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星の迷宮神殿

 朝日が昇ると外気温は一気に上がった。階段ピラミッドで有名な北サッカラの遺跡群に入れるのは八時からだったが、この日のチケット売場は抗議の団体客が溢れていた。

 近くにあるイムホテプ博物館には入れるが、全てのピラミッドが閉鎖中で観られないというのだ。

 ピラミッドを始め、多くの遺跡は、時期によっては清掃、修復、安全確保の目的で一つや二つ、観ることができないことがある。遥々、遠くからやって来てもお目当てのものが観られない、なんて話しは珍しくない。ギザの三大ピラミッドも、常に一基は入ることが出来ないのだ。

 しかし、どれも観られないなんて論外だ。ツアー会社に訴えたくもなる。

 観光警察も、ガイド達もとまどっている。

 物売り達だけは、足止めされた観光客に今がチャンスと逞しく声をかけていた。

 ピラミッドへ続く道は、そんなに広いものでもないが、装甲車や戦車、ジープ、トラック等で封鎖され、銃を肩にかけた軍人がかなりの数で警備をしている。

 不穏な雰囲気にサッカラでの観光は諦め、近くのダハシュールへ移動を始める客もいたが、中には強行突破しようとして、軍人に尋問される個人旅行者も見えた。


「どうなってるの?これ。」

 ジープの窓から、外を伺っていた双眼鏡をシャノンに渡して、アリスンは助手席のハロルド、そして運転席のもう一人の青年を見た。

 青年は、名前をカールと言った。

 アビュドゥスで発掘キャンプを張っていたMITの学生で、ハロルドを教授と呼ぶ本当の助手だった。

 如何にも文系といった風体で、馴れない発掘作業で日焼けした腕が痛々しく腫れていた。

 朝早くメンフィスで合流し、事情を説明しながらサッカラまできたのだ。そのカールが答える。


「何でしょう?わかりませんが、僕達の発掘許可も、これでは難しいでしょうね。カイロに問い合わせてきます。」

 少し、道から脇に入った所に目立たないようにジープを止め、カールはチケット売場の方へ歩いていった。しかし、電話の前は長蛇の列、カールが戻ってこれるのはかなり後になりそうだ。

 その脇を装甲車に守られ、黒塗りの高級車が走り抜けていく。シャノンも双眼鏡を下ろして目を細めた。


「コンスタンシア・カーナボン嬢だ。」


 後部座席にちらりと見えた白い横顔は確かに彼女のものだ。

 彼女らは軍隊に警備されながら、鳴りものいりで検問を通過し、遺跡敷地内に入って行った。

 当然、観光客と言うよりは、その現地ガイド達が、軍人達に猛烈に抗議をし始めた。警備にあたっている軍人達はたじろぎながらも、ライフルをちらつかせて牽制し、騒ぎは収まりつつある。ガイド達も文句は言うが、半分は諦めている風だ。軍隊による検問や尋問は、観光客を連れていれば必ず引っ掛かる。何を訴えても、結局は軍には逆らえない。


