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過去篇 第五部:別れと最悪のモノとの再会

「驚くだろうが事実。しっかり聞いて欲しいんだ」

そう切り出した詩架は身振り手振りを使って二人に説明をする。

「つまり、なんだ、超常現象・・・ってやつかい?」

男性が理解できたようで、代名詞ともいえるその言葉を放つので詩架は静かに頷いた。

「はい。そして住んでいたところに名残はあるでしょうけど、今すぐにここから離れてください。少なくとも茨城県外には出た方が良いと思う」

詩架はそういうとボロボロになった服を再び身にまとう。その様子をみて信じるか信じないか決めあぐねている男性は脳裏に推理を展開していた。

(詩架とか言うやつの全身に負った傷は端から中心にかけて深くなってもう一度浅くなって切り傷が終わっていた。つまりこれは人の手による・・・いいや動物の手による円の動きの攻撃だという可能性が高い。更におかしい点が二つ。ひとつは傷の途中で不自然に・・・いや、心臓めがけて傷が深くなっている部分。さらには熊であっても早々付けられる傷ではない肩の上部分の傷。借りにクマだとしても奴らの体の動き方からして肩を頭と平行に切る、つまり正面から見て縦に切るなんて事はないだろう。そもそも傷自体が一本で綺麗だった。さらに傷は一瞬で同時に付けられたかのような不自然な傷と傷の交わりをしている。ってことは。)

