第二幕 第二節:護衛目標の正体
回路自動修復――――完了。
システム欠陥を自動修復――――完了
演算機構再稼動――――完了。
笠花機構稼動――――完了。
装備プログラムインストール――――完了。
双似レポート――――リジェクト。
感情インプラント――――起動。
コード”KASAHANA.project”
―――――起動。
****
プシュ、という空気が抜ける音と共に礫の左足に装着された義足がさらに肌に密着するように隙間が閉じていく。
その作業の終わりを礫に伝える為に義足がガシンと一つ音をならすと、礫は満足気に笑みを作り立ち上がって小さくジャンプして足の調子を確かめる。
「いい調子だ。」
礫がそういうと、内耳に埋め込まれた骨伝導無線から無機質な女性の声が響く。
『調整は・・・する必要余りなかったですね。成長してませんしあなた。』
そのやや毒の効いた声に苦笑しながら礫は答える。
「うるせぇ笠花。三年も眠っていたお前に成長云々言われたくねーな。」
『眠らせたのは貴方方ですよね。』
「でもお前が・・・まぁいい今はいっても意味が無い。」
礫がそう言って無理やり話を中断させると、元々無機質な為に感情と言うものがわかりにくいのだが、それでも分かるほどにトーンを落として笠花と呼ばれた無線の向こうの女性は言った。
『何でも詩架さんと由佳さんが行方不明なんだとか。』
彼女がそういうと、礫のまとっていた雰囲気が目に見えて落ち込む。
「ああ。」
その礫らしくない調子の低さにビックリしたのか、彼女は慌ててさっきの話のフォローを始めた。
『でもあの二人の事ですし、ちょっとやそっとじゃ大事にはなりませんよ。というか今頃さらって行った国でも支配してるんじゃないですか?』
おちゃらけたその言葉に礫は呆れたように答える。
「あいつ等ならやりかねないな・・・」
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ヂッと肩の削れる音に次いで、肩を中心に焼けるような痛みが体を駆け抜ける。
交わし損ねた・・・っ!
自分の攻撃があたった事に嬉しくなったのか相次いで攻撃を仕掛けてくる。
利き手の右手の肩を失った為に動きが多少鈍くなったがそれでもまだいなせる。
目の前のアルマジロの攻撃をいなすのに夢中になっていると、先程から私が守っていた少年が切迫した声で叫んだ。
「お姉ちゃん後ろ!」
その声を聞いて弾かれるように後ろを向くと、もう一匹のアルマジロが既に拳を突き出して数十センチと言うところまで迫っていた。
誘導された・・っ!
痛みに鈍る右手を機敏に動かす事が出来ずにその二匹目のアルマジロの攻撃を防御することは出来ない。
こんなところで・・・っ!
「死ねないのよ・・・!」
由佳はそういうと、自らの槍で自らの右足の弁慶を軽く裂いた。
ピッと血が舞うが、ソレと同時にひらりと一枚の肌色の紙が舞い降りる。
「使いたくは無かった・・・んだけどねっ!」
その肌色の紙が地面に落ちた頃には既に由佳に襲い掛かるアルマジロは粉々に砕けていた。
****
透明な片手ほどの長さ、そしてサッカーボール程の太さのカプセルに右手を入れて自分の手の甲に刻まれたト音記号を改変したようなその銀色に鈍く輝く紋章を見つめる。
コピー機で物をコピーするときに発する線状の光が何度か手の甲を往復し終えると、耳についた無線から無機質な女性の声が響く。
『解析終わりました。』
その声に導かれるようにして近くにあるディスプレイに視線を移すとそこには先程コピーした紋章の隣につらつらと文章が書かれている。
それを確認して満足した悠介は無線の向こうにいる女性にねぎらいの言葉をかけ、印刷を頼む。
『分かりました。』
一瞬で印刷されたその紙には、つらつらと長い事が書かれていたが簡単に言えばこうだ。
名称”聖痕”と命名されたコレは何で書かれているかも何を意味しているかも分からない。ただ一つ言えることは完全に密閉できる状態で保存しておかなければ常に体力をすい続ける物だということ。
加えて聖痕が表に出ているときは身体能力が飛躍する。
・・・
これが僕達があの災厄を生き残る事ができた理由でもある。
聖痕覚醒とはよく言ったものだ。
聖痕のある場所に付けられた装身具は個人によって違う声紋パスワードのついたキーワードを唱えるとその部分が開き、開放される。
僕達が危機に陥ったり、本気で戦う時は毎回やっていたのだ。