「彼女は発掘をするつもりなのかしら?」

「多分、そうだろうな。コンスタンシア嬢は、自分が杖の正当な持ち主だと豪語していたし。…となると、情報が漏れてるなぁ。」


 アリスンは、カールの向かったチケットブースの方向をちらっと見てから、ジープの中のハロルドに聞いた。


「カール君て、信用できるの?」

 ハロルドは、発掘したての粘土板の写真を拡げて、丹念に調べている所だった。拡大鏡で、彫られた文字を一つ一つ確認している。

 どうやら、アリスンの声はまったく届いていないらしい。その集中力は、その写真を受け取ってからもう三時間近く続いている。

 アリスンは諦めてシャノンを振り返った。


 シャノンは、そんなハロルドは見慣れていたので、アリスンに頼られて嬉しげだった。


「カールじゃなく、現地のスタッフだろうな。彼らにとっちゃスポンサーは金払いの良いほうだ。」

 さりげなく、腰へ近づく不遜な手を、危なげなく払い落として、アリスンはため息をつく。


「あのね、シャノン。いい加減にやめてくれない?」

「おっと。やあ今にも爆発しそうで、大丈夫かなと。」


「はぁ?」

「君の、ボディー。ダイナマイトで出来てるだろ?」


 得意げにすら見える、自信タップリの微笑み。奇しい色の瞳。

 上手いことを言ったとでも本気で思っているんだろうか。

 身分がちがうと洒落も品がよくなりすぎて、凡人からみればいっそ低俗に思えるのか。

 いやいやと頭を振ってアリスンはシャノンを睨む。


「頭を吹っ飛ばされたくなきゃ、下がって。真面目に答えてよ。」

 肩にかけたリュックを示して、シャノンを牽制する。シャノンは一層楽しそうに微笑んだ。


「これからどうするの?」

「そうだなぁ。とりあえず、軍隊の眼を盗んで、遺跡に近づかないと。北側から回り込めるかなぁ。」

 シャノンが言い終わらぬうちに。乾いた破裂音とともに地面が揺れた。


「なに?訓練?」

 近くの軍事施設で模擬戦でも始まったのだろうか?

 爆発音は砂漠などの広い場所では反射するものがないので案外小さく軽い音に聴こえる。


 砂煙が遺跡のほうから上がった。


「おい、ハロルド!」

 シャノンが真面目な顔と声で相棒を呼んだ。なにも受け付けないはずのハロルドが、助手席から、跳び上がって運転席に移動し、ジープのエンジンをかけた。

 ジープはレースを走る勢いで、やっと受話器を戻したばかりのカールのすぐ側に止まった。


「教授! これは…」

 またゆれた。カールは足元の砂地を踏みなおして、ジープに掴まると飛び乗った。


「馬鹿なことを!」

 ハンドルを握るハロルドは別人と化していた。猛スピードで砂を跳ね上げ、遺跡の北側に走らせる。そちらにも、入口程ではないが軍人が何人か警備をしていた。


 「ちっ!阿呆が!」

 およそいつもの静かな佇まいからは想像もつかないほどの変わり様に、アリスンは言葉を失う。シャノンは、頭をぶつけないように必死だが、口にはタバコをくわえているから、この豹変も未経験ではないらしい。

 カールは、助手席で委細報告を始めた。彼も怒りからか語気が強い。


「教授、考古庁の奴ら、全然ダメです。話になりません。許可証もらえないばかりか、今までのも返還して国外退去しろと言ってきました。しかも契約金も還す気がないようで、グロリア女史が交渉の余地もないと言ってました。それに、採掘スタッフたちも軍隊に拘束されたようでサッカラには入れないと。」


 有り得ないと身振りで示す。言葉だけでは足らないといった感じだ。


「あっちがそういうつもりなら、せめて契約金分は好きにやらせてもらわないと。こんなところで帰れません!」


 ハロルドは、砂の山の影につっこむ勢いで、やや強引にジープを停めると、道具が一式入った鞄をカールに持たせた。

 腰を低くしながら、四百メートル向こうの軍隊を伺う。北側は砂ばかりで、これ以上回り込むには徒歩しかない。

ラクダに乗れれば早いのだろうが、この辺りはそういう商売も禁止されているし、第一に目立つ。

 一キロぐらい向こうでまた一つ砂煙が上がった。

 アリスンにも、それが軍事訓練ではないとわかった。いくらなんでも、ピラミッドのすぐ隣を爆破させる訓練はないはずだ。

 あの小さな女王様がやっているのだろう。空耳か、高笑いが聞こえたような気がする。


「ハワード・バイスにでもなった気でいるのか。遺跡そのものが崩れたらどうするんだ!」


 ハロルドは完全に冷静さを失っている。発掘という名前の爆破行為を断じて許すまじと、軍隊に殴り込む勢いだ。


「何をやっているのかわかってるのか!本当に守らなきゃいかんものぐらいわからんのか!」


「ハロルド、とにかくちょっと落ち着けよ。」

 軍隊より北側は、少しだけ丘になっていて見えにくい。しかし、仁王立ちで叫んでいればすぐに見つかってしまう。

 シャノンが鼻息荒いハロルドの肩を掴んだ時、更なる爆破の震動で足が砂に捕られた。


「!!!」


 あっというまに、シャノンとハロルド、アリスンが砂の穴に飲まれた。

 かろうじて、カールは落ちずにすんだが、すぐ足先に巨大な蟻地獄の端があった。三人を飲み込んだ穴は、すでに大量の砂で塞がれ、ちょっと窪んだだけの砂丘に見えた。


「想定外だ。」

 カールはしばらく呆然と立ち尽くしていた。

 事の重大さに気がつくと、ハロルドの鞄から、目印になりそうなバンダナを取り出し、車道脇から一塊の石を集めて積み、バンダナを敷いた。

 それから近くの軍人に助けを求めて走り出した。

 穴があって落ちたのなら、中は空洞だろう。空洞なら空気がある。どれぐらいの広さの空洞かはわからないが、崩れなければ、まだ助けられるはずだ。軍隊に捕まれば、発掘の機会は失われるだろうが、今はそれどころではない。

