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過去篇 第十節:親族のしがらみ

カツ・・・カツ・・・

静まり返った暗闇の中に、自分の踵がコンクリートに当たったために生じる音だけが響く。

(いやに全員寝つきが良いな・・・・)

そんなことを考えながら、二日前の影との戦闘を思い起こす。

あの埋めた影はあのあとどういった行動を取ったのか。それを知るためにもう一爆発を起こしたところへ戻りたかったのだが、実際そうして再び影と対峙することになってしまっては良くないということで断念。

その戦闘の次の日・・・つまり昨日、有志による避難民捜索隊が組まれたがその成果は0。近場の人間は既にここに来ていると言えば希望はあるのだが。

そんなことを考えながら歩いていると、ふと聞き覚えのある声が金切り声を上げているのが耳に入る。

「ふざけないで!」

(あん?)

突然のその声の発生源へと顔を向けると、そこはなじみのグループの女子勢が泊まっている家具が入るほどに大きいテントだった。

(んだよおとなしく寝ることもできねぇのか?)

心の中で自分の世界を壊されたことに対して悪態を吐きながらパサリと戸を開く。

「痴話喧嘩かァ?うるせぇなぁ」

眉をひそめてそういいながら中に入ると、そこでは琉雨が携帯越しに誰かと喧嘩をしている。

琉雨の言葉だけを聞けば、そんな都合のいい事ばかり言って、だの、私はもう貴方の操り人形でいるのは疲れたの、だの。

「なんなんだ?」

眉をひそめたそのままに、由佳とリリに聞く。

「あぁ、なんか琉雨ちゃんのお母さんが電話してきて、いきなり私のところへ帰ってきなさい、って言ってきたんだって」

「ほぉ」

詩架が由佳の説明に相槌を打つと、琉雨が詩架を認識した。そして認識したと同時に怒り心頭といったように携帯をテントの壁にたたきつけると詩架に詰め寄った。

「なんでああも理不尽なの!?」

全く事情も何も分かっていないのにこんなアバウトな質問をするとは。

「理不尽・・・事情も何もしらねぇからあくまで一般論で俺は答えるしかないがね。子供はやっぱり親の元に居たほうがいいんじゃねぇのか?その二人の場所はどこであろうと別にどうだっていいとは思うけどな」

詩架がそういうと、琉雨の中に貯まっていた怒りは悲しみへとその形を変えて琉雨の感情を押しつぶした。

ぶわっとあふれる涙をそのままに、口の中で小さく叫び声を上げながら琉雨はテントを駆け出していった。

それを慌てるようにして追いかけるリリを横目にドサッと椅子に腰掛けると、先ほど琉雨の投げつけた携帯からハスキーな癪に障る声が響く。

「ふふふ、貴方のような常識ある方がそこにいらっしゃってくれてありがたいわ。これであの子を連れ戻すのにも協力してくれる・・・少なくとも阻害するものは減ったのですもの、では、ごきげんよう」

恐らく琉雨の母親である彼女は一方的にそれだけ言ってぷつりと通話を途絶えさせた。

「ったくなんなんだあの親娘は。揃いも揃ってよくわからねぇこと口走りやがって」

はぁ、と大きく溜め息を吐くと、由佳が重い調子で答える。

「琉雨ちゃんはね、今までずっと何から何まで親に管理されていたの。それは遊ぶ時間も、余裕を持つ時間も無いかなり限定された生活だったみたいでね。それで親のわがままで仲の良かった友達の多い学校を転校させられてここにあるギスギスしたエリート進学校に押し込められたんだって」

突然琉雨の境遇を語り始めた由佳の話を話半分、と言ったように詩架は聞く。

「それ自体は別にどうだっていいんだけどね。どうも鈴ちゃんと知り合ったおかげで遊びと言う・・・ゆとりのある生活ということの幸せさを知ってしまったの。それで彼女は今までの境遇に一瞬失望したらしいのだけどもう過ぎたこと、と言って諦めていたらしいの。でも、こんどはそのここでの・・・・何と言ったらいいのかしら・・・まぁ仲の良い友達、そして片恋の彼がいるところからも今度は引き剥がされそうになっているの。そこの心境は、察してあげて欲しいの」

そんなすがるような由佳の言葉に、詩架は突き放すように答える。

「知るかよ。一旦諦めたんなら、そのまま諦めてその道を進むと決めたなら、それがあいつの答えだったんだろう。ならそんなもん俺が察して言葉を選んでやる必要はねーだろ。あいつの出した答えは・・・少なくともあいつが今まで正答として使っていた答えは、親に従ってエリート進学校に通う。それだったはずだ。俺はまだ、あいつが違う答えを出してるとは思えねーよ。理不尽だとなげくだけであいつは結局、何もしないだろうな。この日本の学校教育は、そういう”やり方”だからな。極端に言えば立場の上の人間の言うことは何でも聞く奴隷を育成する場所だ。協調性なんていう綺麗な言葉で着飾ってはいるが結局それは正義と掲げられた暴力と同じさ。言葉面が綺麗なだけで、やっていることはおかしいのさ。それにどっぷりつかったあいつが。そう簡単に抜け出せるとは思えんね」

