Episode:05 何気ない日常の中で
5話目投稿ー。
ここは、軍団と蟻ン子達が棲む岩山から、最も近い場所にあるカテジナ王国のホーン侯爵領。
かつて神殿協会の大神殿があった、建国以来412年の歴史を誇る、最も古い王国のその一角。
ホーン侯爵の屋敷、その執務室で、侯爵その人が苛ただしげに、部屋の中を歩き回っていた。
「誰か!誰かおらぬか!」
「はい、侯爵さま。 お呼びでございますか?」
「えぇい!『お呼びでございますか?』では、無いわ!! まだ、下手人は、見つからぬのか! 一体、どれだけ時間を掛ければ気が済むのだ!!!」
「…申し訳ございませぬ。 何分、その場を見た者や証拠の品すら無く、雲を掴む様な状況でございますので…。」
「わしは、その様な言い訳が聞きたいのでは無いわ!! 金なら十分出しているはずだ! 何故、未だに見つからぬのだ!!!」
「は、そうは申されましても、既に金にモノを言わせて腕利きの者を集めさせております。 これ以上の成果は、正直見込めませぬ…。」
「もう良い! 見つけられぬとあれば、期待はもてぬ! 腕に覚えのある者達を雇い入れ、わしの身の回りを警護させるのだ!!! 今度こそ、抜かり無い様に取り計らえ!!」
「は、はい。 早速手配致します。」
バタン。
「ふぅ、まったくどいつもコイツも、モノの役にも立たぬ奴らばかりだ!! ……………くそ! 何でこんな事に……。」
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大陸中の人々に【天の断罪】と呼ばれる、”神殿協会が消滅した日”から、すでに1ヶ月あまりが立とうとする頃。
あの日を境に、大陸の彼方此方で、奇妙な殺人事件が頻発していた。
その事件は瞬く間に大陸中に知れ渡り、未だ犯人の目星すら立っていなかったにも係わらず、人々にはあまり問題視され無かった。
と言うのも、殺された被害者達は、普段は寧ろ”加害者”と言われる側の人間であり、ほとんど犯罪者や犯罪者紛いの者達で、身元がハッキリしている者も、証拠が無いと言うだけで、うまく立ち回っていたり、地位や家柄を利用し法の目を掻い潜っているけれど、悪事に手を染めているのが”公然の秘密”になっている様な連中ばかりであった為だろう。
又、その死に方が、人々に執って納得の往くものであった事も理由の一つと思われる。
死んだ被害者達はいずれも”塩の塊”と化していたのだ。
塩は”魔を払う力を秘めた神聖なもの”であると信じられており、魔除けや厄除けに使われたりするので、”悪人が死んで塩になった”と言うのを、人々は”神が不浄を清めた”のだと噂しあった。
その為、怯えるのは後ろ暗い事をして来たと自覚のある者達で、普通の善良な人達は寧ろ喝采を上げてたほどだ。
このホーン侯爵も後ろ暗い事に身に覚えがありすぎる人物なので、何時自分の番が廻ってくるか恐れながら、”その時”を回避すべく金と地位にモノをいわせて見苦しく足掻いているのだった。
だが、そんな侯爵の足掻きは、何の成果も挙げれ無かった。
何故なら。
「何かを成せば、結果がついて来る。 今まで、成して来た事の”報い”を受けると言うだけだろう?」
「だ、誰だ?」
突然、自分しか居ない筈の部屋の中に、聞き覚えの無い声が響いた。
あわてて周りを見回し、声の主を探しても見つける事は出来無かった。
そもそも、執務室の中で隠れられる様な場所など、それほど有りはしないのだ。
背筋も凍る思いで、尚も周りを見回す侯爵の前に、まるで虚空から滲み出る様にして、”異形”の影が姿をみせた。
「ひっ!? お、お前は誰だ! ど、どうやって此処まで入って来た!?」
「俺は、”軍団”と言う種族の一人、”飛蝗” ……まあ、蟻とかで言えば【兵隊蟻】ってとこかな。」
「怪しい奴め! だ、誰か!誰かおらぬか? 誰でもいい!誰か、誰かー!!」
「…無駄だよ、既にこの部屋は【結界魔法】で隔離してある。 何が起ころうと外に気づかれる事は無い。」
「な、何が望みだ? …か、金か?お前が見た事も無いほどの金額をくれてやるぞ! それとも、地位か?わ、我が臣下に取り立ててやるぞ?!」
「んー、中々太っ腹な話だけど、欲しいのは別に在るんだよね。 ……あんた、いままで数え切れない程の【獣人族】を攫って、奴隷として売り飛ばして来ただろ。」
「の、望みは奴隷か? だ、だったらこの屋敷の地下牢に集めてある。 何匹かくれてやろう! だから、頼む! 手荒な事はしないでくれ!」
「金も、地位も、奴隷にも興味は無いね。 欲しいものはたった一つ。」
「そ、それは何だ?」
「……貴様の命。」
「ひ、ひぃぃいい!!?」
バコン!!