しかし、あの茨城の結界が消えて平穏な状況になった今、何故かこの聖痕を外気に当てると違和感があるのだ。
なんというか聖痕がこの世界を気に入ってないと言っているように。
「考えすぎか。」
そう言って悠介は礫と一緒に他の笠花メンバーと連絡を取るために研究室を後にした。
****
「そぉ・・・れっ!」
グッと右拳でタメを作ると迫りくるアルマジロの首へと叩き込む。
ベギ、という骨が折れる音と共に高速で仲間を巻き込みながら吹き飛んでいく。
「毎回この光景は壮観ね・・・」
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ドォン!という石に堅いものが激突した重低音が鳴り響く。
その音に反応してその方向に視線を向けると、もうもうと立ち昇る土煙の中に数体のアルマジロがいる。
あの怪力は大体想像がつく。
由佳だ。
そう言って頭の中で決めると、両足にグッと力を込めて由佳がいるであろう所に向かう為に飛び上がる。
ドン!という音に反応して土煙の中のアルマジロ達がこちらに振り向くがもう既に遅い。
アルマジロ達を横一線に薙ぐと、そのままの勢いでその先にいるアルマジロを串刺しにする。
息絶えたアルマジロに片足を突き立てて剣を引き抜くと建物の中にいるであろう由佳へ呼びかける。
「そこに村人いるのか!?」
由佳が壁を突き破るほどの速度で敵を吹き飛ばしたって事なら傷の心配はないだろう。
それよりこの村から退避できるかどうかが知りたい。
由佳が守っているほどの人間となれば命の恩人ぐらいしかいないだろうし。
「一世帯いるの!」
ある程度予想していたその答えにため息を吐きながら答える。
「ならお前はそこにいて村人守っててくれ!俺は外を片付ける!」
詩架はそういうと由佳の方向から視線を外して周辺一帯をサッと見渡す。
「・・・・・はぁ・・・・」
ワラワラと建物の間や建物の中から這い出てくるアルマジロを見渡して大きくため息を吐くと、再び剣を構えなおして疲れたように言った。
「こりゃ大仕事になりそうだ。」
****
ボウッという轟音が鳴り響くと、アルマジロと鷹のような魔獣は退散して行った。
「やっと終わりましたね・・・」
肩で息をしているウォタリアとコトリ、フィルアシニが疲れたように武器を地面に突き立てながら地面へへたり込んだ。
しかし三人とは打って変わって涼しい顔をしたギムニはすこし笑いながら言った。
「あの詩架とか言うガキはそろそろ死んだ頃合か?」
その言葉に三人が揃って顔をしかめるが、それをお構い無しにギムニは続ける。
「アイツが死ねばもっと簡単に魔獣を殺せるというもんだしな。足手まといは少ないに限る。」
ギムニはそういうと自慢げな表情をへたり込む三人へと向けた。
ギムニはあのアルマジロの襲来の際、わざわざ怪我をする危険をおかしてまで三人でこちらへ飛び出したのだ。
もちろんコトリ達三人は詩架を手伝う為に詩架側に飛び出そうとしたのだが、その首根っこをギムニにつかまれたり、通路を体で塞がれたりして、気付いたら既に対敵しており詩架に手が貸せる状態ではなかったのだ。
なんとも情けない話ではあるがこのギムニという男は最初の訓練の時に滅多打ちにされた事をそれほどまでに根に持っているということらしい。
まったくこんな奴が隊長かと思うとこの先が思いやられる。
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両方からくる指弾を上に跳びあがりかわすし、屋根に張り付くアルマジロを三体切り落とす。
ギギギ・・・といういかにも虫。というような音を発しながら息絶えるアルマジロ(仮)を幾体もころすのは気が萎える。
余り殺生は好きなほうではないのだが、やらなければやられるというという言葉がぴったり当てはまるこの状況でそんな甘えたことは言ってられないだろう。
俺が居なくなった隙にと由佳が壊した壁から素早く進入しようとするアルマジロを頭上からの攻撃で倒すと、そのアルマジロに続こうとしていたアルマジロ達も切り伏せていく。
そして視界の隅で捕えた指弾の発射をかわすために再び屋根に上る・・・という既にパターン化した攻撃を幾度となく繰り返しているとふと、あることに気がつく。
そういえば、連中指弾で蜂の巣にしてくれば俺たちにはなす術がないのに・・・何故しないんだ?
