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過去篇 最終節:希望の笠

今回はかなり長めに書きました

[影大群。来ます]

どしゃ降りともいえるほどの雨量の中、耳から静かに聞える男の声は、今までになくクリーンだ。

それは研ぎ澄まされた感覚故だろうか。

そんなことを思っていると、隆起した丘の向こうから段々と影が出現してくる。

地平線を埋めるほどの数だ。

ここまで来ると圧巻だ。

視界一面が黒い雲と、真っ黒な影に埋まって黒く染まる。

「いやぁ、最後の戦っぽくなってきたじゃあねぇか」

思わず出る不敵な笑みに自分で驚く。

この絶望的な状況の最中、俺はこんなにも余裕がある。


敵との接触まで残り50m

既にそれは、体感的に目の前にいるようなものだ。

[いいな、はじめるぞ]

勝ち目はない。

そんなことは分かっている。

でもそれでも負けられない。

「意地ってものがあるだろうよ・・・男・・・いいや、人間にゃあよぉ」

そういうと、無線機の向こうからフッという鼻笑いが聞える。

[奇蹟を、起こそう]

誰とも知れないその言葉、恐らく・・・リリのその言葉を耳に感じた次の瞬間。

目の前に広がる影は一斉に、詩架の首を刈り取らんとして襲い掛かった。

「良い黒さじゃあねぇか。消し去ったらさぞ気持ち良いんだろうなぁ!」

左手に持つ大剣で第一波の影をそのまま第二波に吹き飛ばしながら回転し、右手で腰にさしている二本目の剣を引き抜く。

「愛刀だ、この切れ味・・・愉しめよぉ!」


****

「ッフゥッ」

体の中の息を全て吐き出して空中にいる影の異様なまでの加速スピードから逃れるためにブーストをかける。

しかしぴたりと食いついて離れる様子が全くない。

「しつこい・・・っ!」

クイ、と上半身を上に傾けると、悠介のからだはほぼ90度の角度で曲がって上昇を始める。と思った次の瞬間にエンジンが停止した。

もちろんそんな状態でエンジンが止まれば回転して吹き飛んでしまう。

しかし自身の体の向きを正確に測り、再びブーストを点火させれば話は別だ。

一気に刀を持った殺傷力の高いミサイルへと変貌する。

「くらええええええ!!」

刃を備えたそのミサイルはその直線状にいた影全てを破壊しつくした。

勢いを止めてくるりと後ろを向けば、そこには真っ二つになった影達がゆっくりと落ちていくさまがはっきりと見て取れる。

「ふん」

自慢げに鼻を鳴らすが、真っ二つにされた影達が落ちていっても、まだ視界が開けない事に気が滅入る。

この壁の厚さは、どこまであるのだろうか。

そんなことを考えてしまうが、その考えを頭を振って振り払う。

「大丈夫さ、琉雨の事だ。六時間とか言っておきながらどうせ20分で終わる。すぐだ」


****


「派手にやってるな・・・っ!」空中で激戦を繰り広げる悠介を尻目に、地面から対空砲火を浴びせんとする影のターゲットを自分に移す作業を進める。

どうやら奴らの学んでいたのは空中に飛ぶ事だけではなかったようで、今の奴らは銃のようなものまで使う。

「そらこっちだぁ!」

ドン!と威力を100分の一にまで縮小した圧縮爆弾を使って地面にいる影をなぎ倒す。

そして倒れたままの影に出来る限り多く太刀筋を入れる。

そうすることで少しでも回復を遅くするのが狙いだ。


「いや、これ六時間・・・まぁ琉雨の事だ・・・・早く終わるだろうな・・・ッ」


****


既に体に刻まれ始めた生傷を感じて何より先に思うのは自分の死をあんずることではなく、ここを崩されたら粒子拡散砲が壊されるといった使命感だった。

「だから、死ねない!」

思うことがある。

私に、守られるほどの価値があるのかどうか、なんてことは。

氷見は使い込まれた槍を握りなおして思う。

けれども、あの人は守ってくれた。

初対面の私を。

励まして、立たせてくれた。

ということは少なくとも無かったわけじゃあない。

それだけで、戦える。

生き残る理由が出来た。

「他の人も守るために・・・っ」


****


「き・・・きついわね・・・」

ダラダラと流れる汗を右手で拭い、左手に持っている改変型圧縮爆弾を投げつける。

しばらくの間壁と言っても差し支えないような形で空気が圧縮されるので空壁と名づけてある。

「これで40秒は持つ・・・」

