第二話 事故
短くなりますが序章と区切らせていただきました。
夏休みの補修帰りの午後。
じりじりとしたオーブンのような熱気がこもったコンクリートの上で、遠くでけたたましく鳴いている蝉の声を聞きながら、私は母と一緒に信号待ちをしていた。
昼の診察を受けるため家に帰ってそのまま母と病院に向かっている。
人から隠れるように私の後ろで立っている母は、人目を避ける大きな麦わら帽子を目深にかぶっている。
私が暑いね、と声をかけると、
「…そ…そうね…。」
体をびくっと揺らして小声で返してきた。
「…紫乃は、大丈夫…?」
「私は平気。お母さんの帽子の影に入ってるから。」
私が母を日傘代わりに使えているのはなんてことはない。ただの身長差である。
完全に手前味噌だが、私の顔はクラスでも上位に分類されると思う。
しかし私はこれまでモテたためしがない。告白されたこともない。
性格は悪くないと思う。
一番の問題は身長だった。中学のころ、別の言い方をすると、あのカス野朗が頻繁に来るようになってからというもの、ピタリと身長の伸びが止まってしまったのだ。おそらくストレスでカルシウムが大量に消費されてしまったに違いない。クラスメートや先生には
「もーしのっち かーゎーぃー。牛乳飲んでるぅ~?」
とか
「成瀬さんの記録、152.6cm。今年もダメだったわねー」
とか言われている。
澄んだ青色の空を流れる白雲を眺めながら遺伝しなかった母の身長とすらりとした長い脚を思い、ついため息がこぼれる。
「…本当に大丈夫…?」
母は上から心配そうにのぞきこむ。
「え?いや、なんでもないよ。」
大慌てで振り向きながら両手を突き出して心配ない、のポーズをとる。
「そうそう、今日のお昼、何にする?」
と話題を変えて、私は横断歩道の方を向いた。
信号が青になっていた。
私は質問の答えを待たず、少し駆け足で歩き出した。
突然、金属の板で地面を削るような甲高い音がして、
私は、いとも簡単に吹っ飛ばされた。
堅い地面を二、三度バウンドして、ゴロゴロと転がり、
道路と歩道を分離するコンクリートブロックに引っかかって止まる。
車体にしたたかに打ちつけた左半身に感覚がない。
破砕する金属音。
目を開ける。
私を撥ねた車は、そのまま急ハンドルを切って私の真後ろの商店らしき建物に突っ込んでいた。
アスファルトには細かいガラス片が散っている。
「あ、うっ。」
私がゆっくりと右手をついて起き上がろうとする。
私の体が起き上がったのと同時に、ひしゃげた車だった金属は、車内に充満した気化したガソリンに引火し、爆発四散した。
爆風は私の視界を赤と黒に染め、ゆっくりとそれらは白色に変わっていき、同時に私の意識も途切れた。
………
……
…