詩架は一気にそれだけ言うと、ま、と一つ区切りをつけて続ける。

「とは言うものの俺がさっき琉雨に言った言葉は”一般論”さ」

詩架はそういうと、スクッと椅子から立ち上がってテントを出る。

さして何があったわけでもないと言った風に。

「ちょっと・・・」

思わず引き止めてしまったことを後悔しながら、由佳はなんとかひねり出した質問を詩架に投げつけた。

「”一般論”がそうなら、詩架の意見はどうなの?」

その由佳の質問に笑って答える。

「俺の意見もなにも、あいつの答えを聞いてからじゃねぇとなんとも言えねぇな」


****


「今の学校教育が奴隷育成所・・・ね。言い得て妙だな」

パフ、と口に含んだタバコを吐き出して九帖は言う。

「ま、実際その気はいつまでたっても抜けねぇよな。何かを言われないと仕事をしない連中のなんと多いことか」

これまたハウンド隊長である霧ヶ峰が答えると、九帖は苦笑して言う。

「まぁ教師側も教師側に何を言われても文句を言わないように、とか他の人のためだけに生きろ、なんてくだらねぇこと言ってやがるしな」

「エゴイズムなんてくだらないものもたずに云々だろ?」

「あぁ、笑えるな」

「ほんとだよな、エゴイズムすら持てねぇクズみてぇな機械人間に何が出来るってんだ」

歴戦の男達はそう言って、口に挟んでいたタバコを近くのゴミ箱に捨てると、久しぶりに飲みに行くか、等といいながら暗闇の中へ消えていった。


****


そして翌日、毎朝朝食は一緒にとろうと決められていたその席に、リリと琉雨は顔を出さなかった。

どことなく気まずい沈黙が流れるのを見かねて、礫が叫び声を上げる。

「なんで俺のしらねぇところでことが進んでんだよぉ!」

ガッデム!と言わんばかりの激しいジェスチャーを伴って叫ばれたその言葉に由佳が困ったように反応する。

「琉雨がちょっと・・ね。親と喧嘩したのよ」

由佳のその言葉に、一瞬で納得がいったのか、礫がおとなしく席に着く。

「んま、大方私の所へ戻ってらっしゃいだとかそんなもんだろ?確かにこの状況で娘を・・・・・・って待てよ?あいつの親って確か今山形にいるんだよな?」

礫はそう言ってどーいうこった?と少しの間首をひねった末に、ひとつの答えを出した。

「そぉか!自分の雇った尖鋭護衛たちの中に居ろとかそういうことだろ!」

「ずいぶんと金持ってるんだな」

詩架は礫のことばにそう言って反応すると礫は頷いた。

「あいつんち、結構な金持ちなんだぜ。俺の見立てでは総資産20億はあるね」

フフン、と言ったように自慢げに話す礫にすかさずありえないから。と由佳が突っ込みを入れる。

そんな日常的な会話を横目に、一人詩架は物思いにふける。

(家族の側で過ごすのが一番大切。これが一般論。けれども一般論に全ての人間を当てはめるのが絶対せいかいというわけでもない・・・なんて今更考えるようなことでもねぇか)

詩架はそういうと、ガタ、と椅子から立ち上がって食器を片付けると、礫と由佳に部屋に戻るとだけ告げて立ち去った。

残された礫と由佳は二人で頭にはてなマークを浮かべて首をかしげる。

「なんだあいつ?」


****


ガッ・・・と少しノイズが走ったかと思えば、次いで出てくる携帯から発せられた音・・・いや、音声はこう告げた。

[そんなに嫌なら、実力行使もいとわないわ。貴女のわがままのせいでお友達が傷つくのをおとなしく見ているつもりなのかしら?]

その嘲りの色を含んだ声に、琉雨は失望するしかなかった。

この状況ですらこの言いようの母親に、そしてそもそもこの状況自体に。

ブツリと一方的に通話を切られると、琉雨は再び携帯を壁に投げつけた。

「言うことを聞くしか・・・・ないじゃない・・・っ!」

どうしようもない。

またこの言葉に流されて生きていくのか。

そんな言葉が脳裏をよぎるが、それを琉雨は見てみぬ振りをする。

だって仕方ないじゃないか。

私は言う事を聞くようにと、育てられたのだから。

もう、抗うのは無駄だろう。

だから・・・・

だから・・・・

「嫌だ・・・なぁ・・・」

少し反発のありそうな言葉をわざわざ使ったのには理由があるんです。

最近言うことを聞くだけの人間を作ろうという気が顕著に出てきてるなぁと色んな立場から見てみて気付いたのでこんな表現を使いました。

お気に障りましたら謝ります。が。表現はこのままで行こうと思います

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