パン!と展開された空壁に押しかかる影を見て背筋が凍る。

着実に押されている。

近接戦闘が圧倒的に下手なために下がって防戦するしかない。

まずいな。

ここを崩されたら他の仲間の頑張りが無駄になるというのに。

ここでアシストしてくれる近接がいれば・・・

由佳がそう思っていると、空壁を仲間を足踏みにして飛び越えた影が一体、由佳めがけて飛び降りざまに切りかかった。

「しまっ・・・」

完全に油断していたために動きが2テンポも3テンポも遅れてしまう。

スッ、と脳天に影の刃が突き刺さる・・・寸前で、何者かの刀によってソレは阻まれた。

「大変そうね、手伝うわ」

その声は聞き覚えが無い。

由佳がそう思っている最中さなかにも、影は目の前で細切れにされた。

「あなた達には保護してもらった恩があるの。だから私は今、ささやかな恩返しをするわ」

影がひらひらと舞い落ちる向こうに立っていたのは、かつて生気の無い目をしていた双子の片割れの、梨魅だった。

「私も半人前なの。協力しましょう」


****


「速く速く速く・・・っ!」

型作りは終わった。

後はプログラムを打ち込むだけだ。

しかしソレが中々上手く行かない。

ギリ、と奥歯を噛み締める。

確かに予定よりは五時間早い。

人間本気出せばここまでできるのかと驚きたいぐらいだ。

しかし今の状況ではそれでも遅い。

今すぐに。

今すぐに解決しなければいけないのに!

ダン!とキーボードの横に拳を叩きつける。

『琉雨』

ふと、耳の無線機から無機質な、けれども聞き覚えのあるニュアンスで名前を呼ばれて動きが止まる。

頭の中ではその声の主が分かるが、否定したい気持ちで問い返す。

「誰?」

『私よ。リリよ』

ついに幻聴が始まったか。

琉雨は頭を抱えたくなったが、それを否定するようにリリは続ける。

『違うわよ。私は私。元から感情もあったし、喋れもしたわ。だって私の生身が元になってるのよ?出来ないわけがないでしょう?』

それは全く科学的じゃない根拠だが、今はそれを検証する暇も無い。

『まぁ私が口を出したのは一つよ、あなたが私に組み込んだエシュロン・・・つまり茨城の外へのつながりのおかげで一ついい事があったの』

何?と琉雨が尋ねると、画面いっぱいに全ての業界のトップの顔が表示される。

見覚えの無い一般人の顔もちらほら見える。

それら全てが、一心にキーボードを叩いている。

『彼らは私たちのこの状況を知って、手を貸してくれているの。一人では六時間掛かるプログラム構築も、彼等の手を借りれば20分で済む』

その言葉に心から安堵の溜め息が漏れる。

ありがたい。

今まで私がばかにしていた一般市民とカテゴライズされる彼らにも、頭が上がらない。

「私の声、外に・・・皆に届くかしら」

琉雨が小さくそういうと、リリはもちろん、といって回線を外へとつなげて琉雨を促す。

「皆さん、ありがとう。本当に、ありがとうございます」

琉雨のその声を聞いた皆の反応は十人十色と言っても過言ではなかった。一人は驚き、一人はガッツポーズを見せ、一人は何故か泣き始める。

その反応に少し戸惑うが、これが心からの感謝の気持ちだ。

自然と涙が出てくる。

これで、勝てる・・・

一瞬外の皆に言いたくなったが、今はそんなことをしているほど暇ではない。

報告だけで良い。

それだけで、彼らは生きてくれるはず。

それで、十分だ。


****


[色々あって六時間が二十分に短縮されたわ]

その報告は・・・・・


うれしいものではなかった。


全員の防衛線はじりじりと下がり、施設までのこり5mを切っていた。

「あぁ・・・助かる・・・」

詩架はそう言って、回線から琉雨だけをはじき出す。

「いきてるかぁ・・・お前等」

[あぁ、生きてるぜ・・・]

[何故か・・・な]

[よゆうのよっちゃんです・・・]

[ちょいと老人のからだにゃきついぜ・・・]

[同上・・・]

[ちょっときついわ・・・]

三者三様なその言葉に詩架は安堵する。

「聞いただろ、後20分だ、全員体の欠損は無いか?」

詩架が聞くと、全員がうん、と答える。

「気合入れていけ・・・っ!」


粒子拡散砲発射まで、あと20分。


****


ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!

