第二幕 第一節:戦闘の味
ガタン・・・ゴトン・・・と、御車台にのって召使いの老人と共にでこぼこな通路の上を走るために発生する揺れに身を任せながら少し気を抜けばすぐに眠りに落ちそうなまぶたを擦る。
「いやぁたまにはこういうたびもいいものですなぁ。」
老人が楽しそうにそういうと、ピシッと手にもつ鞭をしならせて地面を叩き馬の行く先を調節する。
「そうだなぁ。」
最初はもっと緊張感にあふれるものかと思いきや、その実体はずっとのんびりとしているだけのなんというか・・・旅だった。
ふわぁ・・・と自然に出てくる欠伸を噛み殺し、涙で滲むめを自分達の行く先へと向ける。
出発してもう半日が経過しようとしていた。
夜の宴も兼ねた出発式に出ていたためにかなり眠いのだが、この御車台に乗るという体験はなかなかどうしてできるものではないので少し無理してでも乗っているのだ。
「例の村まではあとどれくらいなんだ?」
俺がそう聞くと、老人は少し考えた末に短く答える。
「速ければ三時間ほどですかな。そこでは戦闘が予想されますから寝ていてはどうですか?」
老人はそう言うが、実際ここまで来てしまっては既にターゲット圏内だろう。
俺は心の中でそういって欠伸をしつつも警戒を怠らないように五感を鋭く尖らせる。
余計な物音を一切省いた聴覚を研ぎ澄ませていると、一つのこちらへ向かってくる飛来物の音が耳に飛び込む。
この状況でこちらへ真っ直ぐ飛来物が来るとすればそれは・・・・攻撃だ。
「先制攻撃は相手さんが取ったみたい・・・だ!ターゲットはこの御車だ!直ぐに飛び降りろ!」
御車台の後頭部部分に設置されている窓を肘で叩き、後ろにいる面子へ危機を知らせながらシャカッという音を立てて剣を引き抜き馬を縛る革を切り落とすと老人の首根っこを掴み御車台から飛び降りる。
老人を庇いながらゴロゴロと5mほど転がって馬車の様子を見るために顔を上げると、あわせたように馬車へと飛来物が突撃した。
一瞬見えた影からすれば形は円形で大きさは直径3mほどで数は恐らく二つ。
ガガン!と馬車が砕ける音が響き、跡形もなく馬車が砕け散る。
どこからの攻撃だ。
それを把握する為に視線を馬車からそらそうとするが、予想外な事に馬車のあった所から殺気が漂う。
まさか自身の体を利用しての突進・・・?
魔獣か。
しかし角度的に考えれば適した高台はない。
ということはこちらへ魔獣を落とした魔獣もいるはず。
つまり最低三匹いるわけだ。
あの大きさの魔獣を片足で持つ事が出来るやつなんか勝てそうにないが。
魔獣の分析を終えて再び周囲にサッと視線を走らせたあとに土煙が漂う馬車跡へと視線を戻す。
するとそこには、丸みを帯びたフォルムをしたアルマジロが二足歩行で立ったような魔獣がいた。
頭から股までかけて背中に堅い装甲がついており、手の甲の場所にも丸いボクシンググローブのようなものがついている。
身長は約4M。俺のだいたい二倍程度か。
その魔獣を視界から外さないように仲間を探してみると、丁度反対側に三人が武器を構えているところが視界に飛び込む
向こうは魔獣が数的不利にならないために空に魔獣が飛んでいる所を考えると助けは期待出来ない・・・か。
自力で境地を脱する事を強要されたことにため息をつき、そばに立つ老人へ話しかける。
「あいつは俺がひきつけるから、アンタは逃げるといい。一応にも情報を教えてくれた恩があるからな。あの情報は役に立った。」
俺がそういうと、老人は一瞬何かを言いたそうに口を開くが、恐らく自分がここに居ても足手まといにしかならないことに気がついたのか、それとも別の思惑があってなのかは分からないが再び口を閉じた。
「では、御願いします。」
老人はそういうと少し離れたところへと離れていった。
ふぅ。
さてこれで障害は無くなった訳だ。
あいつらはあの数じゃあ俺が勝つか死ぬかするまで助けにこれそうにないな・・・
それならば。
心の中でそう言って気持ちを切り替えて風の部族がいると言われている場所へと魔獣の注意を引きながら脱兎の如く走り出す。
・・・
何も一対一で戦わないといけ無いわけじゃねーだろ。
****
「はぁ・・・はぁ・・・」
圧倒的に数が多い。
由佳は乱れた髪をかき上げながら心の中でため息をついた。
背後には私がここへ来た時に魔獣に襲われかけたときに助けてくれた家族。
命の恩人は足すけるべきだと教わっているし。ここで逃げるわけにも行かない。
槍の先を向けて威嚇しながらアルマジロのような魔獣を牽制する。
使い慣れない槍なんか使うもんじゃないな。
心の中で遅い後悔をしながら再びため息をつく。
四角い部屋の唯一の出口を数体の魔獣に抑えられた今やられるのは時間の問題だ。
ジリ、と地面をするように右足を後ろに下げると、ポケットにある容器がカラン。と音を立てた。
超小型戦術大規模爆弾。
この長ったらしい名前の爆弾はかの災厄時に活躍した核爆発級の規模の爆発を起こすカプセル大の物だ。
