第一幕 第四節:未知のモノ
笠花孤児院と名づけられたその施設は、かの災厄を生き残った少年少女達を社会復帰。つまり平和な世界へと慣れさせるための施設だったのだ。
そしてこの少年少女達への敬意。それに加え以前の名前を忘れてしまうという不可思議な事がありこの少年少女達には新たな名前があたえられた。
最初は災厄の生き残りと分からないように別々に苗字を付けたかったのだがそれを少年少女達は頑なに拒み、そして言った。
”俺たちは家族だ。そして笠花にも誇りを持っている。だから俺たちの苗字は笠花にしてくれ”と。
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角度右上45度。
速度はおよそ時速60。
自身の体勢も考えれば一番の回避行動は。
受け止める。
カン!という乾いた音が鳴り響くと、そこにはしっかりと受け止められた木刀があった。
三年の月日のせいで腕がなまっている可能性が否めなかったが。
これだけできれば上出来だ。
そう心の中で呟いて一瞬安堵に浸り自身のテンションを戦闘へと持っていく。
キュ、という靴のゴムが滑る音を響かせながら一気に懐へと踏み込む。
狙うは右のアバラの下だ。
不意打ちで脳天に攻撃を喰らわせるということは既に殺し合いと言っても良い筈。
突然動きの良くなった詩架の動きに驚いたギムニは咄嗟の回避行動がワンテンポ遅れる。
ヒュッという空気を割く音を伴い突き出された手刀の突きは本来内臓を防御する為のアバラをすり抜ける。
本気で殺すわけではないので当たった瞬間に勢いは緩めるが、それでも本来守られている内臓へのダメージというのはいつもの痛みのソレとは全くの別物だ。
その一撃が決まった瞬間に詩架は二・三歩後ずさりをする。
視線を腹部から見上げてギムニの顔へと写せば彼は苦悶の表情を浮かべていた。
痛い。というよりも気持ち悪いという部類のあの痛みは初めて喰らった時に耐えられるような物ではない。
堪え切れなかった吐瀉物を地面に散らしながらゆっくりと地面へと倒れていく。
その光景をみた火大陸の男は目を見開いて言った。
「お前・・・そいつは曲がりなりにも四大陸大会の優勝者だぞ・・・?それを一瞬で・・・」
その言葉に答えるのも多少面倒だが一応答えてやる。
「ま、こっちも多少不意打ちなところがあったからな。どちらも本気でやれば分からないさ。」
口ではそうはいっているものの、このギムニが何か特殊な力を要していなければ絶対に勝てると踏んでいた。
恐らく単純な肉弾戦では一枚も二枚もこちらが上のはずだ。
これは自惚れではなく、幾百。幾千と繰り返された戦闘で成長した分析能力を使っての結果だった。
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「俺は火大陸のフィルアシニ。珍しく短名でな。呼び方は適当にしてくれ。いやそれにしてもさっきは見直したぜ。純粋培養のお坊ちゃまかと思いきやあんなに強いとはな。」
「右に同じく。まさかあそこまでお強いとは思いませんでした。私は水大陸のウォタリアです。よろしくおねがいします。」
同時に自己紹介をする二人に頭部の応急処置を自分でやりながら流れ作業ではあるがあいさつを返す。
裂傷もたいしたこと無い。おそらく今夜には塞がりかけているであろうレベルの傷だ。
自身の傷にそう当たりをつけ、一応医務室に行くから案内してもらうという名目で風大陸の少年を引きずって訓練場を後にする。
「で、口止めのために説明を受けるのと、口止めのために痛い目に合うの、どっちがいいかな?」
人影のないところにつくと、早速そう切り出す。
「いっいいいいいいたいことは出来れば・・・嫌・・・です。」
ブンブンと両手を振りながら暴力に対する拒否反応を起こす。
「んじゃ、説明しようか?それとも何も聞かずに黙ってるか?」
説明を受けてなお黙っていられるかは不安だし、もしこの目が評議会に不利に動くようなものならばこいつ自身が反逆罪として捕えられかねない。
保身を取るか好奇心を取るか。
まぁ気弱なコイツが取るのは一つだろうな。
「何も・・・聞かずにいます。」
少年がそう答えると、心の中で小さく安堵のため息をつきながら呟いた。
予想通りだ。
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それから、別に俺は危害を加える気がないと言う事を示しながらも一応聞けるだけの情報は聞き出した。
どうやら少年・・・いやコトリと言うらしいが、彼の所属する遊牧部族は評議会の手によって理不尽に潰されてしまったのだとか。
