第六幕 第二節 撃
「この世界が俺たちの世界を狙っている事は分かった。多分だけど、その理由は人口の増加による資源の不足だろう?」
詩架がそういうと、ハイナはその考えは思いつかなかったといったように頷いた。
「どういうことだい?」
フィルンが答えを求めるようにして言った問いは、ハイナが答えた。
「三年前の戦乱でこの世界の人口は、エクリプス・マギカによって半数に減らされ、更に戦争によってその半数。つまりもとの四分の一の人口になったのじゃ」
「三年前の・・・戦乱?」
フィルンが首をかしげるが、ハイナは後で思い出せ、というだけで話を進める。
「三千万人だといわれていた・・・正確にはもっと少ないじゃろうがの?それの四分の一の人口、だいたい750万人か?」
それにしてはちと、人数が多いとは思わんか?
ハイナに言われて、今まで気にもかけてなかった人口を思いだす。
言われてみれば使者としていったことのある四大都市はどこも異様な人数だった。しかも加えてあぶれた人間で構成された集落があった。
「恐らく俺たちがいった遊牧民族の集落も同じ部類だろうな」
あぶれるほどの人数。
四大陸の都市は最低でも200万人は入れるほどの大都市だ。
それに加えて近くに街もある。
その町にすらあぶれて遊牧民となる・・・
「一体今この世界に何人いるんだ・・・?」
「恐らく門が通じている間・・・影が俺の世界に来てるあいだに、俺の世界で死んだ人数だけ居るだろうな」
影が来たために世界の終わりだなんだといって内戦も起こったらしいし、あのときに死んだ人数は軽く九桁へと届くだろう。
多すぎる。
「つまりここは・・・あの世・・・ってこと?」
由佳の言葉に、詩架は頷く。
「まぁ、そういうこった」
****
「ナァンダイ、いきなり声を張り上げちゃってさぁ」
ラフな格好な女性が挑発するように声をかけてくる。
「いやなに、本気モード、って言う奴さ。僕を今までの僕と・・・見ないほうがいいかもしれないね」
悠介がそういうと、女性は笑い声を上げて悠介に襲い掛かる。
「格好つけちゃってさぁ!」
ブン、と振り下ろされた槌は屋根だけでなくその建物自体すら破壊しつくす。
「くぁっ・・・」
慌てて後ずさって違う建物へと飛び移るが、今度は投げられた槌がその足場となる建物を崩す。
「くそっ・・・」
ガレキと一緒に崩れ落ちながら対策を練る。
奴の武器は槌。
大して僕の持っている剣は刃渡り40cmほどの中剣・・・
正面からのゴリ押しじゃあ勝てないことは明白。
となれば・・・っ
ぐ、と左手で拳を作り、思い切り力をためる。
そして思い切り。
突き出した。
「ふき・・・とべえええええええ!」
ダン!という凄まじい轟音とともに四散して吹き飛ぶ瓦礫は、女性に横なぎに降り注ぐ。
一瞬、何が起こったのかなんてことはわからなかった。
しかし次の瞬間には、視界がガレキで埋め尽くされていた。
そして更に言えば。
「ガレキと混じって飛べるとは。いやはや自分でもビックリしたよ」
迫り来るガレキの中に隠れていた悠介がいつの間にか女性の背後に立っていた。
「チェック、メイトだよ」
ガッと首筋を剣の腹で叩くと、女性はいとも簡単に意識を失って落ちていった。
それを確認すると、悠介は内心安堵の溜め息を吐いた。
(正直、この戦い勝てたのは、最初にやられてたから油断してくれてたから・・・だろうなぁ)
もっと強くならないと、と悠介は言いながら頭を掻いて、女性の側へ降り立って処置を始めた。
****
「あなたたちの」「そのちから」「「とても気味が悪い」」
ガガガッと両側から責め立てる魅麗と梨魅の鈍く光る手をみて、双子がそんな感想を漏らすのを聞いて、魅麗は鼻を鳴らして言う。
「ハッ!言ってくれるね!アンタ達に言われんのは心外だけど・・・ね!」
ダガン!と大して違いのない片方を打ち上げると、それに追随するようにして片方も飛び上がる。
まさに一心同体。
しかしその先には。あらかじめ飛んでいた梨魅が待ち構えていた。
「おいで・・・っ!」
梨魅そう言って引き絞っていた右腕を思い切り突き出すと同時に、薬指の銀色の光がいっそう輝く。
「ふきとべえええっ!」
ダダン!という激しい音を響かせて地面へ叩きつけられた二人へ追撃を行うために魅麗が落下地点に漂う土煙の中へ飛び込むと、数十秒の後に土煙の中から魅麗が吹き飛んでくる。
吹き飛んでくる魅麗を壁に当たる前に受け止めると、土煙の中から両手をつないだ双子がゆっくりと歩み出てくる。
「「追撃隊NO.2の実力・・・はっきりと見せてあげます」」
そういうと双子はその場の地面を蹴り上げて、一瞬で魅麗と梨魅に肉薄する。
「ッ!」
近づきながら片手を離し、相方の腰から小刀を抜いて梨魅と魅麗に迫る姿はとてもじゃないが恐ろしいものがあった。