突然鳴り響く轟音に、地下の避難路の全員が一つの方向へ向く。

「影・・・か?」

一人の男が発した声に、全員が軽くパニック症状に落ちかける。

しかしそれを制したのもまた、扉を叩く音だった。

三重になっている厚さ40cmの鉄の扉が、あろうことか段々と軋み始めている。

「まずいぞ・・・っ!」

「逃げろ!」「どこにだよ!」「しるか!とにかくにげるんだ!」

必死で逃げ惑う人間達、その顔は醜く歪んでいた。

「彼らを醜いと思うかい?」

背後から声をかけてきたその男性は、こんな状況にもかかわらず涼しい顔だ。

「うん」

魅麗が反射的にそう答えると、男性はさわやかな顔で頷いた。

「うん、君は気に入った。僕が守るよ」

彼の守った彼女と・・・双子のように似ているしね

彼のその最後の言葉はほとんどかすれて聞き取れなかったが、なにやらこの人が守ってくれるそうだ。

すこしうれしくなったところで、先ほどここから出て行った姉の事が気がかりになる。

「君は、姉がどこに行ったか知りたくないのかい?」

男が鎌をかけて姉と声をかけてみるが、それにタイムラグ無く魅麗は答える。

「知ってるもん」

「へぇ、どこにいったんだい?」

「戦にいったんでしょ?」

少女の答えに、男は意外なものを見る。

べったりだったと思っていたこの二人は案外そういうわけでもないのかもしれない。

「君は、この絶望的な状況で姉を影に差し出した、と見ていいのかな?」

男がからかうようにそういうと、魅麗は顔を真っ赤にして反論する。

「仕方ないじゃない!私にはお姉ちゃんみたいに影を倒す力も無いもの!お姉ちゃんみたいに体を動かせるわけじゃないもん!」

「そうか、つまり君は被害者で、庇護者で居たい訳だ」

なるほどね、と男は言うと続けた。

「おぞましいほどに君は嫌な人間だね」

「なんでよ!」

「だって君が言っているのはつまり、今まで同じ一般市民だった非力な君の姉を盾にして、自分は安全地帯で安穏と生きたいって事と何が違うんだい?君が言ってるのは、戦地にいる人間に何で銃を持たせるんだなんていう意味の分からない的外れな議論をしてるどこぞの国の馬鹿な官僚たちの矛盾と全く違いが無いんだ」

彼はそういうと、でもね、と一言置いて続ける。

「本来君たちはそういう矛盾を持って生きていて良かったんだ。こんな否応無しに戦地に立たされるような状況じゃなければね。でも君・・・いや、ここにいる全員はもうそういう状況じゃあない事を認めて戦うしかないんだ。もう庇護者になることは出来ないんだよ。それを、認めようとしない」

男がそういうとタイミングよく無線から詩架の声が届く。

[よぉ、どーだ?そっちに影いったか?]

その声に男は答える。

「ああ、残念ながら地下部隊も居たようだよ。君は影を侮りすぎたね」

[うるせぇな。どちらにしろ面子が足りなすぎらぁ。お前一人で生き残れるか?こんな状況だ。下手に守ろうとすると全員死ぬぞ]

「腐れ傭兵だった僕に守る云々を説くのかい?君から金をもらってなかったらここには居ないさ。元々ね」

[まぁなんにせよ、だ。生き残れよ]

「もとよりそのつもりさ、それにね。僕は一人じゃないんだ。もう一人協力してくれそうな人が居る」

[そうか。まぁそこいらは好きしろ。地上はかなりギリギリで戦ってるところだ。お互いここから生きて出るぞ]

「ああ、僕も腐れ切ったこんな人間達の中で死ぬつもりは無いよ」

[ハン、言ってくれるね]


そう言って詩架が無線を切ると、男は魅麗へ刃渡り50cmほどの剣を渡す。

「これはかなり軽量化されてるから君でも恐らく扱えるだろう」

男はそう言うと魅麗の反論しようとする口を押さえて続ける。

「君もここに居る腐った人間達の中で死ぬのはごめんだろう?自分で戦に臨んだか、他人に強要されたかなんて問題じゃない。生き残るには戦うしかないんだ。君はもう逃げる事はできないとさっき言ったろう?」