 カールは照り付ける陽射しの下で、凍りつくような冷や汗が背中を這うのを感じながら走った。




 シュボッ

 悲鳴を上げる隙もなく、飲み込まれた先は真っ暗闇だった。手探りと声で互いの無事を確認すると、シャノンがライターに火を燈した。

 すぐ後ろは、天井まで続く砂の山、かなり高い。二メートル以上ある高さから落下して、怪我がなかったのは、その砂の山を滑り降りてこれたからだ。

 かなり広い空洞だ。砂に埋もれていたのに、中には十分な空気があるようだ。

 シャノンが、ライターの明かりを出来るだけ高く上げた。だが見えたのは、砂まみれのお互いの顔ぐらいだった。


「しまった!カールに鞄を持たせてたんだ。懐中電灯もないぞ。」


「私、一つなら持ってるわ。」


 アリスンは、リュックからライトを取り出して点けた。

 大分明るくなったが、まだ目が馴れない。本当に真っ暗な中で、ライトの明かりは頼りなく小さかった。


 三人が落ちてきた所は大きな崩れはもうないものの、こまかい砂はこぼれ続けていて、昇るのは無理そうだ。光りは見えない。完全に塞がれている。


「カールまで落ちなくて助かったな。救助してもらえる。」


「それまでここが保てばだろ。爆破の震動で、ここの天井石が落ちたんだ。」


 ハロルドが、砂の山に埋もれている巨石の端を示した。

「構造が弱くなってる。次の爆破でまた崩れるかもしれん。」


「それより、ここは何処なの?こんな遺跡あったの?」

 屈んで床を調べる二人の答を聞かなくても、ここが人工的に作られた空洞だということはアリスンの目にも明らかだった。


「スクープおめでとう。アリスン。」

 ハロルドはニッコリ笑って見せた。

「助けは来るだろうから、少し移動しよう。生き埋めになっちゃスクープ所じゃないからなぁ。」

 アリスンはうなづいて、カメラを取り出した。真っ暗での撮影は初めてだが、フラッシュの電池がもつかぎりは何かが撮れるだろう。


「しかし、広いなぁ。」


 暗い、地面の下なのに圧迫感を感じないほど天井は高い。どうやら、参道らしいとハロルドが言う。壁に囲まれた通廊は、一方は砂に埋もれていたので、残された西に向かって三人は歩き出した。

 手掛かりはないかと、ライトは揺れる。壁には彩色もなくレリーフもない。やがて、通廊は更に広い部屋に出た。彫刻された大きな柱が三本ずつ、向かい合い並んで建っている。

 ハロルドが歓声を上げた。


「凄い。」


 地中に埋もれていたからだろう、風雨にさらされることのなかったそれらは、つい昨日にでも作られたように美しかった。

 彩色はなく、単純な縦にラインが入っただけの彫刻。ライトに照らされた陰影がより神秘的にみせている。

 柱廊から南北に三つずつ通路があるのが見えた。そしてそれぞれの通路の入口上部に、美しいレリーフが描かれていた。

 それぞれ、猫、朱鷺、ワニ、ヒヒ、犬、牛だ。古代エジプトで、神、またはその使いとされた動物たちだ。

 三人ともしばらく見とれていたが、再び爆破音と震動がして、じっくり見聞する余裕がないことを思い出した。

 ぱらぱらと頭上から砂が降って来るが、先程の参道よりは頑丈な造りらしく、どうやらすぐに崩れることはなさそうだ。

 更に西の方へ通路は続いている。その周りにグルリと彫られたヒエログリフをハロルドが見つけ、手帳と照らし合わせながら慎重に読んだ。


「ここは、どうやら神殿の一部の様だよ。建てたのは、うん、ジェト、ジェト王だ。第一王朝四代目のファラオだ。」

 読みながらも、ハロルドは興奮を押さえられない様子で何度も確認を繰り返す。

「うーん。探していた遺跡より新しい遺跡だなぁ。違うとも言いきれないけど、粘土板にあった杖の持ち主はファラオじゃないのかなぁ?」


「ここはジェト王のお墓なの? 」

 アリスンはヒエログリフを写真に収めながら聞いた。


「いいや、ジェト王墓は見つかって発掘されているんだ。盗掘されていたけどこの近くだよ。この頃はピラミッド型の墓じゃなくて、四角い小さな丘のようなマスタバ墳なんだけど。しかしまさか、これほどの技術が当時あったなんて。」