「よけてっ!」
ダッと二人が地面を蹴って飛び上がった後に、背後の壁を蹴って更に方向転換をして、今まで自分たちが居たところを見ると、一人では到底出来ないような斬激跡が生々しく残っている。
「っと・・・」
ダラダラと冷や汗が流れる。
(常識なんてものここじゃ通じないのか・・・)
魅麗は呆れて心の中でそういうと、梨魅に目配せをする。
(手を狙うわよ)
(うん)
アイコンタクトを交わすと、再び迫り来る双子をスレスレでかわす。
そして空中に飛び上がった魅麗は足に隠してある暗剣を、足を振って思い切り吹き飛ばして双子の結んである手へとむけて放つ。
すると双子の左側に居た方がナイフの存在を認知して僅かにつないでいる手を引く。するとそれに反応するようにして右側のもう一人が左側の双子へと近づいてナイフを交わす。
―――なるほど
魅麗はそれで察する事ができた。
影との闘いで未知との対策を強いられていたために全てに対して注意を払う事ができたために出来る芸当といえよう。
彼女達は手をつないでいる事に全力を注いでいるだけではない。
緑髪と赤髪の彼女達は、二人で何かをしている。
そしてその何かとは恐らく。
魔法
ここまで分かればもう簡単だ。
恐らく突進の加速は炎でのブースト。そしてすばやい斬撃は風。
ブーストが見えないのは風による光の屈折だろうか。
脅威的な推理力だ。梨魅は無線で姉の推理を聞きながら思う。
未だ二回しか見ていない技をそこまで解析するとは・・・・
姉の分析力に感心して作戦を練り上げる。
そして何十通りものルートを検算し、一番やりやすそうな結果をはじき出す。
分析が姉の仕事なら攻略が私の仕事。
「お姉ちゃん、いけるよ!」
魅麗のその言葉だけで、二人は動き始める。
ザッと双子の両端に別れてにらみ合う。
「あなたたちが」「どんなさくをねろうとも」「「レベルが違う私たちに勝てるわけが無い」」
双子の言葉に顔を引きつらせた梨魅が先手を切った。
「うっるさいわねぇ!」
ヒュ、と風を切る音が響いた次の瞬間には、双子の足元の地面が崩れる。
「そのていど」「で私たちに」「「攻撃があたるわけがありません」」
そういいながら飛び上がる双子を追撃するようにして梨魅も飛び上がる。
風と炎の入り混じった攻撃を一人でいなせる彼女はかなりのやり手だといえるだろう。
「まだまだあああああ!」
5m程上昇したところで梨魅は減速してしまい、地面へと落ちかけるが、双子の片方の風を使った斬撃を足場にして一気に双子の上方へと駆け上がる。
そして上段に持っていた剣を構えて思い切り振り下ろした。
「おち・・・ろおおおおお!」
ガン!と金属と金属がぶつかる音がして一瞬、ほんの一瞬均衡が保たれたが、すぐに自重と腕の力に任せて振り下ろされた梨魅の剣に推し負けて地面へと双子が降下する。
そしてその先には。
まってましたといわんばかりの魅麗が待ち構えていた。
手には何かのスイッチと、剣を携えて。
「ふふっ、あなたが今ここで炎を使えば火気爆発。風を使えば私がスイッチを押して上昇気流が発生して風が不安定になって自分にぶつかる事になって。加えて上にいるお姉ちゃんにとどめの一撃。」
生き残る道があるとすれば。
「私と一対一よ、双子」
ニヤリと不敵に笑う魅麗を見て、双子は風の魔法を使う予備動作をはじめた。
「ま、その選択をするだろうと思ったわ。誰も自分もまきこんで爆発するとは思わないでしょうしね」
魅麗はそういって、足元に隠しておいた落とし穴へ剣を突き立ててそこへ飛び込んでスイッチを押した。
「卑怯なんて言葉、聞き飽きたわ」
ポチ、とスイッチが押された次の瞬間。
周囲は全て暴炎に包まれた。
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「っだぁ・・・」
地面に着地した梨魅は溜め息をついて座り込んだ。
「無事?」
のそのそと落とし穴から這い出てきた魅麗は梨魅の身を案ずるように聞く。
「もちろんよ。全く指向性爆弾で見た目だけの爆弾配置を構成するなんて、馬鹿げてるわ」
梨魅はそう言って、周囲の全く焦げていない建物を見渡す。
「ふふ、私頭良いでしょ?」
魅麗がそう言って微笑むのを見て、梨魅は思う。
(絶対に敵にまわしたくないわぁ・・・)
心の中で梨魅が呆れたため息を吐いたのとタイミングを同じくして、自分の風のダメージを受けた双子が地面に倒れながら二人に聞いた。
「なぜ」「私たちが」「「あなたたちに負ける」」
双子の言葉を聞いて、梨魅は今度は普通に溜め息をついて、何当たり前な事を、と言うような表情で答える。
「二対一なら、二人のほうが強いでしょ」




