表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/68

過去篇 八節:幸せと平和

「くっ・・・」

ペッと口に含んだ血を吐き出すと再び影に向かって視線を向ける。

二回致命傷寸前までの傷を受けての戦いは想像以上に体力を必要とするものとなった。

「流石に動くだけできついなこりゃ・・・」

だらだらと滝のように流れ出る汗を拭うと、ちらりと視線だけで礫の走っていった基地の方向へ目を向ける。

(援軍連れて来る機転は・・・気かなそうだ・・・なぁ・・)

あまり期待できないその展開に小さめにため息をついてキッと視線を尖らせて再び影を見る。

影はゆらゆらと体を揺らせているだけで一向にこちらに向かって飛び掛る気配はない。

(様子を伺っているのか・・・それとも・・・)

体力を回復しているのか。

後者だったらうれしいようで嬉しくないのだが。

手には武器はなく、あるのは拳だけだ。

礫を基地に向かわせてから20分程戦っているが、あちらは傷を一瞬で回復するのに対しこちらは新しい傷を沢山こさえて新しく満身創痍。

(なんだこのハイリスクローリターンやってられねーな)

ふぅ、と今度は隠す気もなく大きくため息をつくと、グッと脚に力を入れる。

「そろそろ死んでくれねぇかなぁ!」

ドッと寄生された媒体の人間の急所である顎に向かって回し蹴りを当てる。

しかし影の鎧を纏った人間はそう簡単に首が折れるわけでもなく、平然と立っているだけだった。

「クソッ」

影の右手の動きを視界の隅で捉えて咄嗟に後ろに飛びずさると、そこに黒い刃が空をきる。

「っぶね・・・」

とまりかけていた汗が、今の攻防で再び噴き出す。

二回目に戦ったときはまだ攻撃を防げる物があったからいいものの、今回はそうはいかない。正直あと一撃でも喰らえば体力は限界だろう。

フッともう一度影に飛びかかろうとした時、パン!、と乾いた音と共に影の頭が弾けとんだ。

「ッ!」

眼前に広がるその映像が何を表しているのかを理解した瞬間に詩架は影の頭の吹き飛び方から弾道予測をして射手のいるであろう建物に視線を投げる。

―――いた

キラリと太陽の光を受けて鈍く光るスコープに顔を近づけながらこちらに向かって親指を立ててくるその姿は琉雨たちを車に乗せていたあの男性だった。

「野郎銃撃てたのか・・・っ」

詩架がそう口にすると同時に、いつの間にか背後に立っていた礫が肩で息をしながら無線機を差し出した。

良く見れば肩に大き目の銃を持っている。

「これ・・・・・お前に・・・って・・あの人が・・・」

ゼェゼェと息を荒げながら礫が指差した方向には先程詩架が見つけた男性がいた。

詩架がそれを視認したことを確認すると、礫は何かの合図を片手で男性に送った。

すると右手の無線機からザザッというノイズの後に男性の低い声が響く。

[よーく生き残ったなぁ。褒めてやる。お前はとにかく礫の後ろで休んでろ、礫に銃の使い方はあらかた教えたからある程度は使えるはずだ。]

男性のその言葉を受けて礫に視線を投げると、そこには礫の自慢げな顔があった。

「そぉかい。じゃあ頼んだぜ」

詩架はそういうと無線機を礫に渡してドサッと腰を下ろした。

座ってみて初めて分かるのはやはり自分がいかに限界に近づいていたかと言うことだ。

(クソッたれな弱さだな・・・)

自分の力のなさに吐き気を覚えながらもそう思う。

ペッと血を吐き出して詩架は再び立ち上がり、礫の持つ無線機を奪い取るようにして手にすると、既に鼻辺りまで回復した影を見ながら男性に言った。

「あーこいつを殺すことは出来ない。これ以上学習能力のある奴らに銃の存在を教えるわけにはいかない。とにかく今は退避だ。今の奴は実態があるから・・・埋めちまおう。爆薬、あるか?」