「まて、角に何か…」


 シャノンが、ハロルドに声をかけた。柱の陰、部屋の角に灰色の塊。ライトが照らし出す。

 小さく見えた塊は、しかし、三、四人のうずくまる遺体だった。


「うそ。」

 アリスンの声は上擦ってそのまま固まった。

 金髪に洋服、鞄、ブーツ。どう見ても古代の出で立ちではない。


「偉大な先輩方だ。」

 シャノンとハロルドは胸で十字を切った。それから彼等の荷物を探る。

 アリスンは信じられないといった顔で、成り行きを見守った。

 シャノンが故人の財布と手帳を取り出して、中を確認し、また戻す。もう一度十字を切った。


「メアリー・シールズ、ジム・ハリス、アンドリュー・パーカー、ジョン・スミス。1927年に消息を絶ったイギリスの探検隊だ。」


「1927年…」


「ツタンカーメンの墓が見付かった五年後だ。遺跡発掘のブームで、世界中から素人探検家たちがやって来て、財宝探しをした頃だね。」


 ハロルドが目当てのものを探し当てて立ち上がった。シャノンに呼びかけライターを借りる。

「彼等はたどり着いたんだ。」


 何かが燃える臭いがして、辺りが薄明るく照らされた。古いランタンが、不幸な探検隊を照らした。


「…どうして?」

 シャノンが遺体を傷つけないように慎重に検分する。


「死因は解らないが、争った様子はないし、飢え、るより、脱水症状による衰弱死だろう。」

 乾ききってミイラの様に縮んだ遺体はそれ程臭わない。


「ともかく、先に進もう。彼等の様子では出口は無さそうだが。」

 ハロルドが二人を促す。

 アリスンは、遺体にカメラを一度向けたが、シャッターは切ることが出来なかった。黙礼して、死者達に別れを告げる。

 もう一度、ここに戻ったら今度はちゃんと写真を撮ろう。そう思いながらも、やはり自分にはこの仕事は向いてないんだと確認した。

 向き、不向きと、仕事を投げ出すこととは別だ。アリスンは記者としての在り方を再び考え始めた。


 柱廊の間からの通路は狭く、人が一人通れるぐらいのものになっていた。ランタンで中を照らす。

 通路は彩色され壁画が描れていた。

 壁には文字が刻まれ、天井は青く塗られ白く星が浮かんでいる。


「これは、後世のハトホル神殿やセティー一世王墓の天井画の元になったものでは? こんな…古王国時代にすでに星座の概念ができていたのか。いや、初めて暦をつくったのはこの時代だったっけ。…凄い、凄い発見だ!」

 ハロルドはぶつぶつと口走りながら、奥へ奥へと進んで行く。シャノンもアリスンもただついていくのみだ。


「壁のヒエログリフを見ろ!ああ、なんて美しい。全て縦書きのようだ。どこかで見たぞ。ピラミッドテキストか?いや、しかしウナス王はもっとずっと後の時代で…」

 美しい装飾だが、古代エジプト独特の画風はアリスンには少し気味が悪かった。身体は横向きなのに目や口元は正面を向いている。

 こちらが見ているつもりで、逆に見られているような錯覚に陥るのだ。特にカメラを向けるとまるでその位置を把握しているかのように目線が合う。

 カイロ博物館ではそんなに気持ち悪いとは思わなかったはずだが。

 この神殿を造ったものの作為なのだろうか?


