開きになってるわね」
「そうだな」
僕は覚えている。父親が出張帰りに、お土産に小人の人形を玄関の前に置いた事を。僕と兄は、父親がドアを開ける直前に家に着いたという事を。
「家の中に入っていい?」と彼女は目を輝かせながら言った。
「あぁ」素っ気なく同意した。
彼女は、僕の家の中を見て回った。
僕は台所に向かった。
「...やっぱり」僕は浮いた包丁を見て呟いた。あの夢が、記憶上、最後の家族団欒になったのだ。