過去篇 第二十二節:覚悟
ピー・・・・
手元のトランシーバーから耳障りな音が響く。
[お前の予想通りだ、援軍―――――――来るぞ]
「分かった」
詩架はそれだけ言うとトランシーバーを切り、隣にいる悠介に渡す。
「茶番は終わりだ。始めるぞ」
詩架のその言葉に悠介は頭の中がハテナマークで埋まってしまうが、琉雨には意図が伝わっていたようで、琉雨はポケットから拳程の大きさの無機質な球状のものを取りだして詩架に渡す。
「これが後で打ち上げる物の小型版の空気圧縮式爆弾。爆弾の使い方は・・・分かる?」
「いや、爆弾はいらねぇよ。俺は慣れた剣で戦う方が好きでね、そういうモンは由佳にでもくれてやれよ」
詩架は茶化すようにそう言って、大山と小山の隣へ降り立つ。
「どーだ?成果はあったか?・・・その顔じゃあ無かったみたいだな?」
ふざけて詩架がそういうが、言い返すほどの気力も全て影の鎌に刈り取られたかのようにその場に座り込んでいる。
「んだよ張り合いねーなぁ」
そう言うと、詩架は頭を掻きながら影に向き直って言う。
「悪いがそっちの世界の平和な会話はここで終わりだ。この先は言葉じゃあなくて暴力の世界だ。お前の住む世界じゃねぇんだよ」
ス、と腰に下げた剣を抜くと、影に向かって突きつける。
「お前の援軍と準備しておいた俺達。どっちが強いかな?」
見得きりのように詩架はそういうが、一向に反応の無い影に溜め息を吐いて続ける。
「しゃあねぇ。しまらねぇ話ではあるけどよ、このまま戦闘開始だ。始めるぞ」
「ちょいと派手なレクイエムだ」
****
「まーたお前等がイイ勝負をつぶすのかぁ?」
小柄な男の視線を追っていくと、そこには真っ黒なフォルムの影がいた。
「フン、今度は逃げる訳にはいかんのでな。お前は逃げろ、俺はここで戦う」
大男が小柄な男にそう告げる。
一瞬止めに入ろうと思った小柄な男だったが、大男の顔を見て再び悟る。もとより・・・そういう事か。
小柄の男がそう悟ると何も言わずにその場から立ち去っていく。
「どういうつもり?」
大男の意図がわからず、たまらず質問をする。
「一回俺は勝負を潰されていて損しているからな。今回はそうしたくないというだけの話だ」
「意味が分からないわ」
本当に意味が分からないように首をかしげた次の瞬間に、視界の中の建物の壁が吹き飛んだ。
「やっこさんがおいでだ。歓迎するぜ」
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[準備が出来るのは二分後だ、それまで耐えられるか?]
トランシーバーから聞える男の声に悠介は頷いて返事をする。
「分かった」
そう言ってトランシーバーを切ると声を張り上げて詩架へ言う。
「二分だ!」
「わかってるっ」
悠介の声に投げやりに答えながらも影の攻撃をいなす。
後二分、それはこの先の命運を分ける事となる出来事が起こるまでの残り時間となった。
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「流石化物・・・この俺が一対一で押されるとはな・・・」
大男が感心するように呟く。
「負けそうね」
梨魅が冷たくそういうと、大男は苦々しげに頷く。
「残念だがこいつの力は予想以上だ」
「手を貸すわ。どうせあんたが死んだら私も殺されるもの。それなら手を組みましょう」
梨魅はそう言って大男の横に並び立つ。
その様子をみて大男は戦闘慣れしてないやつは引っ込んでいろ、と言い掛けたが、彼女のその表情は鬼気迫るものがあった。
こんな表情の人間は、止められない事をこの男は身を持って知っている。
「無理はするなよ」
せめてもの釘刺し、といったような感じでそう言うが、梨魅はその言葉を簡単に跳ね除けた。
「馬鹿ね、こんな化物を相手取ろうってところが既に無理してるのよ」
「それもそうか・・・」
大男はフッと息を吐くとひざについていた手をもたげて上半身を起こすと、それを待っていたかのように影が襲う。
会話していて油断してか、一瞬反応が遅れてしまった大男をかばって先ほど大男から渡された刀を縦に構えて影の刃を跳ね除ける。
「油断しない事なんて常識でしょうが!」
戦闘の素人とも言える少女に叱咤されることを情けなく思いながらも両の拳に自分の使う槌を構える。
その次の瞬間。
視界が黒く染まった。
「なん―――――」
何が起こった、そう考える直前に気付く。
影が、変化した!?