それにこの部族を狙った理由は・・・?
ただ単に馬鹿だから、腹が減ったからと理由付けすれば済む話なのだが、流石に先程の一対一の俺の攻撃を先読みした事などをかえりみれば馬鹿だという一言で片付ける事は難しい。
破壊の限りを尽くさないのに襲うということから考えられるのは。
奪取。及び強盗。
つまり・・・?
魔獣が奪いたいものといえば・・・・
分からないな流石に知識がなさ過ぎる。
しかし目的の検討はついた。
詩架は心の中でそういうと由佳に向かって叫んだ。
「お前の守ってる家族!何か大事に持ってたりしないか!?」
俺がそうさけぶと、数秒の沈黙を置いて由佳の言葉がこちらへ届く。
「なにかよく分からない透き通った緑の玉持ってるよ!」
その言葉を聞いて詩架仮の説は確証へと変化した。
それが目的か。
****
「そ・・・らっ!」
二匹同時に跳びかかってくるアルマジロを回転切りの要領で切り伏せ、由佳の守る家族を建物から出して北西へまっしぐらに走る。
20mほど走っただろうかと言うところで、一匹のアルマジロと二匹の鷹がこちらへ向かってくる。
「あいつ等本当役立たずだなぁおい!」
思わず口から飛び出た悪態に自分で驚きながらも、挟み撃ちにされた事で足を止めることを余儀なくされる。
「どうするの?」
槍を構えながらこちらへ問いかける由佳に、詩架は軽く笑いながら答えた。
「なぁに多少面倒になっただけだ。この程度はあの災厄の戦いに比べたら遊びと言ってもいいほどじゃんか。油断されて殺されかけたけどな?」
アッハッハと軽快に笑う詩架をみてきっと由佳の守っていた家族はひそかに思っただろう。狂っている と。
その家族の秘めた思いに気付きながらも調子を変えずに詩架は由佳へ言った。
「お前空中戦できたっけか?」
「空中戦・・・?あぁ。出来るよー」
これまた由佳の間延びしたのんきな答えに笑いながら詩架は頷いた。
「じゃあやるか。」
詩架がそういうと一瞬で二人の表情が引き締まる。
何が起こるのか。
その言葉が一家の頭の中を占めていただろう。
そしてその答えは直ぐに知ることとなる。予想の斜め上・・・いいや予想を大きく離れたその戦闘方法によって。
まず先に動いたのは由佳だった。
右腕をおりまげ、肘関節の内側と背中で挟むようにして槍を持ち詩架へと頷きかける。
すると詩架は了解。と小さく言って、家族に屈むように促した。
そして家族が屈んだ事を確認すると、徐に詩架は由佳の足首を掴んで円を描くように振り回した。
ヴォン!という風を切る大きな音が鳴り響いたと思ったら次の瞬間には、詩架は空を飛ぶ鷹めがけて由佳を投げはなつ。
「はあああっ!」っという掛け声と共に先ず左の一匹を槍で貫くと、その鷹を足場にして体を回転させて隣の鷹も切り伏せる。
さらに落ちざまにアルマジロを上から縦に切り裂く。
確かに効率的ではあるが・・・なんというかもうちょっと華麗さと言うものを求めてもいいんじゃないのだろうかなどと考えている一家も大概危機感がないのだろう。
そしてその予想外の由佳の攻撃が終わり、詩架のほうへと視線を戻すと既に詩架の戦闘は終わりを告げる一歩前だった。
迫りくる敵をただただ切り伏せること既に15体。
後ニ三体で村を襲ったアルマジロ全てを倒したといっても過言ではない程の数だろう。現に後続のアルマジロいないことからも考えられる。
「ラス・・・トッ!」
ザン!と右足を踏み込みながら袈裟切りでアルマジロを切り伏せてポケットの中の布で刀の血を拭って鞘へと戻すとクルリと踵を返して由佳の守る家族へと向き直って言った。
「お前たちが持っているその緑の玉、そりゃ一体なんだ?」
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