空も飛べる複数の刃物を一本ずつ持つ不可思議生命体。

「いいだろう。信じよう」

男性はそう言うと、ポケットから鍵を取り出してニカッと笑って言った。

「ほら、逃げるぞ、少年」


****


ゴトゴトと小刻みに揺れる車内でパチリと目を開けると、そこにはいかにもといった田舎の風景が流れていた。

「あぁ、起きたか?」

運転席に座る男性がそう言うので、声のする方向に目を向ければ、先ほどカレーを出してくれた親切な男性が少し険しい表情で運転している。

なんとなしに後部座席に視線を投げれば、そこにはリリや礫、由佳、魅麗と梨魅が寝ている。

「あ・・・そうか」

寝ぼけた頭が再起動してこの状況を整理し始める。

「詩架のいると思われる湖まであとどれくらいですか・・・?」

「あぁ、大きく見て5分程度だ。最短で着けばもうすぐだ」

その男性の声を最後に、しばらくの沈黙が降りる。

「・・・・あの」

琉雨がなんともなしに何かを言いかけたところで、暗いトンネルが急に終わりを告げてそこにはすこし大きめの湖が広がっていた。

「ここ・・・ですか?」

「ああ。ここは俺が良くつりに来るんでな。それにここに住んでる爺ちゃんに良くして貰って・・・お?どっか出かけるのかあのじいちゃん」

ブルル、とエンジンを止めて男性が顎で指す方向をみると、小さなログハウスのようなところから三人の影が車に乗り込んでいるところが目に映る。

その一人は。

「詩架!?」

「お?何だ知り合いか?ちくしょう今から行ってもまにあわねーか・・・?」

プァン!プァン!とクラクションを鳴らすが、老人の乗る大きな音のなるエンジンの音にかき消されてか、アクションが全く帰ってこない。

「しゃーねーなっ!つかまってろ坊ちゃん共!」

ギュッというゴムが軋む音と共に急激に体にGがかかる。

「くぉ・・・っ」

肺から押し出された空気によってそんな間抜けな声が出てしまうが仕方ないだろう。なぜなら速度メーターは既に300キロを切っていた。

「どういう改造してるんですかあああああああ!」

「いいじゃねーかそれが幸いしたんだ・・・っ!」


****


「港に行く?」

「おうよ今なんでも自衛隊やら軍やらが来てるとかで一時的に開港したところがあるんだ。そこに行くのさ」

鸚鵡返しに言い返した詩架の言葉に、男性は鷹揚に頷いて答える。

「まぁ・・・港から遠くに行くならそれが一番簡単だと思うけど・・・」

「それにここは港がちけーからな」

ケラケラと笑う男性を尻目に、さっきから何かをいいたげにもじもじしているアンジェリカを見る。

「どうしたんだ?」

「あっ・・・いや・・・その・・・携帯アドレス交換して・・・欲しいかな・・・とか思ったり・・・」

「あー・・・いくら防水とはいえ大丈夫だったらいいんだ・・・けど・・・」

どうせ事務的なやり取りしかこの先もされないだろう。なんてことを思いながらポケットの中から携帯を取り出すと、以外にも携帯は元気に起動した。電池は三つの顔を変えたアンパンマン並に元気だ。

「はいこれ」

サラサラと手っ取り早くメモを取った自分のアドレスを記した紙をアンジェリカに手渡すと、アンジェリカは焦ったようにそれを自分の携帯に入力する。

するとしばらくして、ピピッという音と共に携帯が小刻みに震える。

「ん?」

「上手く送れた・・・かな」

男性に対しては流暢な日本語も何故か詩架に対してはたどたどしい。

そんなことに疑問を感じながらも携帯を開くと、しっかりとアンジェリカからメールが届いている。

「あぁ、大丈夫だよ送れてる・・・っていうか何でそんなにたどたどしい日本語・・・?結構気になるんだけど・・・?」

その詩架の直球の質問にあたふたと慌てふためくが、男性がそれを更に悪化させる答えを平然と放った。

「同世代の仲間・・・さらに男と喋ることなんかめったに無いからあがっちまってるんだよ」

「あぁなる・・・ほど?」

・・・めったに無い?いいのかそれ?

そんな疑問を思っていると、ついに港に到着した。

「いやぁなんかとてつもない勢いで迫ってくる車があったからよぉ、撒くのが面倒でちと遅れちまった」

かっかっかと軽快に笑うその男性を傍目に、チケットの買い方をアンジェリカに教えてお金を手渡す。

「これはしばらくの身支度金です。これ自体は少ないですがこの中にカードが入ってるので、それで五年は過ごせるはずです」

詩架は突然そう言った。何の前触れもなく。

「いや、お前一緒に来るんじゃないのか?」

男性のその言葉に、詩架はゆっくり首を振った。

「言いませんでしたけど、俺、筑波山にいる友達の屍、拾ってやらないといけないんです。そのためにも離れるわけには・・・いかないんです」

詩架のその言葉の終盤に至ってはフェリーの汽笛の轟音にかき消されかけていた。

突然離れると言い出した詩架にも大して驚かずにずっと下を向いているアンジェリカを見て、男性は言った。

「お前は、知ってたんか?」

その言葉にコクリとアンジェリカが頷くのを見て、男性は被っていた帽子をクシャリと握りつぶした。

「仕方ねぇ。お前がそう決めたんならいいだろう。そんかわし、死ぬなよ。」

既に乗る人は全員乗っているために人がまばらになりつつあるフェリー乗り場で、男性と詩架は約束をした。

(守れる・・・気はないけどな)

最終通告といわんばかりに三度、同時にフェリーは汽笛を鳴らす。

「詩架・・・っ!」

耐え切れなかったといわんばかりにアンジェリカは、接地したフェリーから詩架へ抱きついた。

「死なないでね・・・っ!」

「・・・あぁ、死なないさ。」

人間とはあまり深くかかわりを持たないようにしよう、と思いつつ傷の世話、更には食事までくれた彼等にはそれなりの恩がある。

ある種の感慨を感じながら、くしゃ、と頭を撫でると、アンジェリカは満足したようにフェリーに戻った。

「じゃあ、またな。」

そう言って笑う男性が差し出した手を、握ることは。

出来なかった。

ゴツン、という妙な音がしたかと思えば、そこには透明の壁が広がっていた。

「ん・・・?」

何が、と頭を埋め尽くす疑問符を解消するまえに、詩架は男性の表情に驚くこととなる。

目を剥いて詩架の背後を見つめる男性のその視線の先には。

真っ黒に染まる空があった。

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