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過去篇 第十三節:渡されるタスキ

「おい、離脱するぞ」

いよいよ本気の戦い。という時に剛力の単騎と呼ばれた大男は目の前の優男に言う。

「なんでだい?今からが良い所じゃあないか」

「俺もそいつと戦ってみたいことは認めるがな、ちっとばかし面倒なもんがコッチに向かってやがる」

大男はクイ、と親指でこの倉庫へ伸びる大きめの道路を指すのでその方向に視線を投げると、そこには何十体もの影が並んでこちらに歩いている異様な光景が目に映る。

「へぇ、確かに面倒だね」

優男はそれだけいうと、さも目の前にいる詩架などもともと敵と認識していなかったかのように、あぁいやだやだ、と言って構えをといてさっさと立ち去ろうとして言った。

「ま、生きていたらまた手合わせ願おうか」

優男はそれだけ言うと、バイバイ、と右手をひらひらと振りながら大男を連れて倉庫を飛び出していった。

戦うことが目的ではなかった詩架は同じく逃げ出そうとするが、一歩踏み出したところで気付く。

(こいつらが向かってるこの方向って確か・・・)

明らかに駐屯地の方向である。

「っだぁ!めんどくせぇなぁ何で俺ばっかいつもこんな役柄なんだよ!」

珍しく大きめの声で毒づくと、地面に転がる人間からできる限りの装備を集めて向かい来る影と対峙するために倉庫を出て影達の前に立つ。

「出来れば援軍が欲しいところだ、けどまぁ今戻ったらそのまま混戦になりそうだし仕方ねぇか」

ペッと口の中の唾液を道路に吐き出すと、相対するために剣を構え、さぁ戦いだ、と意気込んでいるところにふと声が掛かった。

「おい餓鬼、お前さっきの戦いで疲れてるだろ?いいからひっこめって」

その渋みの効いた声に振り返ると、ハウンド部隊と名乗った男達二人女一人、そして九帖が銃や刀を構えてこちらへ歩いてきていた。

「なんだあんたら見てたのかよ」

だったらさっきの戦いも手伝ってくれてよかったんじゃねぇか?

と口にするが、それを喜樹は鼻で笑って一蹴する。

「いやだね、第一あそこで手出したら私達はとんだ野暮ったい人間になっちまうじゃない」

そんなことを言って笑いながら詩架の隣に並ぶ。

「どーせ引く気は無いんだろ?手、貸すぜ」

未樹と名乗った男も詩架のとなりに並びながらそう言う。

霧ヶ峰も同じようにして詩架の隣に並んで一緒に戦おうとするが、それを喜樹が止める。

「隊長は今すぐにもどって駐屯地の人たちを避難させてください。九帖さんも」

喜樹が言うその言葉に反抗をする大男二人。しかし喜樹と未樹は言う。

「私たち下っ端兵よりも、隊長である貴方のほうが部隊を動かすのは効率が良いはずです。ここは私たちに任せてください」

「俺に餓鬼に戦わせて尻尾巻いて逃げろってぇのか?」

「戦略的撤退は隊長の得意分野でしょう?」

霧ヶ峰の反論に、未樹は笑って言う。

「大丈夫ですよ、見捨ててくださいって意味じゃあありませんから。ただ、駐屯地の人たちを避難させて援軍をつれてもどってきてくださいってだけですよ」

未樹のその言葉に、ぐっと詰まる。がここは引いていいところではないと霧ヶ峰は留るが、実際部隊を動かすのは霧ヶ峰が一番効率がいいだろう。それは全員が知っている周知の事実だ。

「しかたねぇな。俺が残ってやっからよ、心置きなくもどれって」

ペッと煙草を吐き出して九帖は言った。

「お前より強い俺が残るんだ。別に不満はねーだろ?それに俺がもどったってにもつの運搬程度にしか役にたたねーしな。適材適所さ。おれは戦いに向いている」

新しく煙草を胸ポケットから出して火をつけて大きく吸うと詩架達より二歩ていど先に踏み出て腰に下げた帯剣を引き抜いた。

「弾薬もねぇ、銃の整備も出来るような予備もねぇ、とくりゃ」


「刀の九帖の出番です、ってな」


****


「あれが・・・影・・・」

初めてまじまじと見る。

最初に出会ったときは暗闇で何がなんだか分からない。

二回目は詩架が戦っていた時だったが、車の中でこれまたなにがなんだか分からなかった。

三回目。

はっきりと見る影は到底理解できるものではなかった。

詩架の話では人間に取り付いているとのことだが本当なのだろうか。

固体によって動きが違う影は、カクカク動いてるのも居れば滑らかに動いているのも居る。

しかしいずれも共通しているのはたった一つ。

底知れない悪意を感じると言う点だけだ。

親の機嫌取りをしていたことが、悪意と言われる感情を汲み取るのに特化した理由でもあるのだが、つまりはその能力のおかげで分かることがある。

連中は悪意の塊だ。

そう心の中で認識した瞬間に背筋に冷たいものが走る。

あんなものと・・・詩架は戦っていたのか・・・

否応無しに認識する。

住んでいる世界が、違う。

心の中でこんな人間相手に恋をしていたのか、と馬鹿馬鹿しくなってしまうほどに。

「馬鹿野郎はやく目を覚ませ!」

ハッ、と耳元で叫ぶ礫の言葉に我に帰る。

「ご、ごめん」

慌ててそういうと、礫に導かれるままに立ち上がる。

そしてそのまま逃げるための一歩を踏み出そうとして、グッと立ち止まる。

また?

心の中で一言響く。

また、逃げるの?あの夜のように?

逃げる?

心の中で自分のやっている行動に疑問符が浮び、その事について更に考えようとしたときに、その行動を読んだかのように詩架の声がかかった。

「おい、妙な事考えるな。あん時は俺も妙な事を言っていたし、それは謝る。なに、別に死にに行くわけじゃあねぇ。」


「呼べばいつでも飛んで、目の前に現れてやるよ」

いつ琉雨達に気づいたのか。

そんな事を気にする間もないままに、詩架の言葉に心を打たれた。

「さっさと帰れ。んでもって逃げろ。逃げろ。逃げ続けるんだ。」

淡々と言う詩架の言葉に背中を押されて、その場から立ち去る。

仲間にその場を任せて逃げる。

逃げると言う、この選択もとても勇気がいることなのだと初めて知った。

逃げる、と言う意味では確かに尻尾を巻いて逃げる事と同義ではあるだろうが、何かが確かに何かが違うのだ。

「ちゃんと、迎えに来るから」

ぽつりと言った琉雨のことばに、詩架は苦笑して振り向かずに答える。

「逃げろっていったのに迎えに来るのか?・・・まぁいいさ。待ってるよ。期待せずにな」

詩架はそれだけ言って琉雨が走り去っていくのを背後に感じると、剣を再び構えなおして礫にぽつりと、一言伝えた。

「頼んだ、ぞ」

その詩架の言葉の真意を測りかねたままに、影の攻撃によってその会話は中断される。

「え――――?」

不可解な詩架の言葉に思わず口をついて出た疑問の言葉は、詩架に届いたのだろうか。

長らくお待たせしてすいませんでした。

色々と忙しくて少しずつしか書けなかった、なんていうのもただの言い訳ですね。

これからは物語でいえば折り返し地点と言えるところでしょう。

過去篇に限定して、ではありますが。

これからは話の展開も早くなっていきます。

それを不自然に思われないような文章力が自分にあるといいのですが・・・



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