第一話 序章
私はどうしたかったのだろう。
生きたかったのかもしれない。
死んでも意味がないとわかっていたのだろうか。
どうにもならないことをただ嘆いていた。
自分の将来を思い、絶望していた。
そんな私の 異世界冒険記。
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大きな人生の壁に突き当たるのは誰にでもよくあることだ。仕事、人間関係、金銭問題、挙げていくときりがない。
もし仮にそれが自分の努力不足で築いてしまった壁だとしたなら、その後の立ち回りを変えていけばいくらでもやり直すことができるだろう。
厄介なのは、他者に、周囲の人間によって作られた壁だ。
雲のはるか上まで伸び、壊すことも迂回することも拒み続けるそれを見たら、誰でも絶望するだろう。
だが延々とそれをよじ登ることを選択する馬鹿もいる。
その行為が人生を無駄にしていると理解していても、やめない阿呆。
残念ながら私はその阿呆の一人だった。
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私、成瀬紫乃は一般的に言う、それなりに裕福な家庭に生まれた。
母の仕事はファッションモデル、有名な雑誌や週刊誌にもたまに出演し、それなりに収入も少なくなかった。
父は家政夫で家の切り盛り担当。家事にいそしむ反面、妻である母を支えていた。
幼かったなりに笑いの絶えない家庭だったのを覚えている。
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音もなく、不運は訪れた。
私の人生は大きく変わってしまった。
小学生の時だった。
ある日、学校から帰ると家の前にパトカーが数台止まっていた。
警察の人がたくさん来ていて、母が黄色いテープの向こう側、家の玄関でうずくまって泣いているのが見えた。
何故、母が泣いているのかわからず、私が母を何度も呼ぶと、強面の警察の人が黙って停止線を上げて通してくれた。
母が、抱きついた私の頭をなでながら「大丈夫、大丈夫」と、何度も何度もつぶやくのを聞いても、なにがなんだかまだ分からなくて、
「お父さんは、遠いところに行っちゃったんだよ。」と言われても、まだ理解することが出来なくて。
翌朝、いつも起こしてくれる父の声が家に無いことから、私はようやく父の死を理解した。
交通事故だった。自宅の目前で若者が運転する自動車に跳ねられ父は死んだ。
私はまだ十数年しか生きてないが、人生というのはそう言うものだ。
幸せは泡のように呆気ない。明日、同じような日が必ず来るとは限らないのだ。
不幸というのは続いて起こる物のようで、母は事故のショックからくる心労で寝込んでしまい、それが原因でモデルの仕事も解雇されてしまった。
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そこから数年は二人きりの、生活が厳しい時期が続いた。
さらに私たちを苦しめたのは、世間体を気にした近所に住んでいた親戚が強引に勧めた無理な再婚だった。
結婚式も挙げず、母の同意も無いままに入籍は行われた。
「大黒柱を亡くした私たちを見かねて」押してくれた縁談相手は最悪だった。
新しい"父親"はある程度社会的な地位は高いものの、実入りが少なく、母から毎日のように金をせびり、暴力を振るった。
娘の私にも、"父親"はたびたび手を挙げた。母に父の残した財産を渡すよう説得をする催促し、会うたびにねっとりとしたいやらしい目で私を観察した。
そんな悪夢のような日々が続く中、私は唯一の避難場所だった自室にこもり、ひっそりと勉学に励んだ。
反響する隣室の"父親"の怒鳴り声を聞きながら、いつか必ず高収入の職に就き、母を助けようと心に誓い、必死で勉強した。
家に帰りたくないときは図書館にこもって様々な本を読んだ。本は嫌なことを忘れさせてくれる友達だった。
その成果もあってか私は、県内でもトップクラスの公立高校へ進学する事ができた。
不思議と勉強以外も苦もせずこなすことができた。
しかし、学年トップの成績を取っても、体育祭で活躍したとしても、私の心が晴れることはなかった。
自然と、人に怒られない人間、人から好かれる人間に自分を変えていった。
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高三になる頃に、初めて我が家に幸運というものが訪れた。
父の財産が底をつき、せびる金が無くなった"父親"が私たちに興味を失い、顔を出さなくなったのだ。
聞いた話によると"父親"は、その後も名前を変え、毎晩のように夜の繁華街で女遊びを続けて金がなくなり、ある日突然、蒸発してしまったそうだ。
父親が我が家から姿を消したのはある意味ではよかった。
父の保健金を使い込んだ挙げ句に逃げた事は許せなかったが、もう暴力を振るわれない事がうれしかった。
また、生活にはあまり困ることは無くなった。親身になって相談に乗ってくれていた親類の医者が"父親"の嘘の死亡届を申請し、私たちは生活保護や社会保障の対象となって、多額の金が手に入ったからだ。伯父さんには今も生活の援助してもらっているし、病院の紹介など、感謝してもしきれないだけの恩がある。
無論、書類偽造は違法行為だし、発覚すれは伯父さんだけではなく自分にも悪影響があったが、そんなことはどうでもよかった。
屑の"父親"は死んでしまえばいいと思っていたし、なにより、奴によって奪われてしまった母との時間を取り戻したかった。
□
母は今、近くの精神科に通っている。かなりの重症で私以外の人間とはほとんど話せない状態、週5日は入院して検査を受けている。
慎ましい暮らしをしているが、以前よりはずっとましだ。
何より母と二人で幸せに暮らすと言う夢がかなったのだから。
そう、これからの人生はだんだん良い方向に向いていくだろうと思っていた。
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