過去篇 第一節:巡り廻って記憶を辿り
メディシン・マン<呪術医>は言う。
「恐怖そのものに傷つけられることなどあるものか?
あなたが恐怖に動かされなければ
恐怖はあなたを傷つけることはできないのだ。
みずから恐怖にのみこまれてしまったら
恐怖があなたの主人になる」
あなたが恐怖を支配するか
恐怖があなたを支配するか
いずれにしてもどちらかが主人になる。
―――――ブラックウルフ・ジョーンズの言葉
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フワフワと漂うような浮遊感に全身が包まれる。
あぁ、これは現実じゃないんだな、とすぐに把握できる。明晰夢とでも言おうか。
『お前の知りたいことは何だ?』
「知りたいこと?そりゃあ・・・なんで、俺達がこんなにも色々なことに巻き込まれるのか、ってのはあるよなぁ・・・」
少しもやがかかったように思考が上手く回らない。
『そうか。ならば今一度過去を見直してみると良いかも知れないな因果律、バタフライ効果。言葉では何とでも表せるが何事にも原因と言うものはあるものじゃ。今一度、過去へ戻るがよい』
「ああ・・・」
何故か納得した詩架は、クルリと姿勢を変えて下を見る。
そこには、懐かしい。
とても懐かしい、既にかすれ始めている懐かしい記憶が写っていた。
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「サマーキャンプ!イン!リバーサイド!」
「おー」
陽気にそう叫ぶのは、笠花 鈴。
そのリリの声にやる気なさげに合いの手を入れるのは笠花 リリ。
が、そのテンションの高めの二人とは違ってテンションがなかなかあがらない面々がいる。
理由は様々で、朝が苦手、単純に一人が良い、嫌いな奴がいる。等々。
全く帰ってこない反応に苦笑しながらすぐ近くを流れる川へと近づく。
パシャパシャと水と遊んでいると、背後から琉雨が近づいてくる。
「ねぇ、なんで詩架達も連れてきたの?」
「なんで・・・ってクラスメイトじゃない」
「私が詩架が苦手なのも知ってて・・・?」
「あー・・・まぁいいじゃんいつまでも苦手意識持ってるのも楽しくないよ?」
その鈴の言葉にそうだけどさぁ・・・と困ったように呟きながら鈴の隣に腰を下ろす。
「ま、あんたも変わり者よねぇ。何でわざわざ筑波山なの?」
川でキャンプと言う話ならばもっと良い場所があったろうに。
暗にそう問う琉雨に鈴は答える。
「だってどうせなら私たちが住んでるところで遊びたいじゃない?」
「ふむ・・・私はどうせなら遠く出かけたいなぁ」
「そう?」
「うん」
そんな他愛の無い話をしていると、今度はリリがゼェゼェと息を立てながらこちらへ近づいてバタリと鈴の隣へ倒れこんだ。
「きっつ・・・い・・・・なんで礫さんあんなに強いんですか・・・」
「あぁまた体力勝負したの?」
鈴のその問いに言葉で答える体力も無く、リリは頷く。
最近流行の体力勝負。と言っても今来ている面子の中でも一部しかやっていないのだが。
どんな内容でやっているのか気になって後ろを見てみると、そこには礫と悠介が腕立て勝負をしているところだった。
「どうせ川にキャンプに来たんだから川とかで出来ることで勝負すればいいのにね」
鈴が呆れたようにそういうと、琉雨も呆れて同意する。
「本当よね」
すると二人の言葉を聞いていたかのように、一同の中では一番か二番に小さい氷見が釣竿をもって詩架に差し出している。
「お、詩架さん接触されました」
「どうせ拒否するでしょ?」
琉雨の言葉を聞きながら詩架達の動向を見守っていると、結局由佳と詩架と氷見で夕食の食材を調達するようだ。
「由佳が絡むと詩架弱いわよねぇ」
「本当にねぇ微笑ましくなるわ」
「嫌いなのに?」
「別に存在が許せないほど嫌いって訳ではないわよ」
「あらあらうふふ」
「なにその色々含んでそうな笑い方。嫌な笑い方ね」
「そりゃすいませんね。」
鈴はそういうと、パン、と手を叩いて立ち上がると再び口を開いた。
「私たちも釣りしに行きますか!」
鈴がそういうと、リリと琉雨も賛同しながら立ち上がる。
「ご飯がないのはごめんよ」
「そうそう、頼んだよ琉雨ちゃん」
「え?」
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少し外れたところで釣りをしている詩架達の近くへ寄ると、丁度詩架のひざの上に氷見が乗って釣りの手ほどきを受けているところだった。
