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過去篇 第二十一節:原石

「琉雨のダチだぁ?」

涼しい研究室でボーッとしていた詩架は、辟易したような表情の腕につけたプロテクターが目新しい悠介にそんな事を言われる。

琉雨の友達だというので琉雨に用事があるんだろうが、今の琉雨は両手がふさがっているし、AIのリリと話すために両耳にイヤホンが付いている。とてもじゃないが邪魔できる雰囲気じゃあない。

「あとで来て貰えばいいんじゃねぇか?」

詩架がそういうと、悠介は疲れた顔のまま黙って首を振って言った。

「実は、もう来てるんだ」

悠介のその声と同時に、悠介の後ろにあるドアが勢い良く開く。

「失礼するっ!」

「失礼だと分かってんなら入ってくんじゃねェよ」

詩架が呆れたように慇懃無礼と言うにふさわしい長身と短身の闖入者二人に告げるが、いかにもガリ勉人間といった彼らは詩架たちを見下したように一瞥するだけでそのまま琉雨へと詰め寄った。

「なンだあいつら。死にに来たのか?今琉雨に手を出すと―――」

詩架がその言葉を言い終えるよりまえに、琉雨の肩に荒々しく手をかけた長身の男は琉雨の持っていた小さな圧縮爆弾によって吹き飛ばされた。

いきなり手をかけてきたので何事かと思っての咄嗟の反応なのだろうが、ちょいと荒いんじゃね?などと詩架は言いながら椅子から立ち上がってイヤホンを外しながら何事かとこちらを見る琉雨へ説明をする。

「お前のお友達のご来訪だ。手厚くおもてなしとやらをしてやれよ」

ハァ、と溜め息をついて吹き飛ばされて腰を抜かしている長身男へと視線を向ける。

(馬鹿か・・・こいつ)

そんな事を思っていたが、顔を真っ赤にした短身男が琉雨に詰め寄る。

「お前何しやがる!」

「いや、何しやがるもなにも、人が仕事してるところにずかずか入り込んでいきなり当人の肩を掴むほうが失礼だと思うのだけれど」

そんな琉雨の当然の攻撃に、ひるむともなしに短身の男は続ける。

「だいたい、兵器の研究なんていう野蛮な仕事、してるんじゃねぇよ!」

その短身の男に続いて、やっとこさたちあがった長身の男も便乗して口撃をする。

「そうだ!いまどき武力での問題解決なぞナンセンスだぞ!君はもっと頭を使う上流階級の人間だったはずだ!」

おっとぉ。

前の琉雨ならいざ知らず。

今の琉雨にその台詞は命とりじゃあねぇか?

「おいおい、お坊ちゃんよ、そこまでにしとけよ」

この二人の命がいつなくなるかもしれないので多少慌てて止めに入ると、男二人に荒々しく肩を押される。

「どけ三流役者!この場から消えろ!」

「そうだぞとっとときえろ頭がスポンジで出来た馬鹿野郎が!」

ふむ。

「なぁ、こいつら殺していいのかな」

「いんやー・・・俺も正直やってやりたいところだけどよ、まーずいんじゃね?」

詩架がかなり真剣に命の灯火を消すか否かで迷っているところに、琉雨の鋭い声が飛ぶ。

「キャンキャンキャンキャンうるさいわねぇ。発情期のうさぎでももっと静かよ?あんた達は何を訴えに来たのか、まずいいなさいよ」

差別云々ということは”今は”おいといてあげるわ

と言って、琉雨は男二人を落ち着かせる。

「案外冷静だな、琉雨の奴」

「僕達の知ってる琉雨ならあの二人の首はもう無いけどね」

「聞えてるわよ!そこ黙りなさい!」

「「イエスマム」」

茶化すような二人のしぐさに溜め息を吐いて、琉雨は改めて二人に問う。

「んで、あなた達は一体何を私に言いに来たの?たしか・・・大山おおやまくんと、小山こやまクン、だよね?」

その安直なネーミングセンスに誰にとも知れずに詩架達は吹き出しそうになるが、先ほど黙れといわれた手前堂々と笑えない。

「ゴホン。そうだな。俺達が言いたいのは二つ」

小山と呼ばれた男が二つ指を立てると、大山と呼ばれた男が説明を始める。

上手いコンビネーションだ

「一つは、なぜ君がこんな三流な馬鹿共と付き合っているか、だ。急に付き合いが悪くなったかと思えばこんな奴らと。どうせ死んでいった連中もゴミみたいな連中なんだろう?なんで切らないで守ってるんだ?」

(ちょっと、俺の腰の剣があいつの首を切れと叫んでるんだが)

(奇遇だね、僕の背中の剣もそう言ってるよ)

「あんた達、動かないでね?」

いい加減堪忍袋の緒が切れそうになっているのは琉雨も同じだろうに、一貫して彼女は冷静だ。

「そして二つ目は、なぜ武力の開発なんていうものをしているか、だ。君は僕達の言う平和調停理論に賛成していたのではないかね?」

(オイオイ勘弁してくれよ・・・あれか?話し合いで平和に解決しましょってか?)

