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第四話 第一村人

翌朝は奇妙な音によって起こされた。

コーン コーンと遠くから何か固いものを打ち付けるような音だった。

「っ………ぃた。」

私は昨日の疲れが取れないばかりか、固い地面の上で寝たせいで体中節々が痛かった。

左腕には溢血斑が浮いていた。紫色に変色しまばらに白濁ができて、醜く膨らんでいた。

昨日の時点ではそれほど痛みはなかったのだが、今は少しでも動かすと激痛が走る。これだけ腫れているということは少なくとも骨折レベルの外傷を負ってしまったようだ。

小さく体を動かして強張りをとると、ぐぅぅとお腹が鳴った。

はぁ、お腹、減ったなぁ…

事故にあったのが昨日の昼前なので今のところ3食抜いていることになる。

こんな所へ置き去りにした犯人と鞄に菓子パンの一つも入れてこなかった自分に小さく愚痴を呟く。


今日中に何とか家を探して、電話を貸してもらおう。…あとご飯も。

左腕に触らぬよう慎重に鞄を背負うようにして肩にかけた私は、単調なリズムで森をこだまする音に向けてふらふらと歩き出した。


まずは人に会おう。そうすれば何とかなるはずだ。



そう思って歩くこと30分ほど、だんだんと木々がまばらになってきた。


朝に空腹感を感じてからずっと、胃が食料を要求している

人間1週間はなにも食べなくても平気と言うがあれは嘘に違いない。


1日分食べなかっただけで胃がねじ切れるような痛みが続いているのに、7日ももつわけがない。

ゆるみきった現代日本人の私にはあと半日が限度だった。


右手できりきりと痛む腹を押さえながらゆっくりと森を歩いていると

突然、開けた小さな空間に出た。


木が無くなったのでようやく麓に着いたか、と期待したが、すぐ20mほど先はまた林になっているのを見て、私は大きくため息をついた。

「いつになったら道路に出られるんだろう…」


そんな弱音を吐いて半ばうんざりしながら一歩踏み出そうとしたとき、

私のすぐ前の林から人現れた。


いや、正確にはそこにいたと表現すべきか、

切り倒された木の葉っぱの部分にちょうどカバーされていたのが、その人が幹から枝を打ち落としたから私から見えるようになっただけで。


「あっ…あの、すみません。」


その人は声を聞くと、さっと顔を上げて私を見た。


こちらを見ている彼は奇妙な服装をしていた。

薄汚れた赤い服の上に茶色いチェックを着て、灰色の古びた短パンを履き、例えるならそう、中世ヨーロッパの農民のような恰好をしていた。

彼は私を顔をしかめて凝視し、

「…**?、*****!」

唐突に驚愕を顔に浮かべてよく聞き取れない言葉で叫んだ。


「あの、私、迷ってしまって…。」

困惑しながら私が一歩近づくと、彼は手に持った斧を取り落してあっという間に逃げて行ってしまった。



まるで私が化け物みたいな感じだった。人に対して失礼という以前の問題だ。



落胆したショックと同時に、空腹感が再び私を襲った。



他に向かうあてもなく、私は男が逃げて行った方角に歩いていく事にした。


…それにしてもさっきの男の人はなんだったんだろう。

変な格好をしていたな。もしかしてあれかも、林業はヨーロッパ風で、みたいなイベントでも開かれているんだろうか。にしては髪まで赤髪にしてたし凝ってたな。

…あぁ、もうだめ、お腹が…減って…。


とうとう疲労と空腹で、私はその場から動けなくなってしまった。


ガサッ


「きゃっ」


唐突に左右から先程とは異なった服装の10人ほどの男達が現れた。それぞれに弓や槍を持っている。

知らぬ間に5mほどの距離を置いて木に潜んでいた男達に取り囲まれていたようだ。

「****!*********!!」

やはり言葉が通じないようだ。

こちらから距離をとりつつ武器を振り上げて威嚇してくる。

後ろに控えた狩人らしき男は弓に矢をつがえて私に向けてきていた。


「まって、私は…」

話しかけようと歩み寄ろうとすると、男達は大きく後ずさって

「*****!!」

早口に警告するような口調で何か叫んだ。


さすがに私も様子がおかしいことに気が付く。

男たちは自分たちの敷地に不法侵入したことより、まるで私自身の存在に怯えているようだった。

男達の話す言葉も、日本語ではないし英語やそれに似た類の感じではない。


どうしたらよいのか、逃げるべきか戸惑った私が動きを止める。

すると先頭から少し後ろにいた小柄な男が、合図をするように片手を振った。


ガサッ

「……」

後ろから物音がしたと思った瞬間、私の後頭部に激しい衝撃が伝わり、


つんのめる様に前方に転んだ私は、再び強制的に眠らされることになった。

………

……


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