詩架のその問いに、礫は腰につけているサブバックから手のひらほどの大きさの袋に収まった火薬を取り出した。

「剥き身かよ・・・」

詩架は呆れながらそう言って爆薬の心得のありそうな男性に指示を飛ばす。

「近くのビルに爆薬仕掛けて埋める。奴は今実体があるからある程度は時間を稼げるははずだ」

詩架はそう言うとぽいと礫に無線機を渡す。

「大丈夫なのか?」

それは色々な意味を含んだ大丈夫か、という問い。それに含まれる全ての意味を理解し、詩架は頷いた。

「大丈夫さ。案外なんとかなるもンだ」

詩架はそう言って地面を蹴り上げて影の隣を走りぬける。

その詩架の背中に向かって影が剣を突き出すが、それを屋根からスナイパーライフルで狙っていた男性が銃弾で弾いて防ぐ。

それにあわせたように礫の両手に収まった銃の銃口からパパパ、と小さめの音を伴いながら銃弾が発射される。

「グルァッ」

短い悲鳴とも取れるその声を放つ影に更に容赦なく銃弾を叩き込む。

「とまっっれえええええええええ!」


****


「詩架はどこにいるか知ってますか?」

ふと背中に小さく女の声がぶつかり、何事かと思い振り返ると、そこには、笠花リリと言ったか、そんな少女がぽつんと立っていた。

「あぁ――――」

今かげと戦っていていないんだ、そういいかけた口を慌てて紡ぐ。

この少女が彼にどういった感情を向けているのかは知らないが、しかし仲間が未知の敵と戦っていると知って安静にできる訳はない。

「今奴は散歩するといって出て行っているところさ。そろそろ俺らの決心もついたんで会いたいんだがね、どうもまだ帰ってこないんだ」

平然と嘘をつく自分に吐き気を覚えながら、リリという少女に言い訳じみた言葉をかける。

おそらく彼女の表情から見てこれが嘘だと、見抜いているだろう。

そんなことを考えているうちに、リリはペコリと頭を下げて去っていってしまう。

「優しい嘘、ですね」

事の顛末を見ていたかのようなその言葉をかけるのは、この態では一番付き合いの長いバディとも言える男。桐ヶきりがや 条里じょうりという男だ。

「嘘に優しいも何もあるか。嘘は嘘だ」

桐ヶ谷言葉に吐き捨てるように言葉を返すと、桐ヶ谷は苦笑して言った。

「まぁ、隊長のそういうところ、嫌いじゃありませんけどね」

「いつも言っているだろう。俺はもう隊長じゃあない」

隊長と呼ばれた男、霧ヶきりがみね 京谷きょうやはすこし顔をしかめて答える。

「でも、俺達ハウンドの隊長は、いつまでも貴方だけですよ、隊長」

ハウンド。

第二次世界大戦後から自衛隊の陸海空のいずれにも属さないフリーランサーとして作られた部隊は、既に紛争を五つほど収めるなど、かなりの戦績を残している。

しかし昨今その存在が明るみに出る事件が起こり、弾圧を受けたハウンド部隊は解散か島送りのどちらかを選ぶという選択に迫られ、最後の思い出として筑波山でのんびりやろうかと言うところでのこの事態となる。