彼はそういうと、そら、来るぞ。と言って防護扉の方へ顎を差し向ける。

するとそこには防護扉を破ってゾロゾロと入ってくる影達の姿があった。

「これでもここはイージーモードさ。地上の君の姉が戦っているところはここの役300倍もの敵が居るんだからね」

その男の声に魅麗がここからの生還を諦めかけたとき、地上からズシン・・・という重苦しい何かがつぶれるおとがした。

まさか、という気持ちに駆られるが、今は上を信じるしかない。

信じて、戦うしかない。

「イイ眼だ」

その声に反応して男の方を見ると、彼は微笑んでいた。

いつの間にか、魅麗の心の中に戦意が段々と鎌首をもたげている。

生き残る、というよりは戦ってやる、という方向性に近いそれは、それでも戦意であり、結局は生き残るという結果に繋がる。

祝福しよう。

そんな声が聞えたと思った次の瞬間に、魅麗の右手の薬指と、男の胸から銀色の光が煌々と煌き始めた。

「はっ!いいねぇ、神様とやらのプレゼントだ。精々使わせてもらうさっ!」

男がそう言うのと時を同じくして、影が二人へ襲い掛かった。

希望をつぶさんと、押しかかるようにして。


粒子拡散砲発射まで、残り10分


****


「これで・・・いいのね」

由佳が息を絶え絶えに地面へへたり込む。

「ああ」

詩架がそう言って頷いて周囲を見渡すと、円形に分厚く配置された空壁が見える。

まず強めの爆弾で敵を吹き飛ばした後に、100mほどの分厚い空壁を発射口のところだけを空けて設置したのだ。

「これで、必然的に俺たちを倒すために発射口へ連中が集まるはず」

戦闘が発射口からしか入れないと察したら、学習能力がある連中のことだ。

後ろの奴らにも伝わってここに集まるはず。

一直線、とまでは行かないが、粒子拡散砲は砲口の半径20m以上に粒子拡散のエネルギー弾は大きいらしい。

工程は分からないがとにかく射線上に集めればなんとかなる、ということだ。

「これの持続時間は?」

「15分よ」

由佳の言葉に、計画通りだ。と心の中で呟く。

「全員生きてるな?」

詩架が背後に居る全員に声をかけると、全員が息を絶え絶えに頷く。

「あとはこの八メートルの隙間を守りきるだけだ。一人1m。何とかなる」


「さぁラストバトルだ。気ぃ引き締めていけよ」


粒子拡散砲発射まで、残り五分


****


「っく・・・・」

ダラダラと流れる汗をそのままに眼前に残る影を見る。

「どうやらここに居る影は再生が出来ないようだね・・・なんでだと思う?」

「わ、分かるわけないでしょ・・・」

ハッハッと短い息で肩を上下させている魅麗の体には、既に限界が来ていた。

しかしこの場に居る影は全員再生が出来ていないようだ。

なぜ、といわれれば理由は分からないが好都合。

「残り一体・・・待てよ・・・」

残り一体、そう思ってもう終わると安堵仕掛けた瞬間。眼前の影が異変を起こした。

その影から湧き出た数本の触手は、傷を負って動けない避難民達を全て突き刺し、そしてくぐつのように動かし始めた。

「嘘だろおい・・・」

凄惨なその光景に、魅麗は堪えきれずに嘔吐した。

今までは影を殺せば形も残らずに消えていったのだが、今そこにいるのは人間そのままが死体を無理やり動かされている状態だ。中には片腕が無かったりしている。

自分は幾多の残虐行為も見てきたから耐性はある。

しかし背後に居る少女は精神が崩壊してもおかしくないだろう。

映像越しに見るのとは違う。

匂い、音、雰囲気。それら全てが精神的負荷を非常に高める。

「くそっ」

男は毒づく。

その影の行為に、ではない。

背後の少女の精神を案じてだ。

「ま、なかなかどうして最後はいい展開になったんじゃあないかな」

っふ、と息を吐くと、何かを決したように姿勢を正す。

「嫌な人生だったがね、終わり良ければ全てよしとも言う」

