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過去篇 第七節:第三R

あの詩架への説得の翌日。

一同は一つの部屋に集まって大きな地図を囲んで立っていた。

「今日ここに君たちを集めたのは他でもない。君たちが影と呼ぶモノの対策のためだ」

ずし、とテーブルに体重をかけて立つその重みのある雰囲気を持った男性は重く良く響くテノール声で言った。

その場に居る子供たちは未だに自分が何故ここにいるのかが分からないといった様子で立っている。

「まぁ緊張せずにいてくれ。と言っても無理だろうけどな。とりあえず連中の特徴を教えてくれ」

緊張のためか口を開こうともしない一同に代わって詩架が答える。

「連中は俺が最初に戦ったときは輪郭はあるが実体がないような感じではあった。防戦一方だったんで正確ではないかもしれないけどな。んでもってさっき戦ったときはいくら攻撃しても無限に再生する自動修復の機能付だ。打撃、殴打、斬撃どれもすぐに回復しちまう」

詩架がそういうと、さすがに信じられないといった表情で男性は黙り込む。

「本当に、事実なんだな?」

「ああ、事実だ」

詩架の即答に再び頭を抱えるようにして椅子に座り込む。

そうしてしばらく流れる沈黙を破ったのは、詩架の声だった。

「それと一つこれから戦うときには覚悟しておいた方が良い事がある」

詩架のその言葉に全員の視線が詩架を捕らえる。

「連中は恐らく生物に寄生する。虫は体積的にどうなのかは分からないがとにかく俺の知っている限りではキツネ。そして」


「人間」

詩架がその漢字二文字で構成される名詞を口にした瞬間に作戦室にざわめきが生じる。

「人間・・・という情報は確かなんだな?」

誰かが発したその問いに、顔を向けるともせずに地図に顔を落としながら詩架は答える。

「人型で大きさが丁度俺と同じ程度だったことと影に切り目を入れたときに衣服の一部が見えたことを加味すればかなりの確立でそうだと言える。だろうな」

詩架が特にこれといった感情を含ませずにそう言うと、再び作戦ルームに沈黙が下りる。

「加えて追撃するなら、衣服の下の皮膚は赤かったから多分人間は生きてるだろうな。宿主を殺すのは寄生した奴が十分育ってから・・・が定石だからな」

詩架はそういうとガタリと音を立てて席を立つ。

「どこに行く気だね?」

作戦室で一番上座に座る男性にそう問われ詩架は答える。

「見回りさ。避難民がいたら困るだろう」

とか言っておいてその実ただの暇つぶしの出回りなのだが。

「今この状況で現状打開策なんて練られないだろう。どうせ壁が消えるまで物理的な交渉は出来ないんだ。銃を使うにしろ消耗品は出来るだけ避けたい。あとで武器庫にある刃物系を見せてくれ」

詩架はそれだけ言うと、駐屯地の作戦基地テントの戸をぱさりと開いて外に出た。

「あっちぃ」

日本独特の湿気による暑さに生きる気力を4ほど削られてその感想を口にする。

「湿気ってのはなくならねぇものかね」

そんなことを言いながら暑苦しい軍人のいないところを目指して歩く。

しばらく歩くと駐屯地のテントがなくなり、そして未だに綺麗な状態の家々が連なる一角へ出る。

「おー・・・日陰涼しいな」

ビルの日陰に腰を下ろして目を閉じながら気持ちよさげに呟くと、すぐ隣にドサリとこれまた腰を下ろす音が聞こえる。

「礫か?」

「なンで分かるんだよお前目とじてんだろーが」

カチカチと携帯をいじる音を伴って礫の呆れた声が耳に染みる。

「俺についてくる仲間のなかで携帯好きなのオメーしかいねーよ」

詩架がそういうと、礫は苦笑して言い訳じみた説明を始める。

「いやな?この2chという大規模掲示板とかツイッターとかって情報共有としてはかなり便利なんだぜ?しかも影と戦った奴が俺の近くに居るとなればネタにもなるし保護してもらえるって事でも良いだろう?」