さも当然のようにこちらへむいてから再び作業に戻る二人だが見つけた鈴達側としてはなにがどーなった状態である。
「えっと・・・?なんでひざの上?はっまさかあんたたちっ!」
リリが大げさにおどけてみせるが、一方詩架は冷たく返した。
「お前俺が年下と付き合うようなロリコンに見えるのか?」
その言葉に氷見は少しショックそうな顔を見せるがそれを無視して詩架は続けた。
「設置は近くで見せたいし手の動きも見せたい。んならこの形が一番楽だろーよ?」
「まぁそうね」
同じく軽くショックを受けていた琉雨は早くも立ち直ったのか、詩架の隣にたって釣竿を垂らした。
「何だお前俺のこと嫌いじゃなかったのか?」
いやみっぽくそういう詩架に、顔をしかめて琉雨が反応する。
「うるさいわね。せっかく譲歩してやろうかと思ったのに何よ」
「ハン」
琉雨の反撃を鼻であしらうと、出来たぞ、と言って氷見に仕掛けを付け終えた釣竿を持たせる。
小さな氷見に大きな釣竿はかなりアンバランスで、魚がかからなくとも川の流れに氷見が連れて行かれそうな勢いだ。
「お前毎度思うけどちいせーよなぁ」
「うっうるさいな!」
顔を真っ赤にして反抗する氷見を詩架は再び軽くあしらって氷見の仕掛けを川の中に投げ入れる。
「何だかんだいって優しいよね」
「う・・・・・ん?え?」
背後から聞こえた由佳の声に振り向きながら頷いているとそこには予想外な格好をした由佳が立っていた。
水着に銛。
お前はどれだけやる気なんだという突っ込みをする気すら起きない。
「なに?」
由佳が首をかしげると、すぐさまリリが突っ込みを入れる。
「いや『何?』じゃないわよなんでそんなにやる気なのよ」
由佳の疑問にすかさず突っ込みを入れるあたりは流石リリといったところ・・・なのだろうか。
何はともあれ夕飯を確保しないと。
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「やだ・・・なにこれおいしい・・・」
釣った魚にかぶりついた由佳は目を丸くしてそう呟く。
「んだろ?」
腕まくりをしてそう言うのは、意外にも調理が得意ということが分かった礫だった。
「ほんとだ、おいしいわね」
琉雨も同じようにしてそう驚いたように言うと天狗になった礫が鼻を伸ばして答える。
「まぁ、焼き魚は誰でも簡単に作れるからな」
それは褒められたときについ出てしまう謙虚ではない謙虚言葉だったのだが。
「まぁそうだよな」
「そういえばそうね」
「そうだよな」
「そういえば焼き加減見るだけだものね」
その謙虚言葉は思わぬ展開へと会話を持っていった。
「っぷはー食べた食べた、もうお腹一杯ですわぁ」
ごろ、と鈴とリリが揃ってテントのそばにすぐに寝転がることの出来るようにと設置されたやわらかい布団のようなものの上に転がる。
「ほんとこんなに食べたの久しぶりだよー」
間延びした口調でそういう鈴の隣に、笑いながら琉雨と由佳が腰かける。
「二人ともこれでもかってぐらい食べてたわよねぇ」
「ほんとにもうあんた達の胃は四次元ポケットにつながってるのかーっってぐらい食べてたわよね」
「実は鈴の胃は四次元ポケットなんですよ」
リリがそう答えると、リリがその言葉に反応して叫ぶ。
「私の胃は四次元では終わらないわよ!五次元まではいける!」
「ごめん私がふっといてなんだけど何を言っているのか分からない」
リリがテンションの高い鈴にそうぴしゃりと告げると、鈴は少しむすっとしたような表情で黙り込む。
そんな鈴をどうどうと言いながらおとなしくさせると、ふっ、と琉雨は空を見上げた。
「・・・・・綺麗。」
琉雨のその言葉に釣られるようにして、その場に居た全員が空を見上げる。
そこには透き通った綺麗な紅に彩られた空が広がっていた。
「・・・あぁ・・・・綺麗だな」
そう琉雨に同意するように呟いたのは一体誰だったか。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
さぁとうとう始まりました過去篇です。
今回はかなり長くなりそうなので長い目で見てくださると嬉しいです。
長すぎるためにシリーズ設定だけして別で書こうかとも思ったぐらいですよ!
感想・評価ありましたらよろしくおねがいします。