何を言い始めたんだ、と魅麗は男を凝視する。

「生きろよ、お嬢さん《メーデル》」

男はそう言うと、ダン!と壁に剣を叩きつけて、その場の土壁を崩し、魅麗の姿を隠した。

しかし音までは隠し切れない。

「っは!来いよ化物、俺の最後の相手としちゃあちょっとキモイが、舞台は上々モンだぁ、派手にやろうぜ!」


そしてしばらく続いた戦闘音は、最後に肉を引き裂く音をもってして終結を迎えた。

「いってぇ、いってぇな。でも不思議と後悔はねぇ。お前にはわからねぇだろうよ・・・・・殉じるさ、俺の答えに」

くぐもってはっきりとは聞えないその声が途切れると、ドン、という音が響き、崩れた土壁の中にまで熱が届く。

あぁ、彼は私を守って、死んでしまった。

心の中で事実を再確認すると、いつしか枯れてしまった涙が、再び止め処なくあふれてくる。

「ありがとう」

その声に答えるものはもちろん居ない。

はずだったのだが、脳裏で生き残れよ、という言葉が聞えたのは、気のせいではない・・・のかもしれない。


粒子拡散砲発射まで、残り五分


****


残り三分。

無線機からそんな声が聞える。

「・・・・・・ふぅ」

その声に反応したのはただ一人。

詩架だけだった。

氷見は下半身を失い、礫は片足を失った。

霧ヶ峰と九帖にいたっては二人をかばって命を落とした。

二人以外気を失っているだけで命は落としちゃいない。

ふざけやがって。

「調子付きすぎなんだよお前等・・・」

ふざけ・・・・やがって・・・・

ス、と礫の手から剣を引き抜くと、両手に構える。

開いた穴はすでに空壁で一時的に塞いである。

と言っても40秒しかもたないが。

彼らを安全地帯に押し込むと、両手の剣を地面にこすりつけながら薄くなり始める空壁へと近づく。


運命。

ふと何処かの小説でよんだそんな単語が脳裏をよぎる。


ここで負けるのが運命だとでも言うのか。

リリの願いもかなえられず、ここでのたれじぬ。

ソレが運命。


気にいらねぇ。


気にいらねぇな。


体中から溢れる血をそのままに歩く。

既に影は勝利の余韻に浸っているようにすら見える余裕のある動きで、空壁を破った。

あとはいたぶって殺して施設を壊すだけ。

「気にいらねぇなぁ!」


答え云々と言ってきたがそれはもういい。

これは覚悟だ。


「お前らをぶちのめして後ろに居るやつらを生きて帰す。それが俺の覚悟だ」


簡単に俺を殺せると思うなよ、運命とやら。


「こっちにゃあ人智を超えた力があるんだ、運命なんざ、捻じ曲げてやるよ」


そう言って剣を構える。

鈍く光るその剣には、銀色に輝く詩架の両目が移った。

「ハッ、ボーナスステージだ!」


ダッと地面を思い切り蹴って飛び上がると、影の蠢く中へダイブするように飛び込んだ。

「そぉら吹き飛べ!」

ガッと両の剣を突き出すとそれを思い切り回転させる。

切れ味の悪い剣なら重くてまわせたものではないが、不思議と今の剣は切れ味が異様なまでに鋭い。

スパッと綺麗に半分に切れた周囲の影を見て思う。

―――いける


右上方45度から一体。

10時と六時方向から銃弾


一瞬でそれを把握すると、右上方の敵へ飛び掛って振りかざした剣を受け止めながら銃弾を交わしてもう一方の剣で腹部へ突き刺してそのまま切り上げる。

九時方向から4体

視界の隅で捕らえた影を一太刀で屠る。


そんな圧倒的なまでの戦が続く。


恐らく絶望の化身である影達も詩架の変貌には目を白黒させているだろう。

底知れぬ人間の怖さ。

彼らはそれを侮っていた。

人間は強くなる、という事を。


****


ダン!という音を伴って最後の障壁が破られる。

「まずい・・・っ!」

最後の障壁が破られた事を施設に備えられた監視カメラで把握すると、キーボードを打つ手を忙しくする。


あと一歩。あと一歩なのに!


