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過去篇 第十五節:背負った絶望の重さは

詩架が回想の世界を彷徨っている最中、笠花の家族達は、全員。



――――倒れていた。

彼等に残された時は、僅かである。


*****


ビリッと喜樹の来ている軍服のすそを引き裂いて患部を縛り上げて止血する。

「これで、なんとか持つんじゃねーか・・・」

ふぅ、と小さく溜め息をつくと喜樹の隣にドサリを座り込む。

「ありがとう」

そんな小さな感謝の言葉に頷くと、今更ながらに頬の下を影に切られていたことに気付く。

「ってぇ」

ピリ、と走る痛みに顔をしかめるとその様子を見ていた喜樹が口を開いた。

「君は」

「ん?」

「君は一体、どういう人間なの?」

突然投げかけられたその問いに首を傾げるばかりの詩架に、喜樹はさらに言葉を重ねた。

「最初は自分勝手な快楽主義者、なんていう認識があったけど、自分が足止めをして仲間を守ったり、完全に足手まといになった私をまだ見捨てない。君は一体どんな人間なの?」

「――――俺は」

そこまで言いかけて、一瞬だが、言葉に詰まる。

俺は一体どんな人間なんだ?

その問いは自分で言っていたにもかかわらず答えは出ていない問いだった。

が、そんなもの簡単な質問だ。

「俺は、その通りの快楽主義者、なんだろうな」

詩架がそういうと、喜樹は不思議そうに声を重ねる。

「とても、そうには思えないわよ?貴方はとっても仲間思いじゃない?」

「違うさ。仲間想いなんじゃあない。ただ単に俺がそいつを失ったら嫌だから、面倒だから助ける。ただそれだけさ」

詩架が言うその言葉に、それは所謂いわゆる仲間思いというやつなんじゃあないのか。と言いかけるが、恐らく詩架個人の考えとしては違うのだろう。

輝いてるなぁ

「そう、なのね。そんな考えは持った事、無かったよ」

「どういうことだ?」

「私と未樹はね、実は血が繋がっているわけではないの。ただ単にどちらも独りで、だけれどもそれが寂しくて。それで二人一緒にすごしていただけの、ただの赤の他人なのよ。私と未樹は良く言っていたものよ。『何故、こんなにも神様は私達につらくあたるのだろうか』ってね。当時は親と一緒に歩く子供や、人身売買だなんだと私達を追いかけてくる大人達。しまいには犬にさえ嫉妬心を燃やしたわ。人として、動物として幸せに生きているんだもの」

「あんたは、違うのか?」

「今は幸せよ。けれども当時は、世界の全てを憎んででしか自分を確立できなかったわ。君のように、人のため、とか自分のせいではない、とか言い訳せずに自分で背負って生きていくような、そんな生き方は出来なかったわ」

喜樹の言葉に、詩架が何も言えないでいると、ふとどこからか道に迷ったのか、はたまた家族を亡くしたのかは分からないが、二人の同い年ぐらいの年齢の女性が様子を伺うようにしてこちらを見ていた。

「あら、いらっしゃいな」

喜樹が笑顔でその二人に声をかけると、二人はひょっこりと姿を現した。

生き写しというほどにそっくりなその二人は、梨魅と魅麗と名乗った。

しかしその顔には、およそ生気というものがまるで抜けてしまっていた。

周りの全ての事に絶望した、顔なのだろう。

感情が無いなんていう陳腐な物言いじゃあ表せないだろう。

彼女達は死んでしまったのかもしれない。

詩架がそう心の中で軽く見捨ててしまったところで、喜樹は涙を流して二人に話しかけた。

「ねぇ、あなたたち好きな人はいないの?趣味は?ねぇ・・・答えてよ・・・答えてよ・・・」

涙ながらに語る彼女の姿から滲み出るその雰囲気は、とても自分では受け止められないものだった。

それだからこそ。

フォローも出来ない。

彼女は恐らく、他人の幸せを守る事で自己を確立するという行為をしてきたのだろう。

霧ヶ峰に助けられた為に、他人を憎む事を自分の生きる力としていた彼女は、他人の喜ぶ顔を見るという行為を生きる力と転換することができた。

しかしそれは、とても危うい生き方だ。

何故ならそれは。

希望を振りまいて、絶望を背負うといった事に他ならないからだ。

しかし希望を振りまけば、少しではあるが自分にも希望が帰ってくる。彼女はそれを何倍にも大きくして絶望を覆い隠していたのでは、なかろうか。

それも。

今となっては。

意味が無い。

今まで守ってきた人の日常というものは完膚無きまでに叩き潰され、蹂躙された。

「私・・・もうだめよ・・・こんな・・・」

小さくもらす彼女から、段々と黒い何かが、あふれてくる。

「せっかく希望を、未来を振りまいてぎりぎりのところで生きられたのに。抱えすぎた絶望を隠せたのに、また・・・神様は・・・私を・・・」


ドッ


そうして、喜樹と、喜んで、樹のように大きく伸び伸びと生きて欲しいと願われて命名された彼女は、絶望の闇に沈んだ。

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