「昔のことさ。ハウンドはもう無いんだ」

「まぁ、そうですけどね」

二人の男が交わすその言葉は何か意味合いを含んだ言葉だったのかもしれない。


****


ッドンッ

爆薬が空気を震わせる。

一瞬の無音状態の後に訪れる建物の崩壊は、ものの見事に影と、そして礫に襲い掛かった。

「くぉっ・・・っ」

自分に襲い掛かるガレキの山を見て尻尾を巻いて逃げる礫の後ろに、未だに何が起こっているのかわかっていない影が何もせずに立っている。

「いけ・・・っ!」

逃げながら思わずこぼしたその言葉の通りに、次の瞬間には影を纏った人間は建物の下敷きとなった。

「お・・・おぉ・・・」

一安心して思うが、既にこれは映画の中である事の一つとしてよくあげられる事柄だろう。

建物の爆破。倒壊。

「まるでゲームの中の世界だな・・・」

深くため息をついてそういうと、いつの間にか背後に立っていた詩架が呆れたように答える。

「お前はどーいうゲームをやってたンだ?」

えっと・・・・なんだろうそういえば建物が壊れるゲームってそんななかった気が・・・

礫が心の中でそんなことを思っているのを見透かしたように詩架は言う。

「そういうことじゃねーよ」


****


「詩架が、いない?」

琉雨の鸚鵡返しなその答えにリリは頷く。

「ふぅむ・・・」

琉雨が顎を押さえて唸っている横で、由佳も困ったように仰向けに転がる。

「そーろそろ悠介君と仲良くなって欲しいんだけどねぇ」

そう言って由佳は昨日のやり取りを思い出す。

『おまえが代わりに死ねばよかったんだ!』

その言葉は、言われたわけでもない由佳のこころさえも抉った。

確かに鈴に死んで欲しくなったのは皆同じ。

しかしその責任を詩架に押し付けるのはあまりにも残酷だろう。

「そういえば私たち、良くこんなにも泣いたりしないわよね」

ふと頭に浮んだ疑問をそのまま口に出してしまったことを若干後悔しながら、琉雨とリリの反応をうかがう。

思ったとおり、というか予想通りに沈痛な面持ちでうつむいている。

「正直、ね。泣きたいけど泣けない。のが現状かな。色々ありすぎてもう何が何だか分からないわよ」

琉雨のその言葉にリリも頷く。

「確かに、何が何だか分からないわねぇ」

今は私たち三人しか、ここで動けるのはいない。

悠介も、氷見も塞ぎ込んでしまった。

それならば私たち三人が出来るのは―――

出来るのは・・・・

「あーだめだっ!考えるの面倒!もう良いよ考えるのは琉雨に任せるから」

そう言って勢い良く上半身を起こすとぎこちないながらにも笑顔を浮かべて二人に言った。

「氷見も悠介も、ふさぎこんでいるのが馬鹿らしいと思うぐらいの楽しい雰囲気作っちゃえばいいのよ」

その滅茶苦茶な言葉に氷見と琉雨もぎこちないながらに笑みを返す。

「そうね。私達に、出来ることをやりましょう」


****


「はん、必要なかったみたいだね?」

頭の後ろに手を回して、花を手にカチカチに緊張している同僚をからかう。

「うっうるさいわね!あの子達がしっかりし過ぎなのよ!」

その良く分からない反論にケラケラと口の中で笑いを転がして、再び眼前で小さく笑いあう少女達を見る。

彼女達はおとといまで普通の学生だった。夏休みを謳歌して宿題に苦しみ、そしてなんとか宿題をやりきるといった普通の学生。

自分達には無かったその生活。だからこそ、彼女達の平和は守ってやりたかった。

なのに。

「くそっ」

口にくわえたタバコをイラつきと共に吹き出すと、同僚が心中を察したのか声色を落として言った。

「私達には無かった平和というもの。私たちに無かったからこそ守りたかった。のにね。まったく世の中は世知辛いわね」

そう言って男性の隣に腰掛けると、でもね、といって笑って彼女は言った。

「でもねぇ、今ここから彼女達を見て、とても不幸の真っ只中にいるとは思えないわ。平和じゃない、というのと不幸、というのはイコールではないのよ、現に私達だって、とても平和な日常にはいなかったけど、隊長の所で笑ったり遊んだり、楽しかったでしょう?ね?未樹みき?」

彼女の言葉に、タバコの煙を吐き出しながら、確かに、と言って答える。

「確かに、少なくとも今笑い合ってるあいつらは楽しそうだな。全くお前にはかなわーねぇなぁ、樹喜ききさんよ」

そう言って呼び合う彼女と彼は、とても似通っていた。

「んじゃ、次は氷見ちゃんの所行っておせっかいする?」

樹喜の言葉に、未樹は苦笑して答える。

「あぁ、そうだな。俺らお得意のお節介だ。さっさと終わらせようぜ」

そう言って、ペッと未樹が吐き出したタバコは、ジュッと音を発して消えていった。

またまた新キャラです。しかも名前つきが四人も。

キャラ増やすのが癖とはいえ多くしすぎですかね・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