(じゃーねぇの?そんなことよりいい加減鈴とリリの悪口を言ったあいつらをぼこぼこにだね)

「分かってるわよね?」

ひそひそと穏やかではない二人をいさめながら、我ながらなんでこんな馬鹿と付き合っていたんだと呆れて溜め息が出る。

(これは・・・まぁ始めのころに詩架たちが私を嫌っていた理由もわかるってものね・・・)

ひたすら見下して現実を見ずに理想像ばかりを掲げて他人に押し付ける。

これは、言ってみれば思考停止と同じ事だ。この日本教育の原点であり最大の問題点。知識があっても知恵がない。ただの、動く人形。

「つまり武器なんか持たずに話し合いで解決したい。そういうことね?」

琉雨が呆れた顔でそういうと、男二人は顔を輝かせて頷く。

「あなた達は確か・・・日本一偏差値の高い高校のトップ二人、だったわね」

琉雨は確かめるように言う。

「君が僕達と付き合っていた頃は、君が一番だったけれどね」

皮肉を込めて、卑しい顔で大山がそう告げる。

「はいはいわかったわかったわ。じゃあいいわ。武器を持たずに話し合いに行きましょうか。私はその意見に今は賛成してないので、二人だけで行って頂戴ね」

琉雨はそれだけ言うと、研究室の奥に引っ込んでいって右手のプロテクターを装着して、白い長方形のバックパックを三つ持ってきた。

「じゃ、行きましょうか」

琉雨のその言葉に、その場にいた詩架と悠介は思わず口から間の抜けた言葉が出てしまう。

「は?」


****


「あー・・・つまり、影相手に直談判、と」

霧ヶ峰に大山が計画を誇らしげに語る。

それを聞いて霧ヶ峰は隠しきれない引きつりを表情に浮き出してしまう。

普通なら琉雨たちのところで却下されるであろう馬鹿らしいその意見も通っているばかりか、大山の後ろに準備は万端だといった様子で立っている。

「武器を持たずに」

その一言は更に霧ヶ峰の困惑を深めた。

あの影相手に、武器を持たずに。しかも話しに行く?

「馬鹿かい君は」

思わず口から漏れ出したその言葉を耳ざとく拾い上げた大山は顔を真っ赤にして反論するが、その全てがただの絵空事だ。

絵空事・・・言い換えよう。理想・夢というのはは現実を吟味してからはじき出したものでないと意味が無い。

そうでなければただの絵空事。物語。虚構の未来にしかすぎない。

そんな事も理解できないのが、この日本を将来背負っていく学生なのか。

頭を抱えたくなる気分をどうにか押し殺して学生の意味のない口撃を一応耳にいれる。

「ああ、もういいもういい。別に俺達は保護されたくないといっている奴を保護するような団体でもない。いきたきゃあ行けばいい。だけどな、貴重な戦力である琉雨と詩架をつれてかれちゃあ困るんだよ。いくなら二人だけで、歩いていって来い」

霧ヶ峰がそういったとたんに、けたたましく警報が鳴り響く。

その瞬間に辟易したような顔の霧ヶ峰と、学生の後ろにいた三人の顔が険しくなる。

「何体だ?」

霧ヶ峰が無線でこれまた琉雨が作った司令室にいる礫その他ハウンドの隊員に聞くと、司令室からは一体と返答が帰ってくる。

「分かった。回りに他の影はいないんだな?」

[ああ、いないぜ。一体限りの特攻みたいだ]

礫の返答に頷くと、霧ヶ峰は無線のチャンネルを施設全体に切り替え、大きめの声で張り叫ぶ。

「総員戦闘配備!南東入り口付近にいる影を全員で叩け!・・・いや、訂正だ、監視していてくれ」

霧ヶ峰はそういうと、学生二人と詩架と琉雨と悠介に言った。

「さっさと行けよ。念願の敵とのご対面の機会だ」


****


「ほら、いけよ」

詩架が冷たくそういうと、大通りに面した小さな路地から放り出されるようにして大通りに出る。

日陰から出ていきなり当たる日の光に目をしかめて横を見れば、そんな日の光を全て吸収してるような、陰影がなく、かろうじて人型だと分かるものが視界に入り込む。

理解の仕様の無いその造形にひるみかけるが、そんなことでやめられるようなやわらかい頭を持っているわけでもなく、必死に語りかける。

「やめてくれ!聞いたところによると君も人間なんだろう!?」

大山が必死に語りかけるが、それにかかわらずに影は大山に詰め寄る。


「・・・いいのか?あのままじゃころされっちまうぞ?」

構成員のほとんどが若者のハウンドには珍しい中年男性が詩架にそう言う。

「いいんじゃあないですか?わざわざ死にに行きたいと言う連中を守る必要はありませんよ」

初めて詩架と対面した彼はそこはかとなく恐ろしさをかんじた。幾度となく駐屯地を守るために自分だけのこって戦うなんていうことをやってのけるような人間だから、どんな熱血人間なのかと勘ぐっていたが、そんなことはなかった。

