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流れ星  作者: 景雪
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再会

 リチャードは日本軍の最期の拠点に向かっていた。まだ日本軍の組織的な抵抗が終わったとは限らないので、正確な情報を得るため、怪我をしている日本兵を捕虜にするのが役目だった。リチャードは衛生兵二人、護衛の歩兵八人を連れていた。彼は米軍兵士の治療をしている方が良かったのに、と思った。敵の懐に飛び込むような真似は気持ちのいいものではなかった。けれど、敵の本拠地の奥深くに進んで行ってもどこからも弾は飛んでこなかった。島から生き物がすっかりいなくなってしまった気がした。

 崖を背にしている建物が見えた。米軍の物ではないので、日本軍の兵舎か何かのように思えた。斥候として様子を見てきた三人の兵士が、病院のようだと伝えた。中は死んだ日本兵が一杯いる、とも。まだ息のある日本兵を見つけて治療し捕虜にすることがリチャードの役目だ。リチャード達は十分に用心しながら建物に向かった。海鳥が一匹、悠々と上空を舞っていた。死体をついばみに来たのだと思った。

 建物は自然の洞窟を巧みに利用して作られていた。洞窟内のこもった死臭にアメリカ兵はある者は顔をしかめ、ある者は唾を吐いた。天井は低く、それほど背が高くはないリチャードでさえ、かがまなければ天井に頭をぶつけた。入口を入ってすぐ右側の狭い部屋のような場所には、数十体の日本兵が仰向けに整然と並べられており、一人残らず胸の前で手を合わせて死んでいた。微かに、シアン化水素の臭気が漂っており、青酸カリで毒殺したものと思われた。どの兵士も寒気がするほど安らかな死に顔をしていた。その他の部屋にも似たように並べられた日本兵が、眠るように静かな表情で死んでいた。病院と言うよりは、洞窟全体が大きな棺桶に思えてならなかった。

 「ドク! 日本兵だ! 軍医のようだぞ!」

 建物の奥から声がした。二人の米軍兵士にライフルを向けられて、白衣を着た小柄な男がのろのろと出てきた。明りのない建物内は暗いのでリチャードは外に出た。相変わらず霧は深かったが、洞窟内よりは視界がきいた。しばらくして、遠巻きにライフルを向けられて小柄な男が建物から出てきた。

 「手を挙げろ!」

 ライフルを構えている兵士が叫んだ。リチャードは男の顔を見た。やせて髭が伸びているが、カズオ・タニグチに間違いなかった。

 「手を挙げろ!」

 もう一度兵士が叫んだ。カズはその兵士を一瞥し、リチャードの顔を見た。片方のレンズが割れた眼鏡の奥に、確かにカズの細い眼差しがあった。リチャードは一歩カズに歩み寄った。同時に、カズは右手を、白衣の内側に指し入れた。霧の小さな固まりが、風に乗ってカズを包んだ気がした。

 リチャードはライフルをカズに向けると、躊躇することなく引き金を引いた。乾いた銃声が響き、薬きょうが岩に落下して数回小さな音が鳴った。胸に銃弾を受けたカズは後ろにのけぞった。だが持ち直し、右手を白衣から抜こうと力を入れたように見えた。リチャードはもう一発、今度は腹を狙って撃った。二発の銃弾を受けたカズは後ろに体勢を崩してから仰向けに倒れる直前、リチャードの目を見た。まるで眼球で眼球をわしづかみにされるような視線だった。カズはうつ伏せに凍土に倒れ込んだ。彼の右手に握られていた聖書が、指からこぼれ落ちた。

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