自体を把握した瞬間に後ろに視線を投げれば、流石に動きの速い影もまだ囲いきれていない。
「ここで動きののろい俺が逃げられるかどうかという可能性は恐らく15%あるか否かというレベルだろうな・・・」
ならば。
「未来に託すまでだ・・・っ!」
奥歯を噛み締めて大男は叫び、茫然としている梨魅の首根っこをグッ掴み、そして後ろに放り投げる。
「いきろよっ!」
大男がそう言って飲み込まれた次の瞬間。
ドン、という鈍い音と共に世界が潰れた。
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パキン、という乾いた音が空に響く。
(来た・・・っ!)
駐屯地にいたほとんどの人間は全てそう思っただろう。
「くるぞ!踏ん張れ!」
[3,2,1,・・・・イグニッション!]
駐屯地に設置された数十個のスピーカーからそんな男の声が響いた次の瞬間。
ズン、という重苦しい音が響き、視界にあった全てのものが圧縮された。
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「くぁ・・・っ」
体の骨という骨が全て軋んでいる。
「あいつ・・・やりすぎだ・・・っ!」
視界の隅で圧力に耐えられずに地面に倒れている琉雨を捕らえて毒づく。
しかし心の隅ではここまでやった事に理解も示せる。
未知の敵たる影。奴らにはどれだけやっても足りない気がする。
不安から来るその思考回路だろう。
(んなこた今はどうでもいい)
そう。
今は目の前にいるにくい敵を殺す。
ただそれだけの時間だ。
ありがたい事にこの空裂と名づけられた爆弾は功を奏している。
「動けないだろ?お前は俺達をなめすぎたんだ。消えろよ」
地面にはいつくばっている影へスタスタと歩み寄って人間でいう頭部へ剣を突き立てる。
「消え失せろっ」
心の底から漏れたその言葉を放った次の瞬間に、地面に倒れる影は取り付いていた人間もろとも消えていった。
「消えた・・・?」
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「なに・・・がっ・・・」
突然降り注いだ圧力の壁になす術も無くひざを付く。
目の前では同じく圧力の壁に潰された影がはいつくばっている。
人間分の厚みがないところを見ると・・・恐らくもう手遅れだろう。
敵だった人間が何故か味方になった。
それだけで怒りを覚える理由には十分だった。
「ふざけてくれるわね・・・」
今まで自分の周りで起きている事はどこか自分の事じゃない他人事のような気がしていたが、何故かこの時ばかりは感情が逆立つ。
許さない。
「貴方は15%の自分の助かる確率を捨てて私を助けた」
だったら私は。
「私は、あなたからもらった15%の生命線を手繰り寄せて、そして増やして。あなたのように周りに配って生きてやる」
でもその前に。
「お前を、倒す・・・っ」
目の前に這い蹲る憎い敵に剣を突き立てんとして圧力の壁に負けないように腕に力を込めて上半身を起こす。
「こんな雑魚相手に、死ねないのよ・・・っ」
チカチカと、左手の薬指が光るのを視界に捕らえるが、何か貧血のようなものだろうと思ってそのまま流して力を振り絞る。
ダン!
という地面を踏みしめる音が響いたそこには、力強く立った梨魅が圧力の壁を利用して左手に握った剣を思い切り影に突き立てる光景が広がっていた。
「左手の光が反射して綺麗な色に輝いているじゃあない。あんたにはちょっと綺麗過ぎる墓標かもね。でも私のこの剣はあんたのもんじゃないの。この剣は名も知らないあの大きな男の人のものよ」
梨魅はそう言って、影が消えていくのを確認すると脱力するように倒れていった。




