過去篇 幕間Ⅱ:始まる反撃
「ってぇ」
地面にドサリと倒れて空を見上げながら大きく息を吐く。
すると全身に出来た傷に鋭い焼ける様な痛みが走る。
(あぁ、いてぇな)
久しぶりにこんな怪我をした。
久しぶりに命のやり取りをした。
(久しぶりだらけ、だな)
それでも、初めてではない。
礫は心の中でそう言うと、むくりと上半身を起こして目の前に立つ一人の女性を見据えて言う。
「アンタたち、一体俺達に危害を加える理由はなんなんだ?」
その礫の問いに、サドっ気のある女が答える。
「俺達に危害を加える理由・・・それはアンタたちの世界を手に入れるためよ」
「俺達の世界。か」
「そう、アンタたちの世界」
「何故俺達の世界を、とか聞いて答えてくれるか?」
「そんなに大事な事でもないし、死に際の冥土の土産として教えてあげるわ」
「あぁ、是非頼む」
「私達は、詩架と名乗る少年の出現で、ヒナ様の言う異世界の存在が明確になった事が分かったわ。そしてさらに詩架という少年の良い育ち方もね」
「良い育ち方?」
「ええ。年相応に大きくて、肉付きも良いって事よ。それは即ち向こうの世界の人間”全員”が飢えているわけではないと、そういうことでしょう?」
「じゃああんたらは俺達の世界の資源を狙っているってことか?」
「ええ、そういう事よ」
(んま、そんなこったろうな)
礫は心の中で溜め息を吐くと、心の中で推論を立てていく。
(詩架は、本気を出さなかったんだろう。この世界での、戦いで。そうでなければこの程度の実力の持ち主達が俺達の世界を奪おうだなんて思わないだろうな)
偉そうにそういう自分もあの戦闘を独り生き残った詩架の本気を見たことはないし、さらに目の前の人間にやられている奴が言えたことではないが。
心の中で自分の考えている事に笑っていると、目の前にまで迫る女性は不思議そうな顔で聞いた。
「何が可笑しいのかしら?今あなたは死にかけているのよ?」
「可笑しい、あぁ確かに可笑しいのだろうなぁ。お前等ってよ、多分だけど、お前等が知ってる詩架の実力を向こうの世界の実力の平均だとか、思ってないか?」
「そりゃ、知っている事例が少ないんだもの。それを基準にするしかないでしょう?」
「そうか、そうかそうかそうか」
礫は笑いながらそういうと、嘲笑するように続ける。
「お前の知っている俺の世界は、狭いぜ?」
****
「あらあらあら、もゥ終わりなのかしら?」
ケラケラと、そう笑いながら悠介の傍らに座り込む女性を、悠介は苦々しい思いで見据える。
今、手を伸ばせば。この剣を突きつければ。当たるのに
その数cmの距離すらつめられないほどに悠介の体は疲弊しきっていた。
「あいにく、僕はインドア派でね・・・」
「インドア派なのにこんなところまででばっちゃって・・・馬鹿ネ?」
女性の言葉に、悠介は心の中で嘲る。
あぁ。
馬鹿も馬鹿。大馬鹿者さ。
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「ったぁ・・・」
ドサ、と壁に叩きつけられて地面に梨魅と魅麗が同時に倒れこむ。
相手の完全なまでのコンビネーションに歯が立たず、一方的な暴力を振るわれるばかりだ。
「あなたたち」「のような」「個々の動きでは」「「私達は倒せません」」
「二人で一人・・・そう言いたいのね?」
梨魅がそう口にすると、目の前の容姿が全く同じ二人は答える。
「そういう」「ことです」
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「きみのその薙刀捌き・・・珍しい使い方をするね?」
ハッハッと肩で荒い息を繰り返す氷見とは違って、シルクハットをかぶったいかにもなジェントルマンな格好をした彼は言う。
「その使い方は・・・薙刀というよりも、槍の使い方ではないのかね?」
「よく・・・分かりますね」
「私はこう見えても武術のマニアと自負していてね。いろいろな武術を調べて回っているのだよ」
そんな世間話をしながらも、シルクハットの男性は着実に距離をつめてきている。
氷見が二歩あとずされば、シルクハットの男性は三歩詰め寄る。
再び氷見とシルクハットが刃を交えるのはすぐの事だろう。
その場合に氷見が耐えられるかどうか、というのは定かではない。
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「さすがは・・・この世界での屈指の尖鋭兵士の一人・・・ってところかしらね」
ゲホッと口から血を吐き出すと、目の前に立つギムニをキッとにらみつける。
「そろそろ。私の経験だとそろそろのはずよ。せめてそれまで、優位を愉しむことね?」
負け惜しみ。
ギムニは一瞬そう思ったが、その一言では片付けられない何かを琉雨から感じた。
これは何だ・・・?
ふと見せる彼女の、歴戦の兵士のような表情、雰囲気にたびたびギムニは総毛立つ。
はやく。
相手が待っている何かが来る前に、終わらせてしまわなければならない。
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「よし。でははじめようかの」
ハイナのその言葉に、全員の表情が引き締まる。
今からはじめるのは大きく四つ。
詩架たちの下の世界への帰路の確保の継続と、詩架の治療。そしてかつての仲間達への呼びかけ。
加えて、恐らくここへもやってくるであろう刺客への、対処。
「かなりきつい戦いになることは確実じゃ。なにせこの世界で一番強いとされている人間を引きずり降ろすんじゃからのう。しかし、これは確実に成功させねばならん。理由は・・・いわなくても分かるな?」
ハイナの言葉に、全員が黙って頷く。
「スタート、じゃ」
ハイナがそういった次の瞬間、ヘルゲートと名づけられたソレは、異世界との道をつなぎとめたままに、世界への交信の網を広げた。
「皆の者、久しぶりじゃのう?」