「ま、琉雨はあいつらを死なせるつもりはないようですし、なにかあるんじゃあないですかね」

俺はあいつらを助けるなんざまっぴらごめんだがね、と言ってそのまま様子を見守るのを続行している。

(こいつは・・・仲間思いではあるんだな)

しかし他人に対しては冷たい。つまりそういうことなのだろうか。

良くわからない。


****


「全く僕達がこんな下っ端みたいな三流仕事をする羽目になるとはね。しかも完全に悪役だよ」

「つべこべ言わずにさっさと手を動かせ。悪役になるのは何も今始まったわけじゃあないだろ」

ガサゴソと駐屯地のとあるテントでの会話。

何を隠そう・・・いや、恥ずべき事なのだが今二人は盗みを働いていた。

しかも人間関係を崩しそうなものを狙って。

「まったくこんな依頼してくる奴も奴だよねぇ・・・・いくら生活が掛かってるといっても、こんな仕事は気分が萎える」

穿孔の突屋と二つ名を受けた男が眉をひそめてしゃがみこみながらそう愚痴をたれるのを見て、見張り役だった剛力の単騎とよばれた大男も捜索に掛かる。

「それらしいのはあるか?」

「いーや。ないよ」

「今更この仕事関係云々で矜持を持とうって言うのは無理な話だろ・・・う」

大男が愚痴に便乗してそういうのと同時に、二人の背後でガタリと、何かが落ちる物音がする。

その音を聴いた瞬間に二人の男は背後にある何かとも知れないものを破壊もしくは拿捕するために振り向きざまに襲い掛かる。

「ヒッ」

二人の男に捕まった影は思ったよりも小柄だった。

「あん?」

体の急所という急所に刃を突きつけられてるその女性は、何が起こったのかと慌てて周辺の様子を見に来た梨魅だった。

「なンだよ可愛らしいおじょーちゃんじゃあないか」

小柄な方の男がスッと両手に持った剣を引き下げると、そいつの処遇はお前に任せるよ、といって再びにもつ漁りにもどる。

「・・・まぁいい。騒ぎ立てなければ殺しはしない・・・と行きたいところだがお前の口がいつ開くかなんてのは分からないからな」

大男がそういうと、小柄の方の男は顔をしかめてこちらを見てくるが、何も言わずに作業にもどる。

「わ・・・私を殺すの?」

「ああ」

梨魅の問いに間髪おかずに答える彼の様からは、とても慈悲などあるようには思えない。

「ってことはここにいたことが分かると不都合ってことよね」

「・・・?・・・あぁ」

ということは、今私を迷いも無く殺せるようなこの男のことだ。

何をするか、なんてことは想像に難くない。

「なら、死ねないわ」

梨魅のその言葉に大男だけではなく、作業をしていた男も反応する。

「私だけが死ぬなら問題は全く無いわ。むしろ頼みたいぐらいよ。けれどもここには死んで欲しくない人がいるの」

「それは、詩架とやらか?」

「詩架?誰よそれ。私はそんな奴知らないわ。私が誰を守ろうと関係ないでしょう?貴方は私を殺したい。でも私は殺されたくない。この二つがあれば十分でしょ?何がどうなろうと知ったこっちゃ無いでしょう?」

力んでるな。

大男は梨魅の様子を見て思う。

空元気とでも言おうか、こういうスタンスには慣れてないのだろうか、今の彼女は無理やり口から言葉をひねり出しているように見える。

だからこその支離滅裂な言葉。

「気に入った。いいだろう。一方的に殺すのはやめてやろう」

大男はそういうと腰から小振りな刀を引き抜いて梨魅に渡す。

「一対一だ、俺を殺せば仕事契約は消えるからお前のその大事な人間、守れるぞ?」

突然の大男の奇行とも呼べるその行動に、にもつを漁っていた男は眉をひそめて何事かと大男に問いただす。

「なぁに、お前と同じさ。仕事より面白いもンを見つけちまったんだ。いい原石だ。磨きてぇだろ?」

その言葉を聞いた小柄な男は、彼が何をしようとしてるのかを悟る。

大男の意図を悟った上で大男に言う。

「好きにしろ。長い付き合いだ。お前が何考えてるのかなんて聞くまでもねぇしな」


「悪いな」

小柄な男の言葉を聞いて少し笑った大男の言ったその言葉はどんな意味を持っていたのか、今となっては分かるわけも無い。

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