いいや正確には潰された・・・のだろうということだ。
なぜ疑問系なのかと聞いてみれば、何故か三年前以降の記憶が全ての大陸にすむ住人の記憶から消え去っているのだとか。
三年前。
その単語は自分の記憶にも目新しい。
俺達が茨城から生還してしばらくはその三年前に始まった災厄。という大きな見出しや番組タイトルはあらゆる情報メディアを占めていた。
余りにも大きな記憶なために否応なく関連性を考えてしまう。
別の世界だというのに。
そんなくだらない思考を振り払い、コトリに評議会の失態と言うものを聞いてみると、何故かスラスラと口から評議会の悪評が流れ出した。
彼曰く、評議会は物資占有やら独裁的な政治やらがあったらしい。
彼自身も良くは知らないと言うが恐らくあんまり悪く言ってはいけないのだろう。
独裁的な政治の名残とでも言うのだろうか。
そこでふと思いつきコトリに聞いてみる。
「しっかしあの地大陸以外の連中はそこまで悪さするような連中には見えんがね。」
俺がそういうと、コトリはばつの悪そうに顔をしかめて周りを見渡してから声を潜めていった。
「事実、悪政を働いていたのはあの地大陸のだけが評議会の座に居た時だけなんです。」
彼はそれだけ言うと、もうこれ以上喋りません。という無言の訴えを全身で発して押し黙った。
なるほど。
それだけ聞ければ大体分かる。
つまり代々確執のあるのは火と水だとあの爺さんは言っていたのだが最近まで内戦・・・まぁ血が流れるような物理的なものかそれとも政治的なものかは分からないがそれ(内戦)があったのだろう。
そして代々評議会の座に君臨していた地の大陸のギィニを引きずり降ろすとまでは行かないが悪政を留められるように他の大陸の人間も評議会に居つくことが出来るようになった。
まぁ大方こんなところだろう。
そして三年前以降の記憶がないという言葉から察するにそのシステムが成り立ったのは三年前から去年あたりまでの間だろう。
しかしなんだ。
余りにも都合が良すぎないか?
全人類の記憶喪失と時を同じくしての地の大陸の衰退。というか他の大陸の追随を許していなかったが許してしまったという方が正しいか。
記憶がなくなったために今までやっていた効率的な政治ができなくなったから?
しかしそれは・・・おかしくないか?
それに賢さでいえば風大陸のヒナのほうが断然上に見える。
さらに言えばそんなに悪政を働いていたのならほかの大陸が武力介入でもしているはず・・・
それらが行われていなかったということは、記憶がないと言う事ではなく事実が無かった・・・?
いやいやいやいやいやまさか。
突拍子が無さ過ぎる。
そこまで思い至りふとコトリに尋ねる。
「お前その見た目だったら三歳児以上だろ?流石に。そしたら三年前の記憶が始まった日ってのはどう過ごしたんだ?違和感とか無かったのか?」
俺がそう聞くと、コトリは一瞬きょとんとしてから顎に手を当ててしばらく唸ってから答えた。
「んーそう聞かれればそうですね。三年前はなんというか、気付いたら日中の活気のある市の真っ只中にいて、それでいて買い物の仕方とか貨幣の数え方とかも全部知っていたのでまったく違和感無く過ごしてましたね・・・」
「名前とかは?」
「ええ、自分の名前も動物の名前も名詞も覚えていましたよ。」
ふむ・・・・
ここで結論を出すのは余りにも早計・・・か・・・
しかしこれは常に気に留めておく必要がありそうだ。
そう思いもう聞くことは無いといってコトリと訓練場へ戻ると、そこには評議会の使いと名乗る聖職者の着る様な制服に身を包んだ青年が立っていた。
「事態が変わりました。後二時間以内に評議会会議場へと出頭してください。以上です。」
彼はそれだけ言うと、一瞬右腕を挙げる動作をした次の瞬間にはその場から姿を消した。
んなっ・・・
魔法という非現実的な現象を目の当たりにして一瞬呆けてしまったがしかしそれで現状が変るわけでもない。
魔法という存在が明らかになった今。
俺は途端に非力な存在へとなったわけだ。
くっそ・・・三年前にも経験してなれたとは思っていないが、それでも耐性は着いていると思ったのだが。
得体の知れないモノへの恐怖は・・・何回味わっても身を竦ませる。
来ました超展開パートツー!
でも昨今という表現を多用していた理由がこれだったりもあるんです。
それとこの場をかりて謝辞(?)を
感想ありがとうございました!とても励みに成ります!
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