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過去篇 第三節:第一の犠牲

「まだ・・・帰ってない・・・?」

呆然と放ったその由佳がポトリと落としたハンディカメラはそのまま転がり川へと落ちてそして流されていった。

まるでその先の彼女達のことを予兆しているかのように。


****


「クソッ!」

ドッと飛んでくる影に対して木の枝で応戦するが対応仕切れる気がしない。数が多すぎる。

まだ敵の質量がないのか、一撃一撃が軽いのが幸いか。

「詩架!」

詩架に守られるようにして詩架の後ろに座る鈴は脚に傷を負っていた。

(最初にあいつに傷をつけたやつはどいつだ・・・っ!)

必死に視線を動かして周囲を確認するがどれも同じようなフォルムのみで見分けはつかない。

(このままじゃやられる・・・っ!)

前後左右から迫る影の剣を鈴の分までさばくのは既に人間離れした技だった。

しかし超人離れした詩架にも限界は訪れる。

スッと糸を引くように詩架の体に傷が走る。

「ぐっ・・・」

パッと熱い線でも当てたように焼け爛れるような痛みが背中に走る。

「しくった・・・・っ!」

振り向きざまに背後にいる影を追い払うが更に背後からの攻撃に今度は右腕を貫かれる。

「い・・・・てぇなぁああああああ!」

ブン!と空気を裂きながら一回点する木刀をかわすように影の集団はサァッと後ろに下がる。

(ちくしょうどーなってんだこの超常現象共が・・・ふざけやがって・・・)

ハァハァと肩で息をする詩架を気遣ってか、鈴が声を荒げる。

「私のことはもういいから!逃げてよ!」

「うるせぇ、お前はいいかもしれねーけど悠介の野郎があいにくお前の事が好きでな・・・悪いが出来ることなら死なせたくねーんだ」

スッ・・・と息を一瞬で整えて自分の中の恐怖という感情を拭い去る。

が。

しかし人間が初見で対応できる相手ではなかった。

それは呆気なく。

とても呆気なく訪れた。


ド、ス、と聞きたくない音が詩架の耳一杯に広がった。

それは自分の体から発せられた音ではなく、自分のそばの体から・・・いや、自分の目の前にある体から発せられた音だった。

「え・・・?」

既に満身創痍だった詩架は意味が分からないといった様で目の前の光景を呆然と脳に焼き付けた。

まだ、影だけならばまだ、対応できた。しかし。

急に乱入してきたキツネ型の大きな影、眼前に迫る口、そして本来ならば食われるはずだった俺をかばってかわりに加えられた鈴。

何故かその光景を見た瞬間に恐れが再び鎌首をもたげてきた。

ギチ、と食べられた鈴がこちらへ顔を向ける。

それは苦痛に表情が歪んでいて、そして彼女は口だけを動かしてこういった。

し ね

その言葉を自分に向けられて言われたと把握した瞬間に、詩架は何かが自分の中で崩れるような音がしたのを感じた。


そして視界は一転した。


「アアアアアァアアアァァァァァアアアアアア!」


****


バサリと盛大な音を立てて茂みが揺れ、そしてその茂みから一人の人間が転げ出てくる。

それが詩架か鈴のどちらかだと気付いたリリはすぐさま駆け寄って詩架に声をかけようとした。のだが。

自然に付けられたとは思えない詩架の体に刻まれた無数の痛々しい傷と、さらに鈍い銀色の光を放つ右目がリリの言葉を奪った。

「に・・・げ・・・ろ・・・」

ゲホッと詩架が血を吐き出したことに弾かれるようにしてリリは今出来る事で最善であろうことをやろうとした。が。

それすらも阻まれる。

ぬ、と現れた巨大なキツネは。

心なしか邪悪な顔をしていたように思う。


****


「いいから逃げろっ!」

キツネと相対しながら詩架はそう叫んだ。

その言葉通りに仲間達は逃げる。

ここで仲間達を責めるのはあまりにも酷というものだろう。

なぜなら既に右目のことで恐怖の対象へと成った詩架と、本物の化け物のキツネが相対しているのだ。

助ける助けない以前に、その場に存在してはいけない気すらするだろう。

仲間達があっさりと逃げたことにすこしがっかりしながらもキツネのほうへ向き直って先ほどの影の攻撃で鋭利になった木の枝をしっかりと握る。

「お前は・・・・・・っ!」


「ゆるさねぇっ!」

詩架がそういうのを合図に戦闘は始まった。

(奴のスピードは正直今の俺が追いつけるレベルのもんじゃねぇ。つまり避けることはできねぇってこった)

スッ、と剣を水平に構えると、キツネがいつ来ても対応できるように五感を研ぎ澄ませる。

(となればやることは一つ。)

ドッ!と小石を蹴散らしながら突進してくるキツネと同じ進行方向へ軽く飛びぶつかったときの衝撃を和らげるようにして回避行動をとる。

「受け止めてそして・・・っ!」

グッと腹に力を入れて衝撃に構えた次の瞬間。内臓が破裂したのではないかという衝撃が体全体に走る。

あまりの衝撃の強さに意識を手放しかけるがそれを必死に手繰り寄せて左手に持った木刀をそのままキツネの目であろう落ち窪んだところに突き刺す。

「しねえええええぇえぇぇぇえぇぇええええええええええええ!」

両手で渾身の力をもってして突き刺したその攻撃はかなりの大打撃を与えたのかキツネも叫び声を上げながら倒れこんだ。

そこへすかさず飛び乗り、もう一度逆の落ち窪んだところへ思い切り木刀を突き刺してさらに回転を加えて中の肉を抉るようにして突き刺す。

ギャアアアアアという耳を劈くような甲高い声を上げながら暴れるキツネに器用に乗りながら必死に止めを刺すために更に深く、更に深くと突き刺していく。

「これで・・・・・終わりだっ!」

木刀から手を離して止めだとばかりに両手で作った拳で木刀の柄を思い切り押し込む。

するとキツネは断末魔を上げながらやがて動かなくなった。

それを確認した詩架はすこし後ろに歩いてからドサリと腰を下ろして今起きたことに対して何か考えようとするが未だに考えが追いつかない。

分かることといえば。

あの影は動物の中に入ることが出来る。

ただそれだけだ。

あまりの疲れと傷の痛みに意識を失いそうになるが、それを許さない事態が更に襲い掛かる。

ガサ、という音に敏感に反応してそちらへ見てみれば、仲間の断末魔に釣られてやってきた影がゾロゾロとやってくる。

その光景に絶望感を感じながら、必死に生き残る方法を探る。

周囲を見渡して目に入ったのは川だった。

命が助かる可能性があるただ一つの行動だ。

しかし川は同時に傷から大量に血液を持っていき、さらに体温を持っていく。

一か八か。

迷う暇も無く詩架は川の中へと飛び込んだ。

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