「前半はどーなんだとか思うけどな」

「まぁいいだ・・・・ん?」

礫の言葉を遮るように礫の携帯に着信メロディが流れる。

「あー・・・テレビ局の人間か。めんどくせぇな」

「テレビ局にまで手伸ばしてるとは思わなかったぜ・・・」

呆れてものも言えないといった雰囲気を滲ませて詩架がそういうのを礫は苦笑してあしらって電話に出る。

「え?もう茨城に居るんですか?・・・ええ。じゃあ・・・で。はい。わかりました」

パチリ、と電話切ると、礫は電話の内容を説明しだした。

「連中ここに来るってよ。取材したいと」

「あん?馬鹿だろお前。マスコミなんかにここ教えるんじゃねーよあいつら邪魔なだけだからよ・・・」

はぁ、と大きくため息をついてマスコミの邪魔さ加減を分かっていないとばかりに礫を批難する。

「でも情報共有としては便利じゃね?」

「お前の言ってたついったーやらで十分だろが・・・」

「まぁ・・・そうかもしれないけど、さ」

礫はそう言って再び携帯を開く。

「お。やばいなさっき立てたばっかなのにもう書き込みが300とか。それだけ話題集めてるんだろうなぁ」

などと暢気なことをいいながら掲示板の質問に着々と答えていく礫。

時折パシャパシャと建物を撮っていたりしているのは恐らく説明と本物だという証拠のためだろう。

「何だお前詳しいじゃねーか」

「勝手に心の中を読むんじゃねぇ」

などと下らない話を続けていると、ザッ・・・ザッ・・・とすなを踏みしめる嫌な音が響く。

「チッ・・・おい礫静かにしろ」

詩架はそう言うや否や礫の首根っこをひっつかんでビルの物陰に隠れる。

ここから駐屯地まではある程度の距離はあるがこのまま行けば呆気なくばれるだろう。

もともと時間の問題ではあるが今嫌な事実を突きつけたばかりだ。戦う決意は中々難しいだろう。

軍人のレベルがどこまで高いのかは俺のあずかり知れぬところではあるが。

「多分・・だが影の奴が近くに来てる。姿を確認して影だったら俺が戦うからお前は駐屯地に走れ。状況をしらせて武器を持たせろ」

詩架の声を潜めたその言葉に一瞬礫は悲鳴を上げそうになるのを必死に堪え、無言で頷く。

「イイ子だ。じゃあまず姿の確認だ・・・」

詩架はそういうと早速息を可能な限り潜める。

ザッ・・・ザッ・・・という足音は未だに止まずに、こちらに着実に近づいている。

物陰から奴が歩いているであろう道路までは約20m。これだけあればばれる心配はないだろう。

凸の字の出っ張りに居ると説明するのが早いか。

「チッ・・・おせぇな歩くの・・・」

近づいてくる早さがあまりにも遅いためにイライラしながらも、戦った三体の奴らも歩いているときはこの程度の早さだったと想像をしてさらに軽快する。

疑心暗鬼か。

そう思わないでもないがこの状況では慎重になりすぎということはない。

「・・・・きた」

静かにそういう礫の言葉に再び耳を済ませると、確かにそこの角まで足音が迫っている。

キ・・・シ・・

何かが軋んだ音がした。と思った次の瞬間には、影の人間の形にかたどられた目の落ち窪んだ異様な顔が二人の目の前に出現した。

「ヒッ・・・」

あまりの驚きに叫び声すら上げられずに小さく息を吸う礫をすかさず首根っこを捕まえて後ろに下げる。

「いいか、こいつが俺に夢中になってお前の姿を確認できなくなってから、駐屯地にいくんだ。今駐屯地の場所がばれたら不利だ。いいな」

その詩架の声に必死に頷く礫の首根っこを放し、いつでも影を通り抜けて報告にいけるように準備をさせる。

「こっちの武器は・・・」

物陰を見渡すが、さすが日本なのか。ごみ一つ・・・・武器一つ落ちていない。

「面倒な・・・」

詩架はそう言って鈍く光る右目を覆っていた軍製眼帯を脱ぎ捨てて戦闘に備える。

「厨二病対影ってか?わらえねぇ」

ハッと自嘲したようにそういうと拳を軽く握ってサッと構える。

「さぁ、どの影かしらねーが・・・3R開始だ」

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