 通路は緩やかなカーブを描いて折れ曲がる。一本道だが、相当に長い。右に折れたかと思えば、左に折れる、行ったり来たりを繰り返しながら中心らしい存在を近くに感じる。だんだんと、そこに向かっているようだ。 壁面の文字は延々と続いている。天井の絵は折れ曲がる角ごとに星座が描かれていた。さながら星を巡る旅をしている気分だ。真っ暗な闇が宇宙の様にも感じられる。

 最初にあったのはオリオン座だった。オリオン座はオシリス神を表すと言われている。そしてすぐそばにあるシリウス。丁度、十二番目に折れた先には小部屋があり、天井には北極星が描かれていた。

 ハロルドが眼を輝かせていう。

「ああ、これこそオシリス密儀だよ。オシリスは一度死んでバラバラにされるが、イシスの助けで復活するんだ。壁に刻まれているのは、死者の書の原本だ。発見されている、門の書、アム・ドゥアドの書、アケルの書、洞窟の書、まだ続いている。

死者の為の呪文だけじゃない、天井に描かれた星に対応して、牡羊座には、轆轤を回して子供を作る呪文、蠍座には、戦いに勝つ為の呪文が。まるで呪文の図書館の様だ。…僕達は今この星の迷宮を抜けることで、復活再生の儀式をしたんだ!信じられないよ!」


「でも、まだ続いているみたい。」


 確かに、ぐるぐると回る道は終わったようだが、更に階段が下へと延びている。そこも砂には埋まっていないようだ。


「オシリスは復活した後はどうなるの?」

 アリスンは不安げに階段を照らす。探検ごっこは嫌いではないし、今更ミイラが動いて襲って来るとは思っていない。ハロルドの興奮が、伝わってくるせいなのか、この場所の不可侵な空気のせいか。


「冥界の王になるんだよ。死者の国の王。それは、メンフィス神学ではプタハとの合一。プタハは創造神で冥界の主だ。オシリスは復活して、北極星のもとにある『神秘の門々』を入ってプタハと交わり、冥界の神になるんだ。」

 ハロルドは、二人の心情を思いやることより、目の前の遺産に夢中だった。丹念に壁面を調べ、蛇の描かれた階段を降りていく。

 二人は不安そうに見つめ合い、後に続いた。

 そこは先程よりやや広めの部屋だった。

 アリスンが小さく悲鳴をあげた。ハロルドの照らしたライトが、人影のようなものをとらえたのだ。

 向かい合う、黄金や宝石で飾られた神々の立像。

 身体は、人間の形をしているもの、そうでないもの。

 頭はそれぞれ太陽円盤、蛙、蛇、朱鷺、ライオン、牛、犬、ハヤブサ、の姿をしている。そのどれもが豪華に飾り付けられていた。


 その奥に一柱の像があった。

 その神の足元だけは四角錐で飾られ、一段高い。

 像の前には祭壇があり、捧げられただろう供物の残滓が残っていた。すぐ後の壁は偽扉の様に文字と絵とが彫り込まれている。ここは確かに人の祈りのような気で満ちている。厳粛なる空気が。


 「杖だ!あれか?!」


 シャノンが思わず声を上げた。神の像は杖を手にしていた。金で飾られ、宝石がちりばめられた杖だった。


 カイロ博物館にあったものとはかなり違っている。

 杖、というよりは笏に近い。短く太い。大きなアンク(楕円のついた十字架)のような形だった。そこに、秩序という意味のダチョウの羽、二匹のヘビとジェド柱が安定、支配を現す牛の角が彫刻されている。

 真ん中には緑色の宝石。四角錐に切り出され、ランタンの明かりと、ライトの光を反射して輝いていた。


 三人が、杖に魅入っていた瞬間、直上から、爆破の音が聞こえた。

 グニャリと視界が揺れる。天井の石が軋み。砂が、滝のように落ちてきた。


 悲鳴を上げようと開けた口に、鼻に、大量の粉塵が張り付き、一瞬で水分を奪われる。


 一度バランスが崩れたら、崩壊するのはたやすい。それが重い石でできていればなおのこと、その自重によって倒壊するのだ。

 重苦しい巨石の悲鳴と大量の砂とともに、真の闇が三人に迫った。


「……!」

 アリスンの脳裏にさっき見た遺体が過ぎった。

 息が出来ない、眼が見えない、音が…


「アリスン。」


 迫る死が、恐怖が、静かな、低い声に溶けた。全身の力がぬける。

 強い腕を感じながら、アリスンの意識も闇に溶けていった。





 更新が遅れました。すみませんでした。エジプトの神様、舐めてました。すみませんでした。

 更新が遅れた上、申し訳ありませんが、私用の為、来週はお休みさせていただきます。

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