あの災厄の時に発達した技術”KASAHANA.project”の技術を封印する際、まとめておくよりは分散して持っておいたほうがいざって時にも役立つしそれに安全だろうという事で各自に配られた物だ。
これが三つ。
使えば魔獣はおろか街ごと消し去る事が出来る代物だ。
詩架が剣を使うのに長けているとすれば私が長けているのは爆弾技術。
特に消費物の火薬を使わない爆弾を作るのに長けているのだけれど。
「使うわけには・・・いかない、よねぇ・・・」
非力な女の力をもってしても前線に立つための爆弾だったのだがそれが逆に仇になるとは。
あの時は前衛は少数だった為にコンタクトも取りやすく簡単だったが今回はそうは行かない。
命の恩人の家族や仲間を殺すわけには・・・いかないよなぁ。
そんな事を考えていると、目の前で構えている魔獣のうちの一匹が跳びかかってくる。
災厄で鍛えぬいた動体視力をフル稼働させて一撃を交わし、槍で首にある急所を貫く。
既にこれで20体目だ。
一度に掛かってこられなければ対処できる程度には慣れた。
この狭い部屋では二匹以上同時に跳びかかると双方が双方の邪魔をしてしまい逆に殺されやすくなるというちょっとした知恵があったりしたのだ。別に追い込まれた訳ではない。
相手もなまじ頭がいいだけにそのことに気がついてしまい一匹ずつしか来ないのだ。
これでは消耗戦だ。
応援はまだかなぁ・・・・
全く両目使える状態でもこれだって言うのに、片目しか見えてない詩架は大丈夫なのかな。
****
しばらく全力で走り、ある程度追いつかれそうになると突然足を止めた。
「ふぅ。ここまでくりゃいいだろう。」
ザッと足を地面に突き立てて勢いを殺して剣を構えながら振り返る。
追いすがってきていたのならそのまま突き刺してやろうかと思ったのだが、相手も馬鹿じゃないらしく、俺と一定の間合いを持って立ち止まった。
しかし何もないと分かると、右足で地面を思いっきり蹴り、跳んで来る。
「前口上もなしかよっ」
右拳のストレートをかろうじて刀身で受け止めるが、魔獣の勢いを殺しきれずに3mほど後ろに引きずられる。
この完全な命のやり取り。
あの災厄とまるっきり同じだ。
刃物を持ち出してもどうせ死なんて言葉はその場に存在しないとおもっている平和な喧嘩じゃあない。
殺し合いだ。
押し負ける勢いを消しきれないうちに右足で魔獣の腹を蹴り上げる。
ゴッという鈍い音を響かせながら完全に決まった蹴り上げは魔獣を後ろへ吹き飛ばす。
地面へ着地する前に体を丸めて危なげもなく着地すると、未だにこちらが態勢を立て直しきる前に再び跳びかかる。
「ちくしょ・・・っ」
苦し紛れに右足で地面をけり横にスライドしてそのタックルを交わし、無理やり地面に足を付きたてて立ち直して再びアルマジロの姿を視認してみれば、アルマジロは右手をこちらへ掲げていた。
何をするつもりだ。
脳裏にその言葉が流れた瞬間にはその右手の爪は全てこちらへ飛んでくる。
数はおよそ5。
あやふやな距離感で視認できるものと致命傷になりかねないものを叩き落すがそれでも叩き漏れが体を切り裂く。
痛みに顔をしかめるが、次の瞬間にはその痛みとは比べ物にならない衝撃が腹部を襲う。
しまっ・・・
そんな事を思う暇もなく、視界が反転して地面を転げ回る。
いや転げまわるというよりは撥ねるといった方が正しいか。
数回バウンドした後にやっとの事で自分の体が止まり、痛む首を動かして敵を見れば再び右拳を掲げて跳びかかってきている。それを視認してとっさに左腕を突き出して右に転がり回避行動を行う。
痛むアバラを無視してかわした攻撃は見事に頭があった場所の地面を砕いた。
その衝撃波で吹き飛ぶと、風圧を利用して立ち上がる。
口から漏れ出す血を吐き出しながら恨みの篭った目でアルマジロを見据える。
すると一瞬で視界の色が消えうせ、跳びかかるアルマジロの動きが突然スローになる。
この味。
懐かしいな。
ああ認めるよ。
俺は侮っていたよ。
というか忘れていたよ。
この殺し合いというものがどういうものか。
心の中で油断のあった自分に毒づくと、なれた手つきで右目の視界を奪っていたカラコンを取り外と、灰色になっていた視界全てに色と速度が戻った。
ヒュッと空気を切り裂きながら迫るアルマジロの右手を交わし、装甲の合間の首に刃を当てて首から右足の付け根へとかけて切り裂く。
豆腐を切ったかのように手ごたえのないその切れ味に関心しながらポケットの布で刃を拭う。
切れていた皮膚を撫でてみればそこにあった傷は綺麗に消えており、流れていた血も返り血でどれが自分の血かわからなくなっていた。
「・・・俺がここ(評議会)に来たってことは近くの襲われてるっていう村に由佳が保護されている可能性が高い・・・な。同じ腕につかまれたのに遠い所に置く意味が分からないし。」
詩架は誰に言うということもなく呟くと、剣を仕舞って何事もなかったかのように言った。
「・・・・行くか。」
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