音と共に、ちょうどベルトのバックルに似た甲殻部分が左右にスライドし、風車状の器官が現れて、風を吸い込み回転し始める。
轟!!!!
「うわぁあああ!?」
数秒、或いは数十秒。 部屋の中を風が吹き荒れ、唐突に止む。
侯爵が恐る恐る顔を上げると、そこには全身に紫電を纏い、仁王立ちでコチラを睨めつける”飛蝗”の姿があった。
「ひ、ひ、たす、たすけてくれ・・・」
「……それが、オマエの遺言か?」
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「…やれやれ、侯爵様の我が侭にも困ったモノだ、仕事が終わったら気晴らしに地下の奴隷を、鞭打ってやるか。」
「無理だな、オマエはここで死ぬ。」
「!?な、誰・・・・」
バシュッ!!
ズザァァァァ!
「オマエらは”塩”の塊になってるのがお似合いだ…。」
…それにしても、無機物なら原子の塵に還るのに、人間だと浄化されて”塩の塊”になるとは予想外だったな。
まあいい、奴隷売買に手を染めていた連中は、看守を除いて全員始末したし、関係無い者は魔法で眠らせた。
後はマダラクモくんから送られた情報を使って、奴隷にされていた”ヒト”達を解放するだけだ。
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バシュッ!!
「うぼぁーーっ!?」
ザァアァァァ!
「「「「「 !!!? 」」」」」
「静かにしろ、上は既に制圧してあるが、罪無き者達は眠らせただけだ、ヘタに目を覚まされると始末せねばならん、なるべくなら殺りたく無い。」
「体力の有る奴は、無い奴に手を貸してやれ、なるべく静かに迅速に動け。」
「「「 あ、ありがとう 」」」
「「 これで、里に帰れます…。 」」
「礼など不要、それより急げ!」
「「「「「 は、はい! 」」」」」
「森に入ったらコイツの後について行け、俺達の眷属だ、誰にも見つから無い様に案内してくれる。」
彼がそう言うと一匹のカブトムシが先導する様に森に向かって飛び始めた。
「このご恩は忘れません、ありがとう。」
「いつかきっと、恩返しします。」
「「 ありがとう。 」」
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翌朝、カテジナ王国ホーン侯爵領は、大混乱に陥った。
何せ、侯爵の屋敷では殆どの者が塩の塊と化しており、侯爵の執務室では、侯爵自身と思われる塩の塊が確認されたからだ。
塩にされ無かった者達は、魔法で眠らされていた痕跡があり、その後の調べでも怪しい所が無かったので、最終的にはお咎め無しとされた。
だが、何より問題だったのは、屋敷から出て来た奴隷売買の証拠と、屋敷の地下に隠されていた、奴隷を集めておく為の施設が発見された事だった。
この事が知れ渡ると人々は喝采し、やはり悪党には神の裁きが下るのだと噂しあった。
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「やっぱり、この種パネェわー。」
「植えて、1日で収穫出来るとかw」
「さっそく、これでお酒を造るし。」
「糖分の高い【サトウタケ】なら、上質な蒸留酒や焼酎を造れるんじゃね?」
「焼酎に【カララム】と【マララム】を漬け込もうぜw」
「出来たお酒で犬耳や猫耳を”もふもふ”するんですね、わかります。」
「とうとう、この”魂太ゼクター”が、陽の目を見る時が来た様だな!」
「欲望 駄々漏れだな、おいw」
「藻マイラw」
「駄目だコイツら、早く何とかしないとw」
「昼と夜とでは、別人なんですがコイツラw」
今日も世界は平和でしたw
あれ?シリアス部分メチャメチャ多くなった。