『皆さんがどうしたんだ、と言ってます』

リリの声に反応してモニターに移る外の世界の協力者達の顔を見ると、そこには何が起きているんだという焦燥の色が浮んでいた。

「説明してる暇はないわ。全部のモニターの監視かめらを彼らに見せてあげて。もちろん警告の後にね」

彼女がそういうとリリは了承して外の世界の彼らに映像をそのまま見せた。

恐らくそこには琉雨が見ていない詩架が一人で戦っている映像もあるのだろう。

感嘆の溜め息の後に、死体をくぐつとして操る影の映像が映し出される。

うっ・・・という全員の同じ反応の後に、精神の弱い人間はその場で嘔吐した。

「ダメだ間に合わない・・・っ!」

影がここへ迫るまで残り5m

最後の隔壁とも呼べないこの部屋の扉は、あっさりと破られた。

「ここへきて・・・っ!」

シャン、とその場においてあった長剣を引き抜く。

「リリ、あなたに操作権限を委譲したわ。あとは、お願い」

『了解』


リリの返答を聞いて、由佳は安心したように剣を構える。

「私だってねぇ、あんた達が襲ってきたあのときに生き残ってるのよ」


「なめないでもらいたいわ!時間稼ぎぐらいやって見せるわよ!」


次々と襲い掛かる死体をあっさりと切り捨てる。

既に琉雨の精神は限界へ来ていたが、そんなものを考えているほど余裕がないのは幸か不幸か、次々と襲い掛かる死体をいなしながらも本体へ攻撃を加えるが、流石に粗が出てくる。

スと体に引かれる赤い線から体に熱い熱線が放たれる。

「グッ・・・」

そこで詩架ならば・・・いや、戦闘慣れした人間ならそのまま突き進んでいただろう。

そこが戦闘なれしているか、実戦慣れしているかそうでないかの違いだろう。

残念ながらこのときの由佳はしていなかった。

痛みに思わず動きが止まった次の瞬間。

スパン、という軽い音だった。

だからこそ自分の体が切られたのだと思い至るのに時間が掛かった。

自覚ができたのは、痛みが走ったからだ。

「ああああぁぁぁああああああぁあああぁぁああああああ!!!!!」

熱い。

既に痛いというレベルを超えている。

剣を握っている腕が、ごっそりと消えている。

その次の瞬間、影の後ろから何者かが部屋へと飛び込んできた。

それが影だったならば、恐らくその場で全滅だっただろう。

しかしそこに現れたのは。


「裂けろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

雄たけびを上げて影を真っ二つに切り裂こうと切りかかるのは魅麗だった。


ズパッという綺麗な音をたてて、影は真っ二つに引き裂かれた。

幸いその影は操っていた死体ごと粒子となって消えていった。


そこからの展開は速かった。

『琉雨さん!作業終わりました!あなたの声紋ロックが掛かっています!標的をさだめて発射を!』

「画像展開!すぐにだ!」

琉雨のその声に、リリは大きなモニターに発射口付近の映像を展開させる。

するとそこには。

「ッ!」

息を呑む光景があった。

[おっせーんだよ・・・・お前・・・]

そこには何故か一人で、影に串刺しにされている詩架の姿があった。

「あんた・・・っ!」

[早く撃て!霧ヶ峰と九帖は死んだ。他のやつらは俺の後ろの安全なところに居るから・・・速く!]

詩架の言葉に一瞬そのまま押しかけるが、ふと脳裏を疑問がよぎる。

「これ押したら・・・あんたも粒子になっちゃう・・・」

[馬鹿野郎!どうせ死ぬんだ。粒子になるかならないかなんて大差ねぇだろ!速く押せ!]

詩架の言葉に、何かに背中を押されるようにして、琉雨は発射スイッチを押す。

「詩架・・・ごめん・・・っ!」


『粒子拡散砲・・・発射!』


リリの声が高らかに響く。

そして発射された粒子拡散砲は影を吹き飛ばしながら直進した。


消えいく意識のなか、詩架は粒子拡散砲の行方を見守っていた。

「ハッ、なんだよ結局死ぬのか。まぁいいさ。いい死に方だ。別にわるかねぇ」

しかし、粒子拡散砲は元凶たる筑波山を消し去る直前で、何ものかの障害によって阻まれ、消えていった。

「あん・・・?」

何があった、と疑問を脳裏に提示するよりまえに、詩架の魂は昇華していった。


「ま、いいさ・・・何があっても、あいつらなら・・・・何とかなる」


笠は・・・


希望の笠は、欠損が出来てしまったが、無事花を・・・蕾を守りきった。


それは後に称えられるだろう。


絶対の賞賛をもってして。

過去篇。これにて終了です。

主人公死んでしまいましたね。

現在では主人公生きてるのに。

さぁここら辺の謎をどうといていくのか。

多少強引ではありますが、楽しみにしておいてください。

ではひとまずは、過去篇、閉幕でございます

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